人間はより高度な仕事へシフトする

人工知能が奪うのはLow IQの仕事。別の言葉に言い換えれば反復作業とも言えるという

スラン氏の語るように、人工知能が90%もの仕事を肩代わりしてくれるのであれば、人間は残り10%にもっと力を注げるようになる。過去に調べ物といえば辞書や書籍をめくるしかなかったものが、今は検索エンジンにまかせれば、たいていの情報は百科事典よりも詳しく、瞬時に調べられる。調べ物における検索エンジンの役割を、さまざまな業務で担うのが人工知能というわけだ。

それでは、具体的にどの程度の仕事が機械に取って代わられるのだろうか? ホワイトカラーについては、スラン氏は「反復作業はすべて」と断言する。

報告書や請求書の作成といった作業はまさに、反復作業の典型例だ。一方で「弁護士の仕事も90%はなくなるでしょうが、10%は置き換えられないと思います」ともいう。要は、誰でもこなせる仕事(Low IQな仕事)は人工知能がとって替わり、人工知能がカバーできない高度な知識や技能を要する仕事をこなせる人だけが生き延びられるということだ。

また、自分の職種が前述のリストに入っていないといって安心してはいられない。スラン氏は「なんでもいいから職業を1つ、人工知能に1年間学習させてみれば、おそらく人間よりも効率的にその仕事をこなせるようになるでしょう」とも言っているのだ。

確かに、一部の創造的な業種を除けば、仕事の大半はルーチンワークだったり、過去の事例から類推できることが多く、これらは人工知能がカバーできる範囲だ。このままいけば、やがて現在の人間の仕事の多くは人工知能に取って代わられてしまうのは避けられないようだ。

人工知能が新たな身分制を生み出す?

一方で懸念もある。企業内の人員はやがて、方針を決める一部の人間と、会社のオペレーションに必要な最小限の人間、そして大量の人工知能だけで賄われることになり、人工知能を使える人間と、人工知能に使われる人間の2種類に大きく分けられてしまうのではないか。いわば、新たな身分制の登場だ。それによって職を失う人もいるかもしれない。

しかしスラン氏は、憂慮ばかりしなくてもいい、とフォローする。「たとえば農業はテクノロジーが関与したことで、400年前と比べて、98%の仕事がなくなりました。鍬や鋤を使って手作業で行っていたものが、機械に置き換えられたのです。しかし、テクノロジーがあることで、パイロットやプログラマー、サウンドエキスパートといった新しい職種が生まれました。だから無職になるわけではありませんし、人はそもそも、働きたい生き物だと思います。きっとやることは見つかります」。

確かに、コンピュータが登場する前は職業プログラマーや、果てはプロゲーマーといった職種が登場すると想像した人はいなかっただろう。たとえば人工知能を搭載したロボットが警備員の仕事を奪うかもしれないが、同時に警備ロボットのメンテナンスという新たな仕事が現れるはず。勤労意欲のある人は、決して悲観するばかりでなくともいいというわけだ。