2016年9月7日、日本マイクロソフトおよびアクアは、家電とクラウドサービスの新たな取り組みに関する共同記者会見を開催した。Microsoft Azureをパブリッククラウドとして活用し、アクアは家電のIoT化を目指す。

最初にアクアという企業をごくごく簡単にまとめよう。2012年、三洋電機から業務用・家電用洗濯機事業や家庭用冷蔵庫の譲渡を受けたハイアールアクアセールスが発足。その後、社名や区分を変更しつつ、2016年に社名をハイアールアジアからアクアに変更した。アクアは、日本・ASEAN地区の地域統括本部として、AQUAブランド製品の企画・販売を行うハイアールアジアグループの一企業だ。

一見すると、白物家電のアクアとIT企業の日本マイクロソフトは縁遠いように見える。背景的にはまず、日本マイクロソフトは、Microsoft Azureを活用したIoTプロジェクトの共同検証を行う「IoTビジネス共創ラボ」を、2016年2月に発足。日本市場におけるIoT普及に向けたエコシステムの拡大を目指したものだが、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏によれば、既に参画するパートナー企業は半年で177社を超え、IoTデバイスや決済などそれぞれの強みを活かしたビジネスを展開中である。今回のアクアと日本マイクロソフトの協業もその一環だ。ラボに名を連ねる8社が参画し、アクアの「AQUA ITランドリーシステム(仮)」の開発にいたった。

アクア 日本代表 執行役員 COO 山口仁史氏(左)、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏(右)

アクア 日本代表 執行役員 COO 山口仁史氏は、「デジタルトランスフォーメーションは大きなイノベーションが柱になっている。家電とクラウドを組み合わせた、新たな家電IoT。新たな顧客体験を生み出すための協業」と説明する。また、パートナーとして日本マイクロソフトを選んだ理由については、「パブリッククラウドやセキュリティはもちろんだが、包括的な能力や海外展開といった将来性を鑑みた」(山口氏)と述べた。

AQUAクラウドITランドリー(仮)は2017年開始を目標に、次のように刷新する。

現在、オンプレミスサーバー上で管理している、業務用洗濯機に取り付けたセンサーから取得する稼働状況や消費者が使用したコースなどを、ビッグデータとしてクラウド上に蓄積。ここから声なき消費者の潜在的需要を掘り出し、「真のユーザー・オリエンテッドな製品やサービス開発を提供」(山口氏)する。収集するデータには、性別をはじめとする個人情報は含めない。データの所有権は、アクアとコインランドリーのオーナーが保持する仕組みとしているが、詳細な仕様は現時点で未定だ。さらに、ここから得たデータを解析し、新たなビジネス展開も視野に入れる。

2017年開始を目標に定めた「AQUAクラウドITランドリー(仮)」

日本マイクロソフトの平野氏も、「今回の協業は、(デジタルトランスフォーメーションの推進として日本マイクロソフトが重視している)『製品を変革』を、次のレベルに押し上げた。『お客様とつながる』面でも強いソリューションだ。サービスモデルの変革や家電業界でのデジタルトランスフォーメーションの象徴的な事例になる」と語り、今後もパートナーシップを活かしたフェデレーションモデルの強化によるビジネス展開を目指すとした。

IoT市場の広まり、既に調査会社の予測が現実になろうとしている

興味深いのは、平野氏が今回のプロジェクトについて「第1弾」と強調した点だ。山口氏も今後の展開について同様のコメントを発している。記者からの「業務用洗濯機は家電ではないのでは?」という質問に対しても、「消費者視点では場所が違うだけ。だからこそ家電IoT化というキーワードを使った。今後の拡張性も含んでいる」(山口氏)、「複数のレイヤーで見ることが大事。予兆修繕やコスト削減など培ったノウハウは、コインランドリーから個人家電へと可能性や選択肢が広がる」(平野氏)と回答した。

今回のプロジェクトに参画するIoT系パートナー企業

アクアは、オーソドックスな家庭用洗濯機だけでなく、ハンディ洗濯機、衣類エアーウォッシャーといった、多様な白物家電を発売している。今回のプロジェクトから得た成果を、白物家電につなげていくのは想像に難しくない。ちょうど前日(2016年9月6日)に開催した記者向け説明会でも平野氏は、「(1日目の基調講演で)IoT分野については深掘りしなかったが、かなりの商談が成立している」と述べた。既にデジタルトランスフォーメーションというコンセプトが事例レベルに進んだことを明かすと同時に、今回の協業を匂わせていた。

前述のとおり、日本マイクロソフトとアクアによるAQUAクラウドITランドリー(仮)は、2017年内のテストマーケティング開始を目標に定めているため、今日明日、我々の生活が変化する訳ではない。だが、単にインターネットにつながるだけではないIoTの未来が、目の前に迫りつつあるのは確かだ。

阿久津良和(Cactus)