辛いモノが大好きな筆者にとって、岩手県は憧れの地。ここにはなんだか魅力的な辛いモノのお店がたくさんあるのだ。そのひとつ、盛岡駅から車で10分もかからない、いわて銀河鉄道線青山駅から歩いて15分ほどのところにある「麺極 はなみち」にやってきた。

味噌ら~麺の「トラウマ」(730円)が登場。見た目的にはそれほど邪悪ではない、濃厚でとろみのあるスープ

いつも側にはスコーピオン

はなみちレポートの前に、筆者がどれだけ辛いものを愛してやまないか、と言うことに触れさせていただきたい。自宅ではアメリカから取り寄せたかつての世界最辛唐辛子「トリニダード・スコーピオン(※2011年のギネスブックでは世界一にランク)」を愛用し、コンビニなどで激辛と名の付くものを見かければインスタントラーメンからカレーからとにかくなんでもトライ。市販の"辛いモノ"や多くのお店の"激辛"のほとんどは、スコーピオンにお出ましいただかなければ満足いかないという日々を送っている。

そんな筆者の希望の星になってくれるのか、はなみちをネットで調べてみたものの、いまいち全容がつかめない。辛いラーメンで有名なはずだが、口コミサイトなどではそのことにはあまり触れられていない。本当にこのお店って辛いラーメンがあるのだろうか……と、もやっとしながらのれんをくぐる。

お店の前には駐車場。裏手にも大きな駐車場があるそうで、車で行っても余裕で駐車できそう

迷い生じる魅力的な文言の数々

訪れたのは休日の午前中、そろそろお昼になる頃だ。店内はカウンター席の他、2席のテーブル席がある。子ども用の小さなイスもあり、家族連れも歓迎な雰囲気だ。カウンター席に男性のひとり客が3人と、まだ混んではいない。

まずは販売機で食券を購入。激辛ラーメンというチョイスはなく、普通の「味噌ら~麺」(730円)を購入し、注文時に店主に好みの辛さを伝えるシステムだ。辛さは「アマメ(甘め)」から「サヨナラ」までの8段階用意している。

それぞれには説明もある。「アマメ」は「辛いのが苦手な方!!」、その次の「フツウ」は「ピリ辛程度!!」。3段階目の「カラミマシ」は「自家製辛み入りで結構辛い!!」と続く。4段階目は「シビレマシ」で、山椒をベースとした、中華料理でいうところの「麻」の辛さがここで登場。その次は「ダブル」で「カラミマシ」と「シビレマシ」が両方ということだ。

さらに、ここからが気になるところ。ダブルの次は「ワルフザケ」で、説明には「ダブル+激辛ラー油!!」とあるが、ネーミングからしてやりすぎ感がすでに漂っている。そしてその次が「トラウマ」。説明は「T・スコーピオン・ブッチ・テイラー!!」。辛いモノ好きなら知らないわけがない、先述した筆者も愛用の激辛唐辛子の名が。これ……本気のやつだ。どんな煽り文句よりもはっきり分かる。これ、絶対めちゃくちゃ辛いやつだ。

ここで一気に期待値が上がる。なにしろスコーピオンとともに生活している筆者ゆえ、やつの邪悪な激辛ぶりはよく知っているのだ。友人が遊びに来た時、スコーピオンを入れたケースを開けた瞬間、彼女は咳が止まらなくなっていた。本人も辛いモノ好きを標榜しているのにも関わらず、だ。

テーブルに置かれた調味料セット。生ニンニク、このままラーメンに入れるのだろうか。おいしそうではある

そのスコーピオンを用いたラーメン。辛いモノを食べるというファーストミッションコンプリートは目前だ。最強の一歩手前でここまでテンションを上げたものの、ここはやはり最も辛い「サヨナラ」を注文するべきだろう。その説明文は「なにもかも自己責任!!」。望むところだ。

が、食券を渡しつつ「"サヨナラ"でお願いしま~す♪」とウキウキと注文したものの、スタッフさんから「以前に"トラウマ"を完食なさったことがありますか?」との質問。「いえ、初めて来たので」と正直に申告すると、「申し訳ありません。初めての方にはトラウマからトライしていただいているので……」とのこと。いたしかたない。

辛みは痛覚、を改めて認識

かくして注文した「トラウマ」。やってきたのは赤、というよりオレンジ色で具だくさんのラーメンだ。トッピングにはチャーシューではなくゆで豚、ネギ、胡麻、かなり食べでのあるメンマが載る。

まずはれんげをスープにひたしてみると、とろりとした質感。一口飲んでみると……辛い! これは辛い!! 知っていたけど本当に辛い!!! 後からじんわりとかそんな生易しいレベルではなく、口に含んだらすぐさま辛いのがスコーピオンの特徴。しかも、アツアツのラーメンとあって、いつも食べていて慣れているはずなのに、いきなり口の中が痛くなる。これはかなりの量を入れているはず!

痛くてつるつるすすることは不可能だったので、普通のラーメンで再度トライしたいつるもちっとした食感の麺

スープ自体は味噌豚骨のやさしい味わいなのだが、これがなければどれだけ凶悪なのかと思わせるほどの刺激だ。辛くて(というより痛くて)すいすいとはいかないものの、スープのうまみがしっかりしているため、次々に味わいたくなるのも事実。「痛てて、痛てて」と言いながらついスープを口に運んでしまう。

麺は太めで弾力があるが、これも痛くてツルツルとすすることはできない。スープが濃厚なので、麺によく絡む=辛いのが常に付きまとう。東京の誇る激辛ラーメン「中本」の一番辛いメニュー「北極」を食べてもケロンパとしていた筆者だが、ここでは吹き出す汗を拭きふき、はふはふあ痛たたと忙しい。汗だくでなんとか全部食べることができたが、顔は真っ赤っか、涙目になっていたのであった。

食べ終わってふぅと一息つき、あたりを見渡すと店内はほぼ満席。だがよく見てみると、激辛ラーメンを頼んでいる人はいない。これから食券を買おうとしている男子学生風のグループも、つけ麺か、味噌か醤油かで悩んでいる様子。辛さうんぬんで頭を悩ませている様子はない。

注文を済ませると、彼らは即座に店内中央のコーナーへ。そこにはラーメンを注文した人への無料サービス、ライスとから揚げがあるのだ。椀にご飯を盛り、その上にから揚げを並べてニコニコと席に戻る男子。ラーメンの前にから揚げライスとは、さすがヤングと思うが、どうやらこのから揚げもこの店に来る目当てのひとつのようだ。

から揚げごはん。同行した娘はこれだけでおなかいっぱいに。しっかりした味付けで、から揚げ目当てのお客さんがいるというのも納得

店主の愛が辛いモノ好きを救う

この時は昼を過ぎており、店内が混み合っていたので店を後にし、後日電話で店主の小泉大輔氏に話を聞いた。氏によると、同店は特に激辛の専門店でも激辛が名物の店でもないのだという。ではなぜ激辛メニューが? と聞くと、それには自身も辛いモノ好きな小泉氏のこだわりが関係ある。

辛いモノというのには限界がある。やみくもに唐辛子を入れてもあるポイントを超えると苦くなるなど、もとの料理の味が分からなくなるばかりで、辛さを追求することができないのだ。とことん辛くておいしい料理を作るにはその限界を超えなくてはならず、それにはこだわりが必要、とこだわりぬいたのが、激辛ラーメンを始めたきっかけだ。

辛くておいしものを提供したい、という気持ちからではあるが、「完全に悪ふざけですね」と、若干自嘲気味に言う。なにしろ、最強の激辛ラーメンは実は採算が合っていない。「サヨナラ」は味噌ら~麺と同じ730円で提供しているが、1杯当たり約250円の赤字になるのだという。「サヨナラ」を注文するには先に「トラウマ」を制覇しなくてはならない、というルールがあるのもそのためで、SNSに投稿する目的のためだけに気軽に注文し、残されるのを避けるためだ。

また、「せっかくの料理ですから、おいしく食べてもらいたいという気持ちもある。"サヨナラ"は"トラウマ"のスープまで余裕で飲み干せるくらいの人でなければ食べられないので」とのこと。確かに、筆者も購入しているから分かるが、トリニダード・スコーピオンの粉末はほとんどが輸入品であることもあり、普通の唐辛子と比べて非常に高価だ。

これをふんだんに使用しているとなると、1杯当たりの原価が高くなるのもうなずける。だが、「辛いモノを好きな人が納得できるおいしいものを提供したい」とのことで、いわば真に辛いモノ好きのための愛ある料金設定といえよう。

塩分が気になるので、筆者はいつもラーメンのスープは飲み干さない(辛くて飲み干せなかったんじゃないんデスYO)

10月からリニューアル

ちなみに、10月から店内は改装され、テーブル席がなくなったそう。また、激辛の段階も1から10までとし、今回筆者が食した「トラウマ」は「3」にあたり、「サヨナラ」は相変わらず最強の「10」の段階。「3」の5倍の量のスコーピオンが投入されているという。

悪ふざけどころか変態の域であることは想像に難くないが、これを食べられた人がこれまでに「1.5人」いたそう。ひとりは、「麺を食べ終わった後のスープにご飯を投入して、きれいに召し上がっていました」。"0.5"の人は県外からわざわざ訪れた人で、「泣きながら40分かけて完食してくださいました」とのこと。ちなみに、小泉氏は「サヨナラ」なら余裕とはいかないが食べられるとのことである。

これまでに「ふっ。口ほどにもない」と多くの激辛をうたう店を後にしてきた筆者だが、特に激辛をうたってもいない普通のラーメン屋さんで最強を見る結果となった。いや、まだ"最強"は見ていないんだった。しかし「トラウマ」でさえ、筆者の中で日本一辛いラーメンであったことは間違いない。

●information
麺極 はなみち
岩手県盛岡市前九年2-1-7
営業時間: 11~15時、18~23時
定休日: 不定休

※価格は税込