コルタナは「育成中」

コルタナ(Cortana)は、マイクロソフトが開発した「デジタルアシスタント」アプリで、Windows 10やWindows 10 Mobile、最近ではXbox Oneに標準搭載されています。すでに米国ではアンドロイド版の提供も行われています(写真01)。

写真01: アンドロイド版コルタナは、コルタナノートと呼ばれるユーザーの好みを指定した情報を元に推奨ニュース記事などを提示する

アンドロイドユーザー向けに簡単に説明するとコルタナとはGoogle Nowのようなデジタル・アシスタントアプリで、音声による応答が可能なほか、ユーザーの指定によりニュースや近隣情報、天気などを提示してくれます。また、Windows 10では、インターネット検索、ローカル検索のフロントエンドにもなり、たとえば、設定項目の検索やファイル検索などが行えます。

音声入力では、他のデジタルアシスタントと同じく、名前を呼ぶと自動的に起動する機能もあります。iOSだと「ヘイ、シリ」、Google Nowでは「オーケー、グーグル」と日本語と英語が同じなのですが、コルタナの場合英語版は「Hey,Cortana」ですが、日本語版では「コルタナさん」と日本語化されています。ただし、アンドロイド版コルタナは、いまのところ米国向けしかなく、音声による起動にも制限があります。

ちなみにCortanaとは、マイクロソフトの人気ゲーム「Halo」(ヘイロー)シリーズに登場する人工知能の名前です。ゲーム中では、一種の進行役として主人公にヒントを与えるなどの役目を持っていて、イメージとしては女性になっています。アンドロイド版のコルタナは、米国でのみ提供中で、他国からは利用できません。このため、Playストアでは、ユーザーの居住地が米国になっているとアプリをインストール可能ですが、そうでなければ、インストールができません。

もっとも、コルタナは、国などによる違いに大きく左右され、Windows 10でも限定した地域や国でしかサービスが行われていません。また、サービスに関しては、米国のものがもっとも進んでおり、日本などの米国以外の地域では、米国で可能なサービスが利用できないなどの差があります。米国向けに提供されているアンドロイド版コルタナは日本で使っても多くの機能が利用できません。こうした差が生まれるのは、Bingサービス側の地域への対応状況などがあること、コルタナの開発が各国の事情に合わせた形で必要になるため、国によって開発組織に差が出るためです。

各国対応という点からみると、コルタナよりもGoogle Nowのほうが進んでおり、多くの機能を日本語で使うことが可能です。また、文字入力だけでなく、音声による、比較的簡易な文章での質問にも答えることができ、いまのところ「実用」という点では、Google Nowのほうが便利そうです。

しかし、Googleは、年内に、新しいデジタルアシスタント「Google Assistant」をリリースする予定です。これは、新しいメッセンジャーアプリGoogle Allo経由で利用するもので、こちらは、どちらかというと対話的な応答を意識しているようです。コルタナやiOSのシリの対話という部分に追従するためだと思われます。Google Nowも機能的には、コルタナやシリとさほど変わらないし、Now On Tap(ホームボタンの長押しで表示ページに関連した情報をGoogle Nowで検索)のようにシステムとの統合もかなり進んでいるのですが、擬人化というか「キャラ」設定のあるコルタナやシリに比べると、Google Nowは、機能そのままというか、非人格的な作りなので、ある種の「親しみやすさ」に欠けていました。もっとも、コルタナやシリだって、ユーザーの好みもあり、非人格的なGoogle Nowがいいという人もいらっしゃるでしょう。

Cortanaは、当初Windows Phone 8.1用に登場しましたが、Windows 10では、対応するすべてのプラットフォーム用に展開されました。Google Nowと同じく、さまざまな判断などを行うのは、クラウド側(コルタナの場合にはBingサービスクラウド)にあり、ユーザーの許可を得て、カレンダーなどから、ユーザーの行動に対して適切な提案や、音声入力や音声応答を行います(写真02)。コルタナは、検索のフロントエンドとしての役割のほかに、音声入力/応答のフロントエンドとしても動作します。

写真02: 自宅を指定しておけば、現在位置からの帰り道のルートや必要時間などを提示してくれる

Google Nowと違うのは、ユーザーの状態やコンテキストを理解していて、簡単な会話を行うことができる点です。PC上のコルタナでは「××時に打ち合わせを追加して」といえば、カレンダーに登録する項目を示し、音声で登録内容はこれでいいのかと確認してきます。そこで「はい」と答えれば登録は完了です。こんな感じで、コルタナはどちらかというと会話的に操作を進めます。日本語版だと、あまり分かりませんが、英語版だと、もう少し砕けた感じで会話してくれます。ただ、アンドロイド版では、音声で予定の追加を行うことはできるものの、コルタナが提示した予定を確認したのち、「ADD」ボタンを押さねばなりません。PCでは、ここで音声で確認ができます。このあたりがアンドロイド版の残念なところです。もっとも、こうしたあたりがちゃんとできないので英語以外の言語に拡大できないのかもしれません。音声で予定を入力できるのはGoogle Nowでも可能ですが、やはり確認には画面のタップが必要です。

Google Nowは、会話的というよりも、予めユーザーの行動を予測して提案するほうが得意な感じです。たとえば、外出中に近隣の駅の情報などを教えてくれます。カレンダーに登録した予定から、出発時間を提案する機能(写真03)などは、Google Nowもコルタナも変わりません。公共交通機関や自動車などの普段使う交通手段から、カレンダーに登録した「場所」への経路を検索し、そこから予定の開始時刻に間に合う時間を推定してくれます。

写真03: 予定に場所を指定しておくと、現在位置からの経路計算と交通状況の把握などを加味して出発時間や経路を提案できる

いまのところコルタナがGoogle Nowと比べて便利な点は、同じMicrosoftアカウントを使うPC側へ通知を転送してくれる機能です。これには、電話の不在着信(写真04)やバッテリが少なくなってきたときの通知(写真05)などが含まれます。ふだんPCを使っている時間が多いならちょっと便利な機能です。

写真04: アンドロイド側で不在着信があれば、PCのデスクトップ通知で教えてくれる

写真05: バッテリ容量が15%になると、PC側に通知が出る

Google Chromeは、バージョン47まで、通知センター(Notification Center。タスクバーの通知領域のベルのアイコン)があって、Google Nowの通知をデスクトップに表示することができました。しかし、現在では、Windowsでは通知センターは廃止されていて、Google Nowの通知などをWindows側で受け取ることはできません。ただし、Hang Outなどは独自の通知アイコンを持っているため、いままでどおり、Windowsデスクトップで通知を受け取れます。なお、アンドロイドデバイスからの通知を汎用的にWindowsデスクトップで受け取るには、Push Bulletなどのアプリが利用できます。

コルタナは、Windows 10には、標準で搭載されているため、コルタナ自身の通知は、Windows 10でそのまま表示されます。これに加えて、アンドロイドにコルタナをインストールしておくと、Windows 10デスクトップで、アンドロイドからの通知(写真06)を受け取ることができます。ただし条件があり、アンドロイド側からコルタナ以外のアプリの通知を送ることができるのは、Android 5.x(Lollipop)以降に限られ、Android 4.4(Kitkat)にインストールされたコルタナからは、不在着信とSMS受信、低バッテリの通知のみに限られます。これは、アプリに対して通知の可否を制御できるかどうかのアンドロイド側の機能によるものです。アンドロイドは、Android Wear対応でLollipopからアプリが通知を利用することを設定できるようになりました。

写真06: コルタナを使ったアンドロイドからの通知はすべてWindows 10の標準通知となるため、アクションセンターで一括して管理できるのがメリット

また、通知はリアルタイムではありません。アンドロイド側でイベントが発生して、PCに通知が表示されるまで数秒程度の時差があります。電話の着信自体ではなく、着信を取らずに切れてしまった「不在着信」の通知しかできないのは、この時差のためと思われます。時差が出るのは、PCとアンドロイドのコルタナは、ローカルのネットワークで直接通信しているのではなく、インターネットのBingサービスを経由して通知を転送しているからだと思われます。実際、不在着信やバッテリ低下の通知は、PCとアンドロイドが同じLANで接続していなくても行われます。このためにネットワークやクラウド側の状態などにより遅延が発生するのだと思われます。

ざっと使った感じでは、コルタナをアンドロイドにわざわざ入れるメリットはいまのところあまりない感じです。一番の理由は、Google Nowで十分代用可能で、PCのデスクトップ側でアンドロイドのさまざまなアプリの通知がどうしても必要ならば、Push Bulletなどのサードパーティアプリでも対応が可能だからです。また、SNSのようなクラウドを利用したサービスは、特別なアプリを入れなくてもPCでもアンドロイドでも通知が利用できるものが少なくありません。

ただし、コルタナ経由の通知は、Windows 10の正式な通知で行われ、アクションセンターに履歴(写真07)が残り、Chromeブラウザやアプリなどをまったくインストールする必要がない点がメリットといえます。

写真07: アンドロイド版コルタナの通知設定画面。不在着信(Missed Call)、SMS受信、バッテリ低下の通知に加え、Lollipop以上では、アンドロイドアプリからの通知を転送することができ、アプリ個別に転送のオンオフが可能

アンドロイド版のコルタナも定期的にバージョンアップしていて、プレビュープログラムもあるようです。ですが、いまのところPC上の「本家」コルタナでも、日本語版と英語版の機能にまだ差があるなど、「コルタナさん」はまだ「育成中」な感じがあります。