なかでも注目なのは、ボーカロイド教育版だ。ご存じのとおり、ボーカロイドは音符がわからなくても作曲でき、そのメロディに合わせてサンプリングされた人の声がうたってくれるというもの。「ボカロ」などと略され、多くのユーザーに親しまれている。ボーカロイド教育版は、文字どおりそれを教育現場向けに最適化した製品だ。

ただ、「ボーカロイド教育版を音楽の授業で使う」と聞いたとき、若干の違和感を覚えた。音楽は立派な授業のひとつだが、教養を育てるという役割も担っている。ヤマハの実証実験では、生徒たちがボーカロイド教育版で作詞・作曲し、完成した楽曲を卒業式で歌うという例があるらしい。

このように、実際の合唱までつながるのならば、音楽の授業での活用も理解できる。しかし、ボーカロイド教育版で生徒がただ単に作詞・作曲するだけとなった場合、教養を育てる役割も担う音楽の授業に相応しいのだろうか。

ヤマハの説明を聞き進めると、合点がいった。もちろん、卒業式の合唱につなげる例のように音楽の授業に生かすことも考えているだろう。だが、むしろ軸足はほかの授業に重心を置いているように感じた。

その授業とはズバリ、プログラミング授業だ。

2020年に必修化される小学校でのプログラミング教室

文科省は昨年、「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」を開催し、プログラミング教育の重要性について議論をとりまとめた。そして2020年を目標に、小学校でのプログラミング教育必修化を目指す方針を示した。

ボーカロイド教育版の実証実験の様子(提供:ヤマハ)

これを受けてプログラミング教育の実証実験が各地の小学校で始まった。ヤマハも、お膝元である浜松の小学校など、複数校でボーカロイド教育版やギター授業、琴授業を使用した実証実験に乗り出した。前述した卒業式の合唱は、浜松の学校における成果だ。

プログラミング教育のねらいは、“論理的”な思考力を育て、“表現力”を磨くことにある。さらにロボット掃除機やゲーム機などが、プログラムを介して動作していることを理解してもらうことにある。コーディングといった小学生には難しい作業を強いるものではない。

現在、よく知られているのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した「Scratch 2.0」(スクラッチ)や、レゴが開発した「レゴWeDo2.0」といったプログラミングツールだ。どちらも操作アイコンを並べるだけでプログラミングを体験でき、「こうアイコンを並べれば、対象はこう動く」といった論理的な思考につなげられる。生徒独自の動作を編み出すことで、創造性・表現力の向上にも役立つだろう。だが、ボーカロイド教育版は楽曲の作詞・作曲を目的としたツール。短絡的な考えかもしれないが、表現力の向上という意味では前出の両者よりも効果が高いのではないだろうか。小学校のプログラミング教育を支える強力なツールが誕生したといってよい。