【コラム】

どこでもサイエンス

116 奇跡的偶然が生んだ天才、マイケル・ファラデー

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19世紀に活躍したイギリスの科学者マイケル・ファラデー(1791年~1867年)は、ノーベル賞クラスの成果を5~6個は上げている天才です。アインシュタインはファラデーの肖像を自分の部屋に貼り、敬意を表していたという逸話もあります。そんな天才ファラデーの生い立ちを知ると、まー、なんというか、奇跡的な偶然が彼を生んだんでございますよ。今回は、学びたい! 研究したい! という人には、社会が支援するのが吉! な、話ですー。

えー、昨今ではネットは無線を通じて使うのがほとんどですね。この無線技術の源は、電磁気のサイエンスでございます。その理論を1865年に作ったのがジェームズ・クラーク・マクスウェルなんですが、その理論を作る土台になった現象を実験で発見していたのがイギリスの天才マイケル・ファラデーです。つまりはファラデーの発見がなければ、ツイッターでつぶやくこともできない、いやテレビもラジオもな…まあ、誰か他の人が見つけたでしょうが…少なくとも科学の歴史が10年とかいう単位で遅れたのではないですかねー。

ということで、ファラデーは電磁気についての発見一つとっても天才で、ノーベル賞級なのでございます。ほかにも、有機化学に登場する「亀の甲」でおなじみベンゼンの発見をはじめ、気体の液化、モーターの基本原理の発見、磁場が光に及ぼす「ファラデー効果」の発見、反磁性の発見など、ノーベル賞クラスの発見を数多くあげている、大天才です。っていうか、有機化学とモーターがなかったら、おい、世の中どうなっているんだいというくらいですな。ファラデーさんありがとうってなもんです。

さて、そんな大天才ファラデーですが、どんな生い立ちかというと、えっという感じです。

えー、まず、比較のためにもう一人の天才マクスウェルはというと、父が弁護士で広大な土地を持つ裕福な家庭に生まれ、家庭教師に学び10歳で中学入学。14歳で論文を書いて神童といわれ、19歳でエジンバラ大学を卒業、ケンブリッジ大学も卒業して25歳でアバディーン大学の教授になったというスーパーエリートです。

で、ファラデーはというと、ロンドンの貧しい鍛冶屋の家庭に生まれ、家庭教師どころか小学校も行けず、自力で食べるために13歳で近所のリボーがやる店に雇われます。この店は本と新聞を売り、製本もするというところでした。ファラデーは使い走りをしていましたが、14歳からは製本職人としての年季奉公に入ります。リボーはファラデーがまじめなので支度金を要求しなかったそうです。そして、21歳まで年季奉公をすることになります。製本の職人としての修業をしていたんですな。まあ、マクスウェルとは大違いですな。

が、ここからがファラデーの奇跡のはじまりでございます。まあ、読んでくださいませー。

ファラデーは、製本の仕事をしながら、本の中身も読むようになります。お客さんからあずかった商売ものですが、リボーはとがめず、応援したようなのですね。さらに、だんだん中身、特に科学に興味をもったファラデーはわずかにもらう小遣いを工面して、実験などをするようになったそうです。場所はリボー家の暖炉の前だったそうです。

さらに、19歳のころ、近所でジョン・テイタムという金工職人がやっている市民向けの科学教室のはりがみをみて、参加したくなりました。わずかな参加費が出せないので兄に出してもらい、教室がある水曜夜は主人のリボーに仕事から外してもらったようです。兄は父の鍛冶屋をついだようで貧しかったのですが、弟のために金を出し、リボーもファラデーに休暇を与え、テイタムも熱心に通うファラデーを認めて仲間として遇したのだそうです。また、この教室を通じて何人かの仲間を得るようになります。

ちなみにファラデーは物忘れが結構ひどく、メモを取る習慣が自然とついたようです。のちにファラデーの実験ノートの精緻さは高く評価されるのですが、しょうがなくやっていたようでございます。

また、リボーの店にはいろんなお得意客がやってきましたが、その中に王立管弦楽団の創設者でもあるピアニストのダンスという名士がいました。熱心なファラデーのことをリボーから聞いた、ダンス氏が、英国王立研究所で行っている高価な科学講座のチケットをファラデーにプレゼントするのですね。

英国王立研究所は現在でも存在していますが、科学講座の売り上げを運営資金にあてていたんです。なんというか今でいえばTEDみたいな感じですが、有名科学者の講座を聴きに大勢の人が高価なチケットを購入しておしかけていたようです。王立といいながら、国からそんなにお金はもらっていなかったようでございます。なので「王立じゃなくて王認というべき」という研究者もいらっしゃいますな。

この王立研究所で、ファラデーは、デービーという当代一流の科学者の講演を聴きます。彼は熱心にノートをとり、それを清書してデービーに贈りました。これでデービーに目をかけてもらえるようになります。

まもなく、ファラデーは職人としての独り立ちができることになり、リボーの店から別の店に移るのですが、そこではリボーのような理解者はおらず、ファラデーはサイエンスしたいー、学びたいという思いが募ります。テイタムの教室の仲間とも相談していたようですな。

で、ここで運がいいことにデービーの助手がクビになったので、代わりにファラデーが雑用係として住み込みで雇われることになるのです。ファラデーは実験の雑用から、助手として認められ、さらには自分で実験をして発表して、それが認められという感じになっていきます。そのうちデービーには疎まれるようになるのですが、そのころには名声が知られるようになり、科学者としてやっていけるまでになったのですな。

そして、モーターやらベンゼンやら電磁気学やらの発見が、世の中に出るようになるというわけでございます。

それにしても、学歴なしのファラデーが大科学者になるためには、まずはリボーのところで本が読め、リボーがファラデーを応援したこと。テイタムが市民講座をやっていて、その参加費を兄がだしてくれたこと。市民講座で仲間を得、応援してもらったこと。ファラデーが忘れっぽいのでメモ魔となったこと。リボーの店のお得意のダンス氏が王立研究所の講座のチケットをくれたこと。ファラデーが清書や製本の技術をもっていて、それが講座のデービーに認められ、のちに王立研究所にファラデーを雇ったことなど、まあ奇跡的な幸運の連鎖があったからとしかいいようがありません。

なかでも、貧しい彼に学問はいらないとか、自分で稼げとか、商売ものに手を出すなとかいわずに、応援したリボーほか周囲の人たちの手助けが決定的です。また実力を認めたデービーやテイタムも人物だったわけですな。

ともかく、学びたいという人には、支援に出会うようにすれば、これからもファラデーのような人がでて、私たちに科学を楽しくしてくれるにちがいないと、そう思うわけでございます。

ちなみに、ファラデーはデービーの後に王立研究所で実験講座をするようになります。非常に人気であり、科学の楽しさを多くの人に広めました。彼は講演の達人であり、そのプレゼンについての書籍もでているんです。内容は、「つかみが大切」「ビジュアルを活用、実験をやれ」「原稿よみながら話すな」など、今でも通用するものでございます。

なかでも、ファラデーが育てたともいうべき、王立研究所の少年少女向けのクリスマスレクチャーは1825年からいまでも続いており、当代一流の科学者が講座に上ることで有名です。日本でのファラデーにとってのダンス氏のような存在は、某新聞社がやっているようでございます。

ファラデーによるクリスマスレクチャーの様子 (出所:Wikimedia Commons)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。

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インデックス

連載目次
第116回 奇跡的偶然が生んだ天才、マイケル・ファラデー
第115回 ダークマターすこしばなし
第114回 月の地名のまめちしき
第113回 アップル…いや、グレープコンピュータ
第112回 太陽フレア、とりあえず知っとく?
第111回 土星を巡って13年 - 土星探査機カッシーニ・2017年9月15日に最後の日(後編)
第110回 土星を巡って13年 - 土星探査機カッシーニ・2017年9月15日に最後の日(前編)
第109回 世の中を変えた発明、なんでしょう。
第108回 ハイテク素材と赤い炭
第107回 8月7日(月)深夜・月食を見よう!
第106回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その2
第105回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その1
第104回 予言者? ジュール・ヴェルヌ
第103回 幻の毎日新聞プラネタリウム館 - 東日(毎日)天文館
第102回 地球は、どう、動いてる?
第101回 アインシュタインの方位磁石 - サイエンスな人の一品
第100回 アストロバイオロジーって、何それ、オイシイの?
第99回 太陽はスゴイ? - 成績発表会
第98回 実験装置、見たい?
第97回 地図と星は仲がいい
第96回 山が変える惑星の模様
第95回 ほとんどの星は爆発しない
第94回 それも「バラ科」ですか……!?
第93回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その2
第92回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その1
第91回 流れ星を見つけるコツ
第90回 コピー機の発明について、調べてみたよ
第89回 いにしえの中国やインドの宇宙
第88回 「火星の呪い」が発動
第87回 来年のノーベル賞予想ごっこ
第86回 天文学研究のため、レンジは使わないでください
第85回 カフェでリア充、科学者ハレー
第84回 お月見の日は、どう決まる?
第83回 たまご、熱すると固まるナゾ
第82回 8月12日のペルセウス座流星群と黒い彗星
第81回 絶滅のサイエンスとリョコウバトとウナギ
第80回 ジュノー探査機、木星到着
第79回 「ニホニウム」で知ったかぶりをするための知識5連発
第78回 2016年の「宇宙どうでしょう?」 (下半期)
第77回 増やせばワカルDNA - 「PCR」のお話
第76回 宇宙人を探すなんて、できるの?
第75回 海がない国 スイスで生まれた深海潜水艇
第74回 とりあえず春は、北斗七星。
第73回 くらべてワカル!? 宇宙の世界
第72回 さくらが春に咲くのは、寒さを越えるプログラムがあるから
第71回 ひさしぶりの日食のお知らせ - 日本は2016年3月9日午前11時前後
第70回 「重力波」つかまえました
第69回 春のこよみのサイエンス
第68回 火星をざっくり知っておきましょー
第67回 冬はハワイが近い!? - ジェットストリーム
第66回 2016年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第65回 年間最多の流れ星が見える! 12月14日夜はふたご座流星群
第64回 毒についてチョット調べてみました
第63回 凧とかみなり、フランクリン
第62回 はやぶさ2も見られるの?? 人工衛星を見るはなし
第61回 ノーベル賞をゲットしたニュートリノ探知装置
第60回 科学者が、虹遊びをすると…
第59回 日本人は、元素の名づけ親になれるか!?
第58回 数字のケントーをつける話=フェルミ問題
第57回 「星の名決定」総選挙に参加できるぞ!
第56回 夏休み、おてがるサイエンス
第55回 冥王星に接近しました
第54回 硬い冷たいダイヤだよ
第53回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(下半期)
第52回 潜水艦を発明した愛すべきおっさん
第51回 冥王星まめちしき10連発(ビフォー編)
第50回 ジュラ紀とかエディアカラとか、実はローカルな地名ばかりの地球の歴史年代
第49回 夜空の神2共演 - 金星と木星が接近するぞ!
第48回 キャンディをかむと光るのは本当か?
第47回 2015年4月4日夜9時。むこう3年ない皆既月食をみのがすな!!
第46回 浦島太郎とか双子とかとカーナビなサイエンス
第45回 100万年かけて、あったかいーの
第44回 電話より先に発明されたファックス
第43回 世界の「宇宙窓」から
第42回 圧力鍋は、できそこないのエンジン!?
第41回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第40回 12月13~14日は、年に一番流れ星が多い時期
第39回 はやぶさ2、打ち上げそして旅の友
第38回 これだけ知っとこ、小惑星探査機「はやぶさ2」
第37回 誘導ミサイルとポップコーン
第36回 地球上の生物は推定870万種。実はその9割が発見されていない
第35回 祝・日本のお家芸・青色LEDがノーベル賞
第34回 2014年10月8日夜8時。ゼッコーの皆既月食をみのがすな!
第33回 シロウトにチャンス到来・惑星の名前をつけられるぞ!
第32回 スゴイぜ! 彗星探査機「ロゼッタ」
第31回 天才&変人キャベンディッシュ
第30回 渡り鳥が作るV字型編隊の謎
第29回 やってはいけない!サイエンス
第28回 フロッピーの栄枯盛衰
第27回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その2
第26回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その1
第25回 100円で作れるちょっぴりキケンな科学オモチャ「アストロ・ブラスター」
第24回 5月24日土曜夕方に本当にでるのか!? - 「きりん座流星群」
第23回 いま、サイエンスで一番アツイ? - タンパク質ギョーカイをのぞく
第22回 英国科学雑誌のQ&Aコーナー - そんなに熱くなるなんて…
第21回 2年2カ月に1度のチャンス! - 火星ただいま接近中
第20回 科学なパーソナリティ列伝
第19回 今年が寒いのは太陽のせい? - 実は暗い太陽の未来
第18回 日本に降る雨は「だいたい雪」、だそうです
第17回 どこでもサイエンス-チョコレートは惚れ薬?
第16回 江戸時代からある「クローン」
第15回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編
第14回 謎実験 - ニュートンビーズ
第13回 12月14日はふたご座流星群の日! - サクッとわかる観察ポイント
第12回 新月が出たぞという意味の「カレンダエ」からはじまった「カレンダー」
第11回 気持ちよく歌えるエコーのおはなし
第10回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(後編)
第9回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(前編)
第8回 ただいま接近中 ‐ アイソン彗星
第7回 信号ひとつは70ワット - 交通信号機にまつわる科学のはなし
第6回 いますぐ使える「月」の知識11連発(後編)
第5回 いますぐ使える「月」の知識11連発(前編)
第4回 飲める「リトマス試験紙」
第3回 カンタン工作 - 百均虫めがねで「カメラ箱」を作ろう
第2回 8月12日と13日の夜はペルセウス座流星群を観察しよう
第1回 教科書を覗いてみよう - 小学校3年生の理科より「明かりをつけよう」

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