食品ロスが大きな問題の豆腐

同プロジェクトに1年目から参加している相模屋食料は、日本気象協会と協同で豆腐の需要量を予測。日配品の代表ともいえる豆腐だが、「15時に受注が来て、18時には配送のトラックが出発するんです。受注が来てから作るというのはありえない。ロス問題は常に抱えていました」と相模屋食料 代表取締役社長 鳥越淳司氏は語る。日本気象協会から同プロジェクトの話があったときは「ぜひ取り組みたい!」と前のめりで参加を決めたそうだ。

夏は冷奴、冬は湯豆腐といったように季節を問わず活躍する豆腐。年中安定した需要があるのは間違いないが、夏は冬の6倍多く売れるとか。特によく売れるのが7月第3週、関東が梅雨明けを迎えるタイミングだという。

左から、相模屋食料の「よせ豆腐」と「枝豆風味 よせ豆腐」

夏の定番、冷奴。豆腐が1年で最も売れる時期はビールと同じだそう

生産計画は「結局は人のカン」で決めていたが、日本気象協会の気象データを用いて相模屋食料側はフレキシブルに対応。メーカーとしても生産計画を変更するのはそう簡単ではないはずだが、鳥越氏はアッサリと「まずはやってみよう、というスタンスなので」と述べてみせた。

はじめは結果が出なかったというが、当日と4日後までの天気・気温から需要量を予測する「よせ豆腐指数」などによって、2015年度の実証実験では約30%の食品ロス削減を実現した。鳥越氏によれば、受注ロスに絞った場合はこの数字が約40%になり、量にして年間約32万丁の"ムダ"が省けたそうだ。従来も全てのロスを廃棄していたわけではないのだが、この量には相当なインパクトがある。

鳥越氏は、「日本気象協会の方は、うちの工場まで足を運んでくれたり、需要予測を担当している社員の要望を聞いてくれたり、現場の声を拾おうとしてくれます。はじめはおかたいイメージでしたが、独創的だし、かなり柔軟に対応してくれるなぁという感じで。成果もついて来たことだし、うちとしても、できることは全部やっていきたいですね」と今後の期待を語ってくれた。

船でペットボトルコーヒーを運ぶ

やっぱり暑い日に売れるペットボトルコーヒー。写真は「ネスカフェ ゴールドブレンド コク深め ボトルコーヒー 甘さひかえめ 900ml」

2週間先までの天気が分かるようになったことで、モーダルシフト(貨物輸送をトラック輸送から鉄道や船舶での輸送へ切り替えること。一般に、CO2の排出量削減や交通渋滞の緩和などの効果が見込める)をさらに加速させたのがネスレ日本だ。同社はもともと、モーダルシフトに力を入れていた企業。ネスレ日本 サプライ・チェーン・マネジメント本部 CFSCマネジャー 尾川太志氏によれば、すでに長距離輸送の8~9割は鉄道・フェリー輸送に頼り、残り2割程度をトラック輸送している。

ネスレ日本は、ペットボトルコーヒーの海上輸送で川崎近海汽船とともに同プロジェクトに協力。長距離を、一度にたくさんの荷物を載せて安価に運べるフェリーだが、天候によっては欠航になることもある。1週間先しか天気が分からないときにはフェリーでの輸送が難しかったが、2週間先まで分かるようになったことで、台風やいわゆる爆弾低気圧などの予測が立てられるようになった。台風が近づいているときには事前に多めに配送するといった工夫をすることによって、フェリーでもペットボトルコーヒーを配送できる。この結果として、2015年度の実証実験では貨物1tあたりCO2を約48%削減。半年で98tものCO2を削減できるという。

モーダルシフトに加えて、気象情報は豆腐同様、ペットボトルコーヒーの需要予測にも役立つ。ペットボトルコーヒーも気温に左右されやすい商品だが、「暑くなりそうなエリア」には多めに配送しておく、といった取り組みを行っているそうだ。そのほか、ペットボトルコーヒー以外の商品への活用にも尾川氏は期待している。たとえば、お菓子の「キットカット」。チョコレートが溶けないよう夏場は低温流通に切り替えているが、そのタイミングにも日本気象協会のデータを生かせるのではないか、とのことだ。