KDDI代表取締役社長の田中孝司氏が、5月12日の決算説明会でMVNO(仮想移動体通信事業者)に関して「もっとやっていかないといけない」と発言するなど、これまでMVNOを"敵"とみなしてきたキャリアが、最近、逆にMVNOに力を入れようという動きを見せつつある。そこには市場環境の急速な変化と、低価格を求めるユーザーに向けた競争の加速が大きく影響している。
大手キャリアがMVNO向けの取り組みを積極化
大手キャリアから回線を借りてサービスを提供することで、格安な料金でスマートフォンが利用できることから大きな注目を集めるようになったMVNO。これまでMVNOは、キャリアと同じサービスを安価に提供することから、大手キャリアの“敵”として認識されてきた。だがどうも最近の動向を見ると、その風向きが変わりつつあるようだ。
携帯電話業界の動向をウォッチしていると、MVNOに対するキャリアの姿勢が変化していることを象徴する出来事が、いくつか起きているのが分かる。例えば5月12日のKDDI決算説明会では、同社の代表取締役社長が記者の質問に答える形で、「MVNOがかなりの速度で伸びている。この分野はグループ会社のUQコミュニケーションズが展開しているが、そうしたエリアでももっと頑張っていかないといけないという課題の認識はある」と話しており、今後MVNOの取り組みに力を入れる考えを示している。
より積極的な取り組みを見せているのがNTTドコモだ。同社は今年の4月より、従来同社のスマートフォンのみでしか利用できなかった、おサイフケータイ対応スマートフォンで決済ができるサービス「iD」を、ドコモ系のMVNOと、FeliCaを搭載したスマートフォンの組み合わせでも利用できるよう変更を加えている。
さらにドコモは、「dTV」「dヒッツ」「dマガジン」といった「dマーケット」の人気コンテンツを、インターネットイニシアティブ(IIJ)やビッグローブ、プラスワン・マーケティング(FREETEL)など、やはりドコモの回線を用いたMVNO経由で提供する取り組みも実施している。dマーケットのサービスは基本的にキャリアフリーで利用できるが、それを従来ライバルと見られていたMVNO経由で提供するというのは、やはりドコモがMVNOに対し、何らかの方針転換をしたと見ることができるだろう。
こうした一連の動きを見ると、ある意味大手キャリアがMVNOを敵ではなく、味方とみなしてMVNOを活用しようとしているようにも感じる。では一体なぜ、大手キャリアはMVNOを敵視するのではなく、有効活用するよう戦略を切り替えたのだろうか。