今回のテーマは「半導体」だ。

「半導体」という言葉を聞いたことはある。だが意味は当然知らないし、知ろうと思ったこともない。

まず、電気を通しやすい銅などが「導体」、まったく通さないのがゴムなどの「絶縁体」、そしてその中間が「半導体」だそうだ。割と単純な話である。その性質を利用し、「半導体」は私たちの周りのありとあらゆる電気製品に使用されている。完。

とてつもない飛躍をしたように感じるかもしれないが「半導体とは」でググッても、大体そういう説明なのである。だが、これは途中で面倒臭くなったわけではなく、私のような人間に半導体を説明するとき、理解できなさそうな部分を全部排除した結果、「半導体は電気を通したり通さなかったりする。そして電気製品に使われまくっている、以上。お前はそれだけ覚えとけ」になったのだと思う。

よって「なんで半導体がそんなに電気製品に使われてるんだ、説明責任を果たせ」と言って、実際に説明をされたとしても、始まって30秒ぐらいで「今日はこのへんにしといたるわ」と退室するに決まっている。

ともかく、半導体は、条件によって、電気を通さなかったり、通したりする、その条件を細かく設定することにより、色々ヤレるということらしい。

スマホの歴史は半導体の歴史

さらに半導体というのはとても小さい世界で、小さければ小さいほど、少ない力で動かせるので省エネになる。そして、何より、機器そのものを小さく出来る。

今お手元にあるスマホを見てほしい。もしみかん箱大なのだとしたら、それはみかん箱だと思う。程度の差はあれ軽くて薄いだろう、ポケットに入らないということはあまりないはずだ。幅は足りているのに入らないとしたら、それはポケットではなくただの穴なので、それ以上広げない方がいいし、スマホは絶対入れるな。

これだけコンパクトなのにもかかわらず、一日を簡単に無為にできるほどの多機能が搭載できているのも半導体のおかげだ。

昔、携帯電話はセカンドバックよりもでかかった。それが今では、汚いカバンの中に入れたら、中身を全部出さなきゃ見つからないほど小さく、かつ省エネになった。つまり、携帯電話の進化はそのまま半導体の進化の歴史と言っても過言ではないかもしれない。

このように、ありとあらゆる電気製品で便利使いされまくった結果、最近では、元の導体と絶縁体の中間物質という意味よりは、その半導体の性質を利用して作られた電子回路のことを「半導体」と呼ぶことが多いそうだ。

人間誰しも一回は「分解ブーム」が来てしまうときがあると思うが、その時、緑色の板に色々細かいものが張り付けてあるものを見たことがあるなら、それのことだ。赤くてヌルヌルしたものばかりで緑のものなどなかった、という場合は、バラしたものが電気製品以外のなにかだった、ということなので、早めに所定の場所へ出頭してほしい。

そう言った意味での半導体の歴史は、1874年に行われた整流器の発明まで遡るらしい。相当昔からすでに使われていたのだ。

研究者はすごい。何がすごいって、すごいことを発見するのがすごい。さらに、私のような人間に説明したってビタイチわからないだろうその難しい発見を使って、スマホなど、理屈や仕組みなど1ミリもわかってない奴でも指一本で操作できるものを作ってしまう開発者もすごい。

逆に言えば、「発見」というのは、バカが使えるようになってはじめて「世紀の大発見」なのかもしれない。

人が学ぶために必要なもの

半導体の歴史を調べている途中、「1947年 ベル研究所がトランジスタを発明した」という表記を見つけた。これは知っている。トランジスタではない、ベル研究所の方だ。

もちろん科学について調べていたわけではない、テレビ番組で見たのだ、それも科学についての番組ではない、世界仰天ニュースだ。

内容は、そのベル研究所で大規模な論文捏造事件が起きたというものである。一言で言えばスキャンダルだ。私はその回が好きで10回ぐらいは見た。35年間生きていて、半導体にはまったく興味がなかったくせに、それらを研究している所で起きたスキャンダルには前のめりである。なぜ我が国が、他の重大事件を差し置いて、不倫のニュースばかりやるのかが何となくわかる話だ。

偽装が行われた論文というのも、まさに半導体の研究に関するものだった。今、半導体にはほとんどシリコンが使われているが、いつまでもそれじゃ成長がねえ、さらに省エネにするべきだと、有機物を使う研究がされているそうだ。その実験に成功したという虚偽の論文を出した、というのが事件の顛末である。

今回半導体のことを調べたおかげで、よりこの事件のことを理解することができた。

やはり人が学ぶには「興味」が必要である。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年8月22日(火)掲載予定です。