日本科学未来館では4月29日、同館の企画展「GAME ON~ゲームってなんでおもしろい?~」の関連イベントとして、ビジネス、コンテンツ、研究分野の3名の専門家をゲストが、テクノロジーとエンターテイメントの未来について語るシンポジウム「テクノロジーとエンターテイメントのスリリングな未来」を開催した。ここでは、その時の様子をレポートする。

受付前には参加者が列をなしていた

3名のゲストがトークを繰り広げた

同シンポジウムでは、ロボット研究者・工学博士・大阪大学教授の石黒浩氏、クリエーター・ゲームデザイナー・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授の水口哲也氏、そしてソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏の3名が登壇。日本科学未来館 展示企画開発課 課長の内田まほろ氏がモデレーターを努めた。

最初に内田氏が「ゲームはエンターテイメントのみならず、テクノロジーとともに進化を続けていく、実世界との境界を越える未来のメディアだと考えている」と述べ、今回のイベントの趣旨について「ビジネス、エンターテイメント、研究という異なる分野で活躍するゲストとともに、人間とテクノロジーとの関係や未来について語るもの」と紹介した。

VRはコンテンツも埋め込みやすく、クリエイターの制約をも解き放つ

ソニー・インタラクティブエンタテインメント吉田修平氏

最初のテーマは「VR(バーチャルリアリティ)」について。まずは水口氏が「"VR"という言葉は今年から急に色んなところで使われるようになったが、実は25年ほど前からある言葉で、さまざまな技術の進歩によりようやく実用化され、我々の生活の中に入ってきそうな雰囲気が出てきた」と説明した。

続いて吉田氏が、今年10月に発売予定の「PlayStation VR」を開発した経緯を語った。それによれば、5年前の2011年に「PlayStation Move」コントローラーをヘッドマウントディスプレイに装着し、PS3につないで「簡易的なVR」を実現していたとのことだ。しかし当時のPS3では技術が足りず、「より高性能なPS4の時代になれば、VRを実現できるのでは?」という考えから、本格的な開発がスタートしたという。吉田氏は、「VR関連の仕事は、毎日新しい発見があり、楽しくて仕方がない。20年以上前から存在するVRが、家庭でも本格的に楽しめる時代がようやく訪れた」と嬉しそうに語った。

ロボット研究者・工学博士 石黒浩氏

また、石黒氏は1996年に全方位ディスプレイを使ったVRの研究に取り組んでいたもののコスト的な面で普及には至らなかったことを明かしたうえで、今でもヘッドマウントディスプレイを使うVRよりも全方位ディスプレイを使う方が自然だと考えていると述べるとともに、「将来は脳に刺激を与えて、見えたような気分にするものが開発されるのではないか」と語る。PlayStation VRについては「こうした製品がいつかは出てくると思っていた」と述べ、「コンテンツも揃ってきたし、埋め込みやすい」、「2次元の世界、3人称視点で表現していた従来のゲームより、直接的な脳への刺激に近づいている」と認めた上で、「現実世界とは若干の差異があるため、それを補うような表現手段が見つかれば、爆発的に普及する」との考えを語った。

さらに水口氏は、VRの登場により今までクリエイターにとっての最大のフラストレーションであった「表現を四角い画面内に収める」という制約から解放されることで「イメージをダイレクトに反映でき、かつ3Dで表現できることは、クリエイターにとって大きなイノベーションをもたらすのではないか」と語った。

クリエーター・ゲームデザイナー 水口哲也氏

ここで、「ヘッドマウントディスプレイでは自分の手足が見えなくなる」という違和感について石黒氏が言及すると、吉田氏はレースゲームなどでは今でもゲーム画面と手や足の操作が同期すると説明。水口氏が手足の表現が上手くいけば、次は"触覚"が欲しくなるとし、自身が開発している全身にバイブレーションを装着した「シナスタジアスーツ」を紹介。今後のVRは、現実をリアルに模倣する"超現実"と抽象的な世界を表現する"超非現実"という、2つの方向性に両極化するのではないかと予想した。これは、コンピューターグラフィックスに対しても古くから同様のことが言われていたという。

人間酷似型ロボット(アンドロイド)も「VR」の一種

さらに石黒氏は、自らが開発した人間酷似型ロボット(アンドロイド)も「VR」の一種であると述べた。PlayStation VRが「その人の周りの世界が変わるもの」であるのに対し、アンドロイドは「現実の世界にバーチャルなものが登場するもの」と真逆の存在であることに言及し、「これらを上手く組み合わせれば、双方向での仮想世界を実現できるのでは」と述べた。水口氏からの「アンドロイドと、人工知能(AI)、VRが組み合わさるとどんなイメージが浮かぶか?」という質問には、「ロボットやアンドロイド、AIを作るには、人間が想像を引き出すためのミニマムな条件が重要だが、ゲームについても同じことが言える」とし、「PlayStation VRでリアルな視界に近づいたが、ゲームとAIが繋がればよりインタラクティブになってストーリーも複雑になる」と語った。さらに「人間は選択肢が与えられなければストーリーを創造しにくく、その中で満足感を得られるように作られているのがゲームであり、そのためにAIの技術を活用すれば、もっとのめり込みやすい技術ができると思う」と語った。また、吉田氏がアンドロイドとの会話で不自然さを感じたエピソードを話すと、石黒氏はその理由について「AIの技術が追いついてないことと、人間の脳内活動(感情)の読み取りまで研究がおよんでいないこと」を挙げた。

PlayStation VRやアンドロイドの話題で盛り上がる登壇者

「VR」と「AR」が融合している未来が訪れる!?

水口氏は、VRの今後の進化について「現在の技術進化のスピードからすると、10年後ぐらいには、ヘッドマウントディスプレイ上のVRがAR(拡張現実)と融合している未来が訪れるのではないか」と予想を語ると、吉田氏は「VRの開発に携わる関係者は、VRの中に現実のものを取り込んで触れることや、現実の世界には存在しないものをARを使ってVRで表示するといったことの実現を目指している」と明かした。水口氏は、「血しぶきが飛び散るような残忍なゲームでもこれまでは誤魔化せたが、VRの登場で誤魔化せない領域に入り始めてきた」と語り、「クリエイターのモラルやプレイヤー側のルールが必要となる」と指摘したうえで、「これからは人を撃ったら大変なことになり、気軽に銃の引き金を引けなくなる。さまざまな議論や覚悟が必要だ」と述べた。吉田氏は「VRの面白いところは、ほかの人の視点になってその人の体験ができること。弱者の立場になったバーチャル体験のできるアプリケーションを作っていきたい」と述べた。