「どうして嘘をつくようになってしまったの? 」「ちゃんと謝れない子になってしまった」――時に、子どもは「いい子に育ってほしい」という親の願いとは裏腹な言動をとることがある。その理由はどこにあり、親としてできることはあるのだろうか。助産師や保育士、臨床心理士などの専門職により構成された母子支援チーム「Newborn Family サポート協会」のメンバーに話をうかがった。

子どもが嘘をついていると思った時、親はどうしたらいい?

「子どもには、最低限度こうあってほしい」と親が思う中に、「嘘をつかない」と「ごめんなさいが言える」があるだろう。しかし、子どもはなぜか思う方向とは逆な状況になっていることがある。「嘘をつくことを教えた覚えはないのに!? 」「何がまずかったのだろう」と、悶々とした悩みを心の奥に抱えるパパ・ママは多いのではないだろうか。実はそこには、大変分かりやすい理由があるようだ。

子どもの嘘は、大人の嘘とは違う

大人である私たちにとって"嘘"とは、多かれ少なかれ人をだまそうという考えのもとに発せられる言葉という概念がある。しかし、「大人が嘘をつく時は『嘘をつこう』という意思がありますが、子どもの嘘はそうではありません」と、協会の代表で助産師の城所眞紀子さんは語る。子どもの嘘は、大人にはない理由がある場合もあるのだそうだ。

例えば、子ども同士で遊んでいる時、お友だちが「おもちゃを貸して」と言い、本人は「貸したくない」と思っているとする。時にはそこに大人が介入して、「貸してあげましょうね」と言うこともあるだろう。

「貸して」と言われた子どもは、本当は貸したくないのに大人に言われたから、「いいよ」と言わざるを得ない。「いいよ」と言えばお母さんは喜んでくれるし、先生はほめてくれるからだ。しかし、その「いいよ」は実は本心ではない"嘘"と言える。

子どもはそういう風に、「人をだます」とか「言い逃れ」のために嘘をつくのではなく、その場をうまくやり過ごすため、あえて相手を傷付けないためなど、思いやりの気持ちから自分の想いとは違うことを言ってしまう。しかし、まだうまく表現できない段階にあるため、大人には「嘘をついている」と認識されてしまうことがある。

うまく表現することができず、結果、嘘をついていると伝わってしまうこともある

大人は想像力を働かせてあげて

理解しておきたいことは、子どもには思ったこと・起こったことをうまく説明できるだけの能力がまだない、ということ。「子どもは、状況の全体ではなく、その内の断片的なことしか言えない時もあります。それを大人は、嘘のように感じてしまうことがあります」と、神奈川県の無認可保育所のオーナーであり保育士の藤實智子さんは言う。

「もしも大人が見ていない時の出来事であれば、その状況を想像してあげることが大切です。最初から『あなたが悪い』と決めつけてしまうと、子どもは何も言えなくなってしまいます。子どもには、自分で語ることのできない部分を補って助けてくれる人が必要です」。

また、保育士であり1児の母でもある白川さなえさんは、「嘘をついていると感じたり、ごめんなさいと言えない時は、『なんで嘘をつくの! 』と叱るのではなく、『なんでそうなっちゃったのかな? 』と聞き、同じ目線で見て、一緒に考えてあげるといいですね」と話す。子どもを理解してあげようという姿勢が大切とのことだ。

"こうしたら、ごめんなさいと言うべき"という経験が必要

人はみな、経験を通して学んでいく。赤ちゃんの場合は、ママのおっぱいを強くかんだ時に「痛い! 」と反応されることで、「これはいけないことなんだ」と知るのもそのひとつだ。それと同様に、「これは、ごめんなさいを言うべき場面なんだ」と知るのも経験が関係しているらしい。

駄目な時は駄目と教えることが大切

「人によっては、子どもが親を叩いても何も言わずそのままにしてしまうなど、親が子どものよくない行動を許してしまうことがあります。そうすると、子どもは"よくないことをしたと知る"という経験を積めません」と、藤實さんは言う。

その時に、「それはやってはいけないこと、ごめんなさいを言うべきこと」と教えなければ、悪いことと知らずに友だちを叩いて叱られても、「ママを叩くのはいいのに、どうしてお友だちを叩いちゃダメなの? 」と混乱してしまうという。そのような曖昧さは、大人の世界では度々あるだろうが、子どもにとっては複雑すぎて理解できないそうだ。

子は親の鏡

「お母さんにそっくりね」などという言葉は、何も外見だけの話ではない。言動という点でも、子どもは親とそっくりなことをする。家庭を模擬的に遊ぶおままごとでは、「もしもし、パパ、どこいんの!? 」「はい、パパは洗い物ね」などと、親から聞いた言葉をそのままに子どもが再現することもあるという。

そして逆に、親がしないことは子どももしない。親が挨拶をしない人であれば、子どもも挨拶ができない子になるのだそうだ。「だからこそ、子育ては親も成長します」と、藤實さんは言う。子育ては、"子"という鏡に映る我が身を磨いていくことにもつながるようだ。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

プロフィール: Newborn Family サポート協会

専門職(助産師・看護師・臨床心理士・栄養士・歯科衛生士・整体師・保育士・ドゥーラ等)により構成された母子支援チーム。「Fami Liko」を通じて、会員制サポートのprimary care部門・有償ボランティア団体を併設したwelfare部門の二本柱で家族の状況に合わせた、より個別的なニーズに応ずる柔軟な体制を基盤にサポートを提供している。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。