『龍が如く』、『龍が如く2』、『龍が如く見参!』、『龍が如く3』、『龍が如く4』と、新作がリリースされるたびにヒットを続けているセガのアクションアドベンチャーゲーム『龍が如く』シリーズ。このシリーズの特徴は、1年間という短いインターバルで新作がリリースされ続けていることだ。この異例ともいえるハイペースで継続しているシリーズに、バトルモーションチーフとして制作に携わっているリードデザイナー・反町孝之氏に話を訊いた。

セガのリードデザイナー・反町孝之氏

――まず、『龍が如く』シリーズの映像制作において"バトルモーションチーフ"という役職がどういった役割なのか教えてください。

反町孝之(以下、反町)「『龍が如く』シリーズの映像制作は、大別してドラマシーンの制作とゲーム内のキャラクターモーションに関する部分の制作に分かれます。私が担当しているのは、キャラクターの動きを制作するいわゆるゲームモーションという部分です。そのなかでも特にバトルでの動きをメインで制作しています。また、ゲームプランナーとともに新しい技を考えたり、プログラマーを含めてどのようにバトルシーンを面白くするかを考えています」

――『龍が如く』シリーズの制作スケジュールを教えてください。

反町「このシリーズはゲーム業界の中でも極めて特殊で、毎年新作を発表しているので、普通で考えると異常なスケジュールなんです(笑)。4月、5月くらいにパートリーダーが中心となってゲーム内容を話し合いながら制作をスタートし、1年間という制作期間のうち、後半は様々なチェックに入りますから、実質デザインソースを作るためにかけられる期間は7~8カ月くらいですね。『龍が如く』シリーズは、毎回ほぼ同じメンバーで制作していて意思統一が十分に行われており、様々な部分での決断がスピーディーに下せるので、この限られた制作期間で制作できている部分もありますね」

――映像を制作する際に使っているツールを教えてください。

反町「キャラクターの動きを制作する場合は、SOFTIMAGEの『XSI』、背景にはAutodeskの『3ds Max』を使っています。また、このふたつのソフト間でデータをうまく行き来できるようにしています」

――ゲームには、シューティングやアクションなど、様々なジャンルがあり、それによってCGの使われ方や役割も変わってくると思うのですが。

反町「ゲームに限らず、映像デザインのなかで動きを作る分野はやや特殊だと思うんです。特にゲーム内の動きとなると、もはやデザインというよりプログラムに近いイメージになります。例えば『このフレームで、このモーションのタイミングで作るとかなり爽快感が得られるね』といった、レスポンスを考えながら作るところがあります。なので、通常のキャラクターデザインとは少し変わってくると思います。映像制作のベースは共通ですが、各ゲームソフトの方向性によって、求められる動きだったり、コンセプトも変わってきます」

――『龍が如く』シリーズの映像制作で、特に注力しているポイントはどういったところでしょうか。

反町「『龍が如く』シリーズは人間モーションが多いので、ユーザーの操作感とキャラクターの動きがうまくシンクロするよう特に気をつけますね。バトルモーションに関していえば、できるだけユーザーが爽快感を得られるように心掛けています」

『龍が如く4 伝説を継ぐもの』のバトルシーン

(C)SEGA

――『龍が如く』シリーズでは、実在する俳優や女優をゲーム内に登場させることも特徴のひとつです。オリジナルキャラクターと実在する俳優さんのキャラクターとでは、映像制作時にどういった違いがありますか。

反町「基本的なキャラクターの動きは、実際にモーションキャプチャーをとりそのデータを基に動きを作っていくのが主流ですが、実在する俳優さんのキャラクターの動きを作る場合は、俳優さんのイメージがあるので、動き自体を想像しやすいというメリットがあります。一方、オリジナルキャラクターに動きをつける場合は、まずキャラクター設定を熟知して、キャラクターのイメージを膨らませてから作り込んでいくという部分で違いがあります」

――バトルモーションの制作で特に難しいのはどういったところでしょうか。

反町「普通の人間にはできない動きを、いかに説得力のある動きとして、ユーザーに見せることができるかということですね」

――"CG制作"と聞くと、映画の映像制作をイメージする人もいると思うのですが、映画とゲームのCG制作の違いはどういった部分だと思いますか。

反町「映画は完全にレンダリングされた画であるのに対し、ゲームは計算処理して表示された世界がリアルタイムで動くという点ですね。また、ゲームの場合はデータ容量に制約があるので、そのなかでどれだけの表現ができるのかといった部分も大きく違う点だと思います」

――反町さん自身は映画のCG制作などにも興味はありますか。

反町「正直興味はありますね。映像業界を目指した理由も、映画の映像制作がしたいという想いからでした。でも、今はゲームの映像制作にハマっていますね。私自身はあまりゲームをやる方ではないのですが、ゲームを作る楽しさが分かってくるにつれてそれをどんどんと追及していっている感じです」

――世の中では、3D立体映像に注目が集まっています。今後、ゲーム業界にもこの技術は浸透していくと思いますか。

反町「すべての作品が3D立体映像になるとは思いませんが、これから、ゲーム業界にも3D立体映像を使った作品が出てくると思います。ただ、CGを使って、あえてアナログ的な表現をすることにより面白い表現になる場合があるように、リアルな映像を作り出すだけがCG表現だとは考えていません。それと同様に、3D立体映像も数ある映像表現のなかのひとつになっていくのだと思います」

――最後に『龍が如く』シリーズの制作に携わってきたクリエイターから見た『龍が如く4 伝説を継ぐもの』魅力を教えて下さい。

反町「一言では言い表せないですね。ただ、ゲームを1年間に1本程度しかやらない方でも、コアなゲームファンの方でも、色々な人に楽しんでもらえるゲームであることは間違いないと思います。私は、この作品のデザイナーですが、それ以外にもプランナーやプログラマーなど、色々な人が制作に関わっており、それぞれ自分たちが関わるのはゲームの一部分なんです。ですので、1本のゲームとして『龍が如く』が完成し、検証してみると、自分たちでも制作時に感じなかった新たな楽しみ方が出てきたりするんです。そういった意味でも、この作品は企画段階で考えていたもの以上の広がりをみせているゲームであると思います」



切磋琢磨する仲間に出会えたことが一番の宝

今回お話を伺った反町氏は、デジタルハリウッドの卒業生だ。反町氏がデジタルハリウッドに入学して良かったと思う点はどういったところだろうか。

フルCG長編アニメーション映画『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~』でCG助監督を務めた多家ちゃんとかも同期だったのですが、とにかく"ここ(デジタルハリウッド)を卒業したら絶対映像業界で働くんだ"と考えている生徒が多く、みんな必死で映像制作を学んでいました。そのため、同期の間でもいい意味でのライバル意識みたいなものはありましたね。そういうお互いに切磋琢磨できる仲間に出会えたことが一番良かったですね」

撮影:石井健