都心で暮らし、地方に両親を残しているという読者も多いかもしれない。そうした人が抱えているのが「父母に何かあったら、どうしよう?」という漠然とした不安だ。「帰省するのは年に2回程度で、帰るたびに親が老け込んでいる気がする」「普段の電話だけでは様子の変化がわからず、そもそも電話をかけるのも忘れがち」といったケースもかなり多いのではないだろうか。超高齢社会に突入した日本では、地方で単身または夫婦のみで暮らす高齢者の安心・安全をいかに確保するかが課題になっている。

そんな中、高齢者や小さな子どもをICTで見守ろうという取り組みが、様々な企業や自治体によって各地で行われている。このICTを活用したサービスを提案している企業のひとつである富士通の取り組みについて見ていきたい。

見守りサービスにも活用が期待される富士通の「ユビキタスウェア」

あらゆるモノがインターネットにつながるという"IoT"(Internet of Things、モノのインターネット)が、次世代のICTを表す注目のキーワードとなっている。IoTとは、これまでパソコンやスマートフォン、タブレットなどが主に接続していたインターネットに、テレビや家電、照明器具といったさまざまな機器を接続していく技術のことだ。これらの機器に各種センサーを搭載することで、インターネット経由で周囲の状態をモニタリングしたり、機器自体をコントロールすることができ、より安全で快適な生活を実現するサービスの提供が可能になる。

このIoTの基盤となる技術として、富士通が5月に発表したのが同社のビジネス向けIoTパッケージ「ユビキタスウェア」だ。既存の製品やシステムに容易に組み込み可能なパッケージとなり、コアモジュールおよびミドルウェアで構成される。コアモジュールには、人や物の状態や状況、周囲の環境をセンシングするセンサーと、センシングしたデータを分析するマイコン、さらにBluetooth Low Energy(BLE)対応の無線通信機能を搭載。また、クラウドでのデータの学習・分析を可能にするミドルウェアを搭載する。

同パッケージは、センサーが取得したデータを同社の独自アルゴリズムである"ヒューマンセントリックエンジン"で解析し、わかりやすいデータ(意味情報)に変換して提供することが特徴。同パッケージを組み込んだデバイスでは、たとえば、転倒や姿勢の検知、運動強度の測定、測位・軌跡データの取得、熱環境や身体負荷レベルの検知などが可能になる。

ICTを活用した見守りサービスをイメージできる動画も公開

富士通では、ユビキタスウェアを実際に組み込んだデバイスの発表も行っている。そのデバイスのひとつが「遠隔見守りステーション」だ。本体に搭載されたマイクで発声や咳、寝息、生活音を収集し、生活状態の変化を把握することが可能。また、温湿度センサーで熱ストレスの推定も行う。同製品を高齢者の住宅に設置することで、外出や帰宅の検知、熱ストレスへの予防や対策のほか、災害時の安否確認などに活用できるという。

マイクで収集した声や生活音から生活状態の変化を把握できる「遠隔見守りステーション」

装着したユーザーの健康状態や転倒などを検知できる「バイタルセンシングバンド」

また、リストバンド型のウェアラブルデバイスとして、「バイタルセンシングバンド」も発表された。同製品では、搭載されたセンサーで温度や湿度、運動量、脈拍数などを計測し、装着したユーザーの健康状態や熱ストレスを推定することが可能。また、短期間での気圧や加速度の変化を検出することで、ユーザーの転倒などを検知して、保護者や管理者などに通知することができる。高齢者や子どもの見守りのほか、建設や製造の現場における作業者の安全確保にも利用できるデバイスとなっている。

富士通「人はICTと、何をかなえるだろう。」CM 見守りサービス篇

ちなみに富士通では、これらのデバイスを活用した見守りサービスをわかりやすく紹介した動画をYouTubeで公開している。動画では、ウェアラブルデバイスなどのセンサーが取得したデータをリアルタイムに分析し、高齢者や子どもの体調、行動の異変を検知する様子が描かれている。また、介護サービスや警備会社との連携によって、現場への駆けつけや家族へのメール連絡などの迅速な対応が可能になることが紹介されている。

高齢者や子どもを見守り、安心・安全を確保していくことは今後ますます重要になり、ICTには、これらの社会的課題を解決する役割が求められる。IoTパッケージのユビキタスウェアを提供し、高齢者や子どもの見守りサービスの実現を図る富士通の取り組みは、興味深い事例のひとつと言えるだろう。