「DMMがクラブ馬主事業を始めた理由は「DMM.com証券」にあった」では、社内プレゼン大会をきっかけに事業の構想がスタートしたことをお伝えした。今回はサービスの中身について、引き続きDMM.com 取締役でチーフクリエイティブオフィサーの野本 巧氏に聞いた。
感動の総量を追い求めて
前回の記事で解説したように、DMM.com証券の証券口座を開設して競走馬ファンドの出資者となる「DMMバヌーシー」。1万口という口数の細分化によって実現した「1万円~数万円程度の出資」で一口馬主となれるだけでなく、初期投資で必要経費をすべて支払うことで、あとはレースごとに賞金や出走手当の配当金を受け取るだけとなる。
簡潔明瞭な競走馬ファンドの仕組みを作り上げた野本氏だが、前回の記事で「DMMバヌーシーの出資者は儲かる確率が低い」と発言している。ただしこの発言、真意は別にある。野本氏がもともと構想していたプランでは、1万口以上の細分化と数千円単位の出資で、さらに参入障壁を引き下げようとしていた。
「1勝しても手元に残る配当は数百円かもしれない。株式配当金みたいに微々たるものといえばそれまでだが、バヌーシーが目指すのは『競馬に近づくきっかけ』なんです」(野本氏)
バヌーシーは、競走馬ファンドとしての「出資に応じた配当」以外に「レースビュアーコメント、掲示板機能」「週4本程度(予定)の近況動画」というサービスを提供する。これまでのクラブ馬主も、出資馬の近況報告は行ってきたが、Webサービス企業ならではのスピード感やサービス化を図ることで、競馬を楽しむサービスとしての側面を強める。
つまり、「数年間、出資した競走馬の投資状況を見守る」ことに陥りがちな一口馬主の環境を、「競走馬の成長を見守ることに課金するサービス」に変えようという狙いがある。これが、野本氏がセレクトセールなどで語ってきた「ゲームやPOGの延長線」、ダービースタリオンやウイニングポストといった競馬ゲームでは得られないリアル体験という発言に繋がっている。
「プロ野球を見てる人って、そこで何か対価を得られるわけでもないのにみんなで盛り上がれるじゃないですか。そこにちょっとでも賞金が入ってくれば、もっと嬉しいと思うんです。それがこのサービスかなと」(野本氏)
また馬主の体験価値として、自身で所有した馬で勝つことが「個人スポーツの道を極めたプロ選手と同様のものがあるのではないか」(野本氏)。その上で、個人で選択した馬が活躍した時に「その人の感動の度合いはマックスの100%だと思う。だけどバヌーシーの出資者が、みなさんで感動の度合いを分かち合えるとどうでしょうか」と野本氏は、感動をシェアできる土台がバヌーシーには存在すると話す。
「それぞれの出資額が小さいから、感動の度合いは50%かもしれない。だけど50%が100人いれば、感動の総量は5000%になる。しかもチームになれば喜びもひとしお、感動の総量は2割増しで6000%になることだってあるでしょう。そうした感動をシェアするために、掲示板やレースビュアーのコメント機能を用意したんです」(野本氏)