――次にADAS絡みの話をお聞きします。基調講演ではHarbrick Technologiesとの協業が発表されましたが、なぜHarbrick Technologiesを選ばれたのかを教えていただけますか?

Amrit:基本的にルネサスはセンサの企業ではない。ところが自動運転における大きな課題はセンサ技術だ。しかもこの分野の技術は極めてすばやく変化する。毎日のように革新があり、しかも毎日のように安くなる。これは従来の自動車業界では考えられない。従来だと5~6年掛けて設計から製造に移している。ところが(ADAS向けの)センサ市場は10倍早く変化し、5倍早く低価格化する。従来の感覚からすれば「Crazy」と言えるだろう。

ここで我々は、常に最新のセンサを利用できるようにすることが最大の挑戦となる。従来の自動車業界だと、センサが一番下に来て、その上にエレクトロニクスがきて、その上にソフトウェアが来る。このやりかただと、5~6年かかるわけだが、ADASの場合、センサもそうだがアルゴリズムの問題もある。アルゴリズムも毎日改良が進んでいく。だから、センサとアルゴリズムを強く結びつけると、アルゴリズムの改良が出来なくなったり、逆にセンサを改良できなくなったりする。我々は両方を同時に改良できるようにしなければならない。これがセンサ技術に関する基本的な問題だ。

我々はハードウェアスタックは持ち合わせている。例えばV2Xに関するIPや、スマートカメラ向けIPなどをチップで提供できる。だから、我々には基本的なSensor Fusionを実現できる誰かが必要だったわけだ。この企業はセンサの提供元である必要はない。なぜなら、必要に応じてセンサのアップグレードが容易に行えるからだ。これはアルゴリズムを提供する企業についても言える。

大企業である必要もない。大企業だと、すべてを提供しようとするからだ。「センサもECUもアルゴリズムもウチから提供します」という訳だが、それは我々にとってイノベーティブではない。我々は誰でも利用できるオープンな環境が必要であり、そこで我々は自らが主導できるソリューションを提供したかった。我々はアルゴリズムのビジネスはやらないし、センサのビジネスもやらない。我々が提供するのは高いコンピューティング性能と、センサチップのスマートインタフェースだ。R-Car W2RやR-CAR T2はその良い例だ。

次の我々の挑戦は、いかに耐故障性を高めるかだ。センサマネジメントやSensor Fusionに故障時でも動作を継続できる機構を組み込む必要がある。

これが我々のビジョンということになる。多くの企業がこれに挑戦してきたが、単独でやろうとしてうまくいかなかった。これが、我々がHarbrickと組んだ理由だ。我々はハードウェアと、若干のソフトウェアインフラを提供する。彼らはそれ以外のソフトウェアインフラを提供する。そして最上位にはオープンなAPIが来る。