パナソニックは3日、埼玉県立川越工業高等学校にて、単1形乾電池「エボルタ」を使った「世界最長距離鉄道走行」ギネス記録への挑戦を発表した。エボルタを動力として走るオリジナル車両を使い、在来線を約20km走らせるという。

パナソニックと川越工業高校の生徒たちが共同で、乾電池「エボルタ」を使ったギネス記録に挑戦する

高校生がギネスに挑戦

パナソニックでは昨年(2014年)、エボルタを動力にして走る総重量約1tの車両を、約8.5kmの廃線で走らせることに成功している。そこで今年は、川越工業高校の生徒が製作した約1.1tの車両を、由利高原鉄道 鳥海山ろく線(秋田県)に走らせる。現在も使われている在来線の上を約20km走らせるという初の試みだ。成功すれば、「乾電池で走る車両が線路上を走行した最長距離」のギネス記録達成となる。走行チャレンジは11月3日に行われる予定だ。

約1.1tの車両を、秋田県の由利高原鉄道 鳥海山ろく線に走らせる、というのが今年のチャレンジ内容

川越工業高校の電気科では、2011年から歴代の3年生が電車製作を行ってきた。今回のチャレンジ車両は、電車班とデザイン班が力を合わせて製作する。この車両は実際の在来線と同じ軌道幅で設計されており、内外から高い評価を得ているという。とはいえ、これまで長い距離を走らせた実績はない。在来線を約20kmの長きに渡って走らせることはできるのだろうか。

チャレンジの主役となるのは、川越工業高校 電気科「電車班」に所属する生徒たち

車両のデザインは「デザイン班」が担当する

説明会では、生徒を指導する同校の君島栄先生が、今日までの活動内容を報告。同校の電車班では、文化祭などのイベントで度々オリジナル車両を走らせてきた。鉄道博物館(埼玉県さいたま市)において、館内に敷かれた約20mの引き込み線を走らせたこともある。この約20mが、これまでの最長走行記録だったという。

君島先生は「はたして本物の軌道上を、長い距離走らせることができるのだろうか。不安も感じている。でも私は楽観主義。優秀な子供たちなら何とかしてくれると信じている。ぜひ、成功させたい」と話した。

プロジェクトは今年の4月からスタート。生徒たちは夏休みを返上して車両の製作に取り組み、8月25日にはラッセル車に牽引される形ながら、鳥海山ろく線の試走を終えている。

今夏、ラッセル車に牽引される形で鳥海山ろく線の試走を終えた

君島先生とともに生徒を指導する栗原健太先生は「ラッセル車の牽引による試走では、事前に判明していた段差のほか、これまで経験したことのないカーブ、S字、坂道などを試すことができた。でもまだ心配の種が残っている。今後さらなる改良を続け、確実に、安全に走行できるよう試行錯誤を繰り返していきたい」と説明した。冒頭でも述べたが、走行チャレンジは11月3日の予定だ。

生徒を指導している君島栄先生(写真左)と、栗原健太先生(写真右)

由利高原鉄道の春田啓郎社長は、万全のサポートを約束した

説明会には、由利高原鉄道の春田啓郎社長も招かれた。

春田氏は「私は4年前に一般公募で選ばれた社長。鉄道が好きで、かねて何か新しいことをやりたかった。今回の話をいただいたとき、ぜひやらせて欲しい、前例のないことをやろうと引き受けた。秋田県の人口が減りつつある現在、新しいことをやって地方の鉄道を盛り上げたい。全市をあげて応援するつもりで、できる限りのサポートをしていく。チャレンジが成功することを祈っている」と話した。

生徒たちが車両を紹介

説明会のあと、生徒たちがオリジナル車両を紹介していった。モーターは前後に1基ずつ搭載する。外形はすでに出来上がっているが、エボルタの単1形乾電池をいくつ使うか、どこに乾電池を積むか、走行時に何人の生徒を搭乗させるかなど、まだ決まっていないことも多いようだ。

説明会のあと、オリジナル車両が披露された

生徒たちは専門部署に分かれて製作を進めている

電車班を率いる槻木澤(つきざわ)拓海さんは、「8月の試走で初めて気が付くことも多かった。レールの幅が広い箇所では脱輪する恐れもあったので、車輪の厚みを増すなどして安全を確保していく。先輩たちが築き上げてきたベースを活かしつつ、これからも改善を重ねていきたい」と話した。

敷き詰められたエボルタ単1形乾電池。いくつ使うか、どこに積むか、などはまだ決まっていない

本番まで、あと2か月。時間は足りるのだろうか。

槻木澤さんは「9月の中旬にはメンバーの就職試験がある。10月末には文化祭もある。残された時間は少ないけれど、やるからには成功させたい」と。そして、最後に意気込みを聞かれると「実際に線路を走らせることができて嬉しい。このメンバーなら大丈夫だと思っている。自信はあるか、と聞かれれば自信満々です」と笑顔になった。