コクヨは11月6日、座っている状態でも体の動きを止めない、揺れる機構を搭載したオフィスチェア「ing(イング)」を11月7日より発売する。

11月6日に行われた「ing」発表会において、スイングする新ジャンルのオフィスチェア「ing」がお披露目された

「ing」の開発背景には、日本人は「座っている時間」が世界的にトップクラスで長い「座りすぎ大国」であるという状況がある。統計から得られる情報だけでなく、国内でも長時間座っていることの弊害が広く知られつつある。そこでコクヨほかオフィス家具メーカー各社では、「立位で作業が行える昇降デスク」や、「立位でミーティングが行えるスペース」の提案を行っており、業界でのトレンドともなっている。

そんな中、コクヨは「座りすぎ大国」解消に対する別のアプローチを行った。コクヨ 代表取締役 社長執行役員 黒田英邦氏は、「"座りすぎ問題"の本質は『座る』か『立つ』かという姿勢そのものではなく、『ずっと同じ姿勢で動かない』ことにある」と、姿勢に揺らぎを持たせるためのオフィスチェア「ing」を発売するに至った経緯を説明した。

日本は、他国と比べてトップクラスの「座りすぎ大国」であるという

立つ・座るという姿勢の変更ではなく、姿勢の活性化という新しいアプローチを提案

このチェアの特徴は、体のこまかな動きに合わせ、360°揺れる「グライディング・メカ」を搭載していること。座面下に前後に動く層と左右に動く層を組み合わせて配置したことで、前傾、後傾、左右、斜め方向へのひねり動作まで追随して座面がスイングする。

「ing」を揺らしている様子。かなりなめらかに体の動きに追随し、スイングする

「グライディング・メカ」が座面下に内蔵されている。自動調節機構を持つため、レバーが既存のオフィスチェアより少ない

肘掛けは全モデル標準搭載。握りやすいよう、先端を太らせた形状になっている

ユーザーが腰掛けることで体格・体重にあわせ自動調整されるため、高機能オフィスチェアではレバーで操作を行うロッキングの強さや座面の奥行きの調節が不要(椅子の高さはレバーで昇降)。通常のオフィスチェアではオプションパーツとなっている肘掛けだが、「ing」の場合はスイング動作を行いやすいよう、全ラインナップにおいて標準装備となっている。

「ing」に座りながらデスクワークを行った実験も複数行っており、このチェアによって心身に良い影響がもたらされたという結果が紹介された。ひとつ例を挙げると、慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター 橋本健史准教授との共同研究では、20代の男女(n=10)を対象に、僧帽筋、脊柱起立筋の筋電位計測による測定を行ったところ、自然に「ing」に座っているだけで、従来品に比べて8割の人の肩の筋肉、5割の人の腰の筋肉が活動していることが確認されたという。

「ing」の身体面に与えるメリット。慶大との共同研究は左上の図にあたる

「ing」の精神面に与えるメリット

実際に座ってみると、動き始めに勢いをつけなくても、座ってすぐにゆらゆらと揺れる感覚があり、動きはバランスボールに近い。こうした動きを実現するため、メカ内にバネを使っていないという。動いた後にはブランコのような揺り戻しが生まれるため、転倒の恐れを感じず揺らすことができる。その一方で、腰がサポートされる感覚もあり、ラクに座れる感覚が得られた。

また、「動く」というコンセプトから周囲の執務スペースにまで体が振れてしまうのではないかと想像したが、体感に反して椅子自体の稼働幅は狭い。製品開発を担当したコクヨ ファニチャー事業本部 ものづくり本部 1Mプロジェクト 木下洋二郎氏によれば、「後ろに倒れる領域は、既存のオフィスチェアと比べて逆に少ないくらいです。椅子が動くからと行って、スペースが必要ということはないです」とのことだった。

カラーバリエーションの中心は、イエローとターコイズブルー。カジュアルなオフィス環境にフィットするような軽やかな色を中心に、ベーシックな茶、紺なども含め展開されている

「ing」の価格は、背もたれの低いラテラルタイプ、背もたれの高いバーチカルタイプがいずれも8万8,000円~(ブラックシェル T型肘・樹脂脚)、ヘッドレスト付タイプが10万8,000円~と、数十万円のモデルがベストセラーになっている機能性オフィスチェアの相場から見て、比較的安価な部類に入る。この価格は、「ひとつひとつの部品からコストを見直し、デザインなどは新規に起こした一方で、これまで開発してきたオフィスチェアのノウハウと材料を活用した」(木下氏)ことで実現されたという。

なお、「ing」は11月7日より、 コクヨのショールームで開催されるコクヨフェアで体験することができる。それに加え、東京都・渋谷で開催される都市型サミット「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」のサテライト会場であるコインスペースへの実験的導入や、渋谷ヒカリエ内にあるコワーキングスペース「MOV」などへの導入が決定している。座ってみたいという人は、この機会に体験してみてほしい。