先日「太陽フレア」が話題になりました。人工衛星が故障する? 大停電が起きる? 北海道でオーロラが? などなどいろいろな話題がありましたが、そもそも太陽フレアってなんなのでしょーか? 結構よく起きているこの現象について、とりあえず知っとけば楽しめ(備えられる)知識を集めてみましたー。

さて、太陽フレアです。2017年9月6日に、11年ぶりという大規模なものが起こりました。その様子をとらえたのがこれでございます。NASAのSDO衛星による太陽の画像ですな。

NASAのSDO衛星が撮影した2017年9月6日の太陽の画像 (C)NASA

太陽なのに真っ黒なのは、太陽からのX線放射だけをとらえているからでございます。このX線を発生させるには、強烈なエネルギーが必要(かレントゲン装置のように巧な仕組みが必要)でして、ふだんの太陽だとあんまりそこまでパワーはありません。だからふだんは太陽をX線でとらえると全体が黒いのです。

また、この数日前からの変化をとらえた動画もごらんくださいませ。

MSeptember 2017 Starts With Flare

太陽フレアが起こる場所が、少しずつ移動はするけれども、ほぼ同じところで起こっていることがわかります。

太陽フレアのときには、一部だけから強烈なX線が発生するのですな。そこで大爆発が起こりモーレツなエネルギーが放出されているからなのです。ただ、このX線は地上には届きません。地球大気のしかも上層で吸収されてしまうのですね。そのため、X線で太陽を観測するためには、わざわざ人工衛星をあげなければいけないのです。そうでなくても高高度にあがる気球が最低限必要でございます。

でも、太陽フレアは1859年にキャリントンによって発見されていました。実は、肉眼でもわかることがあるんです。エネルギーの一部は目に見える光でも放出されるからなんですね。公共の科学館などには、太陽の像をリアルタイムに見られる装置がおかれていることがありますが、とても運がいいと、そこに写っている太陽の一部が明るく輝いていることがわかります。京都大学がとらえたフレアがこちらです。

2015年5月に京都大学 大学院理学研究科付属天文台が撮影した太陽の様子 (出所:京都大学 大学院理学研究科付属天文台Webサイト)

ちなみに、写真の左が目で見た様子ですね。右は特殊なフィルターをつけています。その様子も目で見られます。ちなみにキャリントンが見たフレアは、人類観測史上最大だったのではといわれています。

ちなみに、本当にわかるのは数十秒とか数分間程度なので、そのとき、本当にそこに居合わせないとみられない、レアな現象なのです。

また、太陽フレアの影響で、太陽の周囲のコロナガスが大規模に宇宙に吹き飛ばされることがあります。これがCME(コロナ質量放出)といわれる現象です。こちらはさすがに人工衛星でないと観測が難しく、発見は1970年代でございます。これも、動画で見たほうがわかりやすいですな。あ、コロナってのは「王冠」という意味で、太陽を「頭」とすると、真上からみた王冠のように見えるのでそんな名前がついています。ちなみに、メキシコのコロナビールは太陽とは関係なく、王冠つながりでございますな。

How to Read a NASA STEREO Image

太陽の周囲のコロナガスのひろがりからは何かがいつも噴き出していますね。これが太陽風です。コロナのガスは電子やイオン、まあ電気を帯びた粒ですので、これが噴き出すということは太陽風は電気を帯びた風となって宇宙空間にでていくのですね。そして、CMEは、これが突発的に強く噴き出す形となっています。

ということで、太陽フレアについては

  1. 太陽フレア→X線が放出(大気の下の地上には届かず)、強い場合は可視光線でもわかる
  2. (強い)太陽フレア→CME→電気を帯びた太陽風が、太陽系に広がっていく

という現象が起こるのでございます。

ところで、太陽フレアですが、そんなに珍しいできごとではございません。エネルギーが小さな太陽フレアはしょっちゅうおこっています。さっきの画像でもうかがえますな。特に黒点といわれる表面の暗い部分のあたりでおこります。で、そうした小規模な太陽フレアは、CMEを引き起こすほどにならないことがほとんどです。規模と発生頻度は、対数をとるとほぼ反比例の関係になります。ま、でっかいのはおこるけど、たまにってことでございます。

そのでっかいのが起こると、X線が放射され、地上には届かないものの、まあ、大気にまもられていない人工衛星だと、それによって故障がおこることもありますな。また、大気の上層にエネルギーがあたえられて温められますので、その影響もありますな。

また、CMEで太陽風が強まると、なにしろ電気ビームなので、地球の周囲の磁場がみだれたりします。太陽風が原材料になっているオーロラについても、強くなり、北極や南極のより広い範囲で見られ、おこぼれで北海道あたりでも、オーロラの端っこが見られることもあるとされています。今回は今一つはっきりしたのはわからなかったので、影響は限定的だったようですが。ちなみにキャリントンが1859年に観測した人類史上最大のフレアのさいは、カリブ海でオーロラが見られたそうです。

また、電波の伝搬が乱れるので、GPSの精度に影響がちょっと出たようですな(GPSの精度が数時間にわたり落ちた 国土地理院発表)。

今回の太陽フレアは、確かに規模は大きかったのですが、地球への影響は限定的でした。過去には、上空に広範囲に電気がながれたため、広範囲の送電線や変電施設に影響し、大停電が起こったこともあります。火花で無線通信をしていた時代には、それで火災が起こったこともあります。

まあ、あだやおろそかにしてはいけないのでございますが、昨今では、人工衛星が常時太陽を見張っていまして、CMEによる太陽風のパワーアップについては、事前に警報が出せるようになっています。太陽風が届くには2~3日かかることがわかっています。今回も、とどいたのは2日後でした。何事もなかった影には、影響を考慮したなんらかの対応があったのかもしれません。

なお、太陽フレアは大きいものほど、頻度が少ないという話をしましたが、上限についてはよくわかっていません。太陽と同じような星の多数の観測データを解析した京都大学の柴田先生たちのグループは、今回の太陽フレアより、さらに1000倍以上大きな「スーパーフレア」が起こることもありうるという発表をしています。そうしたスーパーフレアは、もしかしたら文明を破壊するパワーがあるかもしれないし、過去の生物絶滅に関係しているかもしれないという発表でございます。

ちょっとほんまかいな、ということなのですが、柴田先生は現在、日本天文学会の理事長をしているほどの、正統派の天文学者なんですね。データに基づいて可能性を指摘したというところでございます。

ところでフレアですが、太陽黒点の周囲で起こることがわかっています。黒点は太陽の中からわきあがってくるエネルギーが表面の磁場で押さえつけられているところなんですね。その周囲はエネルギーが蓄えられやすいので、フレアにもなりやすいということです。

今回も、非常に大きな黒点でフレアが起こりました。まあ、太陽をよく見ていれば、危険を歩い程度回避することはできそうだということは言えると思います。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。