【コラム】

どこでもサイエンス

31 天才&変人キャベンディッシュ

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エジソンは「発明は99%の汗(努力)」と「1%のひらめき」で生まれると言ったそうですが、サイエンスは「大多数の凡人」と「一部の変人」によって進歩します。それがサイエンスの良いところでして、たいていの人は科学者になる素質を持っているのでございます。ただ、やはーり、一部の変人は必要なんですなー。そんな変人中の変人が、イギリス人の大科学者キャベンディッシュでございます。え? 知らん? ぜひ知ってくださいませー。

科学の大発見では「そんなバカな」なことが実証されることがよくありますな。空気に「成分」があったとか、太陽に近い高いところの方が「寒い」とか、光の速度は「どこから見ても一定」とか、常識に照らすとおかしなことが、本当だったってなもんです。

そんな発見をするには、常識にとらわれないで、ものごとを追求する強さが必要なわけですが、これはほぼ訓練次第でございます。あとは、着想力と運があれば、だれでも科学者になれますし、大発見をする可能性もございます。ま、過去の科学の中身を理解する努力と能力は必要ではありますが。

ただ、なかには、どう考えても変人だろうという科学者もおります。人はそれを天才というわけですが、変人ぶりばかりがひたすらきわだつ人もおります。18世紀のイギリス人科学者のヘンリー・キャベンディッシュ(Henry Cavendish)はその極北に輝く大変人なのでございます(笑)。

まず、科学者としてのキャベンディッシュについて、なにやった人なのかあげておきましょう。

  1. 「水素の発見」…これだけでノーベル賞級でございます。
  2. 地球大気で3番目に多い「アルゴン」も発見しています…これも同様。
  3. 「水の合成」にも成功しています。
  4. 「地球の重力の測定」までやっています。

もう、ここまででため息です。あんた何者というくらいの天才ぶりです。

さらに、未発表だった業績もあります。後に研究ノートなどで確認されたのですが

  1. 「ヒ素の発見」。
  2. 「クーロンの法則」の発見。これは電気バージョンの万有引力の法則みたいなものですな。
  3. 「オームの法則」の発見。電流と電圧と抵抗の関係でございます。
  4. 「シャルルの法則」の発見。理想気体のふくらみ方が、圧力一定なら、温度によるって法則

これに「ボイルの法則」=圧力によるふくらみ方を追加すると、科学の式では3番目くらいに有名でTシャツのデザインにもなる、「PV=nRT」になるのですな。

これらは、彼が発見したのに発表しなかったので「キャベンディッシュの法則」といわれていませんが、記録から彼が発見していたことはあきらかでございます。教科書を3回書き換えるような業績でございます。

ノーベル賞は20世紀になって誕生したので、彼は当然ながら受賞していないのですが、もしあれば5つか6つはとっていただろうという、とてつもない科学者です。実際、世界トップクラスの名門校のケンブリッジ大学の物理学講座は「キャベンディッシュ研究所」という名前がつけられています。彼の親戚が寄付したこともあるのですが、もちろん彼を記念してつけられたのでございます。この研究所からは30人近くのノーベル賞学者がでています。ちなみに、キャベンディッシュはケンブリッジ大学「中退」です。卒業生でないのにこの栄誉。まあ、タモリさんも1年あまりで、早稲田大学中退ですが、早稲田大学「出身者」として顕彰されているようなもんですな(違)。あ、これは当時はそんなに珍しいことではなかったようですよ。タモリさんじゃなくて、キャベンディッシュの中退ですけれども。

さて、タモリさんは、学業ではなくタレントとして生きていったからよいとして、大学を途中でやめてどうしてキャベンディッシュが学者として業績が残せたか? という問題がございます。

ひとことでいえば「大金持ちだったから」にほかなりません。彼の家は、イギリスの「名誉革命」を起こした超名門、デボンシャー公爵の家なのですね。そしてものすごい資産家です。イギリスの貴族には往々にある話です。あ、そこで興味なくしたアナタ、ちょっとまってくださいませー。

父親も趣味的研究者であり(でも一流の研究者だった)、自宅(というか別荘に)自前で研究室をかまえられたのです。彼は父親の引きで、一種の学会である王立協会で、論文の発表を行います。それも「完成度が完璧」な論文しか出さなかったそうです。寡作な人気作家みたいなものですね(だから違)。

さて、ここからが彼の変人ぶりです。彼は極度の人見知りだったらしいのですな。どれくらいイヤだったかというと、お金持ちですから、使用人もいるわけですが、使用人とは顔をあわせなかった、というのです。食事のリクエストはテーブルに紙に書いておいておき、使用人がセットアップして去ってから食べたのだそうですね。父親と一緒に研究をしていたのだから、まったくの人間嫌いではなかったようですが、超シャイというのが正しいのでしょう。また、彼は徹底していて、うっかり使用人が姿をみせるのが続くと、その人を解雇してしまうくらいだったそうです。

さらに、その料理も基本的に羊の肉しか食べなかったそうです。イギリスの羊男とよばれるくらいですな。生活は質素で、莫大な資産のごく一部を研究と生活に使い、あとはほとんど手つかずだったそうです。ただ、慈善の寄付などはよくしていて、面倒だからと寄付リストの一番高い人と同額にしていたという話も残っております(それをカモられて、ニセのリストを見せられることもあったらしい)。栄誉はのぞまず、贅沢ものぞまず、ただ人に隠れるように好きな科学と最低限の努めは果たしてくらしていたんですなー。

研究会でも、人とほとんど話さなかったそうですな。すごく機嫌がいいと、興味をもったことにたいしてそばにいる人にボソっと話すこともあったようですが、そうすると周囲はキャベンディッシュの言葉を聞き漏らすまいとなったそうなのですね。

イギリスでは、超一流大学の物理の代名詞になっているようなキャベンディッシュ。ニュートンに比肩する科学の巨人ととらえられています。が、日本ではおどろくほど知られていません。なんとなくかっこいい名前ですし、ここまでキャラが立っていたら、ドラマとかになったらおもしろいのになーと思いながら、この話はとりあえずおしまいなのでございます。ごきげんよう。さようなら。

ヘンリー・キャベンディッシュ(Henry Cavendish) (出典:Michigan Technological University Webサイト)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。

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インデックス

連載目次
第98回 実験装置、見たい?
第97回 地図と星は仲がいい
第96回 山が変える惑星の模様
第95回 ほとんどの星は爆発しない
第94回 それも「バラ科」ですか……!?
第93回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その2
第92回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その1
第91回 流れ星を見つけるコツ
第90回 コピー機の発明について、調べてみたよ
第89回 いにしえの中国やインドの宇宙
第88回 「火星の呪い」が発動
第87回 来年のノーベル賞予想ごっこ
第86回 天文学研究のため、レンジは使わないでください
第85回 カフェでリア充、科学者ハレー
第84回 お月見の日は、どう決まる?
第83回 たまご、熱すると固まるナゾ
第82回 8月12日のペルセウス座流星群と黒い彗星
第81回 絶滅のサイエンスとリョコウバトとウナギ
第80回 ジュノー探査機、木星到着
第79回 「ニホニウム」で知ったかぶりをするための知識5連発
第78回 2016年の「宇宙どうでしょう?」 (下半期)
第77回 増やせばワカルDNA - 「PCR」のお話
第76回 宇宙人を探すなんて、できるの?
第75回 海がない国 スイスで生まれた深海潜水艇
第74回 とりあえず春は、北斗七星。
第73回 くらべてワカル!? 宇宙の世界
第72回 さくらが春に咲くのは、寒さを越えるプログラムがあるから
第71回 ひさしぶりの日食のお知らせ - 日本は2016年3月9日午前11時前後
第70回 「重力波」つかまえました
第69回 春のこよみのサイエンス
第68回 火星をざっくり知っておきましょー
第67回 冬はハワイが近い!? - ジェットストリーム
第66回 2016年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第65回 年間最多の流れ星が見える! 12月14日夜はふたご座流星群
第64回 毒についてチョット調べてみました
第63回 凧とかみなり、フランクリン
第62回 はやぶさ2も見られるの?? 人工衛星を見るはなし
第61回 ノーベル賞をゲットしたニュートリノ探知装置
第60回 科学者が、虹遊びをすると…
第59回 日本人は、元素の名づけ親になれるか!?
第58回 数字のケントーをつける話=フェルミ問題
第57回 「星の名決定」総選挙に参加できるぞ!
第56回 夏休み、おてがるサイエンス
第55回 冥王星に接近しました
第54回 硬い冷たいダイヤだよ
第53回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(下半期)
第52回 潜水艦を発明した愛すべきおっさん
第51回 冥王星まめちしき10連発(ビフォー編)
第50回 ジュラ紀とかエディアカラとか、実はローカルな地名ばかりの地球の歴史年代
第49回 夜空の神2共演 - 金星と木星が接近するぞ!
第48回 キャンディをかむと光るのは本当か?
第47回 2015年4月4日夜9時。むこう3年ない皆既月食をみのがすな!!
第46回 浦島太郎とか双子とかとカーナビなサイエンス
第45回 100万年かけて、あったかいーの
第44回 電話より先に発明されたファックス
第43回 世界の「宇宙窓」から
第42回 圧力鍋は、できそこないのエンジン!?
第41回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第40回 12月13~14日は、年に一番流れ星が多い時期
第39回 はやぶさ2、打ち上げそして旅の友
第38回 これだけ知っとこ、小惑星探査機「はやぶさ2」
第37回 誘導ミサイルとポップコーン
第36回 地球上の生物は推定870万種。実はその9割が発見されていない
第35回 祝・日本のお家芸・青色LEDがノーベル賞
第34回 2014年10月8日夜8時。ゼッコーの皆既月食をみのがすな!
第33回 シロウトにチャンス到来・惑星の名前をつけられるぞ!
第32回 スゴイぜ! 彗星探査機「ロゼッタ」
第31回 天才&変人キャベンディッシュ
第30回 渡り鳥が作るV字型編隊の謎
第29回 やってはいけない!サイエンス
第28回 フロッピーの栄枯盛衰
第27回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その2
第26回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その1
第25回 100円で作れるちょっぴりキケンな科学オモチャ「アストロ・ブラスター」
第24回 5月24日土曜夕方に本当にでるのか!? - 「きりん座流星群」
第23回 いま、サイエンスで一番アツイ? - タンパク質ギョーカイをのぞく
第22回 英国科学雑誌のQ&Aコーナー - そんなに熱くなるなんて…
第21回 2年2カ月に1度のチャンス! - 火星ただいま接近中
第20回 科学なパーソナリティ列伝
第19回 今年が寒いのは太陽のせい? - 実は暗い太陽の未来
第18回 日本に降る雨は「だいたい雪」、だそうです
第17回 どこでもサイエンス-チョコレートは惚れ薬?
第16回 江戸時代からある「クローン」
第15回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編
第14回 謎実験 - ニュートンビーズ
第13回 12月14日はふたご座流星群の日! - サクッとわかる観察ポイント
第12回 新月が出たぞという意味の「カレンダエ」からはじまった「カレンダー」
第11回 気持ちよく歌えるエコーのおはなし
第10回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(後編)
第9回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(前編)
第8回 ただいま接近中 ‐ アイソン彗星
第7回 信号ひとつは70ワット - 交通信号機にまつわる科学のはなし
第6回 いますぐ使える「月」の知識11連発(後編)
第5回 いますぐ使える「月」の知識11連発(前編)
第4回 飲める「リトマス試験紙」
第3回 カンタン工作 - 百均虫めがねで「カメラ箱」を作ろう
第2回 8月12日と13日の夜はペルセウス座流星群を観察しよう
第1回 教科書を覗いてみよう - 小学校3年生の理科より「明かりをつけよう」

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