Windows 10のリリースが近づき、期待が高まっているところで、Windows 8・8.1を振り返ってみたい。同じく期待されて登場したWindows 8は、OS本来の実力はさておき、エンドユーザーの評判は必ずしも良くなかった。またまだ現役が続くWindows 8.1だが(Microsoftのサポート終了は2023年1月10日)、Windows 8を含めて本当にダメなOSなのだろうか。

第1回 : Windows 8の悪いところ、良いところ
第2回 : Windows 8.1(2013年) & 8.1 Update(2014年)の改良点・新機能
第3回 : Windows 8.1 Updateのできばえを再考する

ちょっと昔から追ってみると、2000年のWindows Me(Millennium Edition)は低評価、2001年のWindows XPは高評価、2007年のWindows Vistaは低評価、2009年のWindows 7は高評価、2012年のWindows 8(2013年にWindows 8.1)は低評価というように、評価が低いWindowsと高いWindowsが交互に並ぶ(2000年のWindows 2000は高評価だがITプロフェッショナル向けOSだった)。Windows MeやWindows Vistaを経験してきたユーザーにとっては、Windows 10には否が応でも期待が高まるというものだ。

タブレットを意識しすぎたWindows 8(2012年)

Winodws 8のスタート画面。今となっては懐かしい印象も受ける

2012年8月、Windows 8の開発が完了し、MSDNや当時のTechNet参加者へリリースが始まった。一般的な発売日としては、10月26日にリリースしたGA(一般販売版)版を指すことが多い。当時はNHKなどのTV報道で「Windows 8をインストールしただけでタッチ操作が可能になる」的な取り上げられ方をされ、苦笑いした方も少なくないだろう。

Windows 8の登場で多くのユーザーを驚かせたのは、スタート画面に代表されるモダンUIの存在である。それまでデスクトップに慣れ親しんだ人々にとって、PCとタブレットの操作性を両立させる(という考えのもとに開発した)モダンUIは、受け入れられるものではなかった。MicrosoftはなぜWindows 8.xというOSを開発し、そしてWindows 10にいたったのか。

Windows 8のデスクトップ画面

Windows 8のロック画面

少し当時を振り返りたい。現在でも多くのユーザーが手にするiPhoneが日本に初上陸したのは、2008年7月のiPhone 3Gである。この頃はアーリーアダプタ層が手にするだけだったが、iPhone 4のリリース直前となる2010年3月までの累計出荷台数は約4,910万台。同じくAndroid搭載スマートフォンも2010年第1四半期の時点で、約5,450万台とかなりの数だ(いずれもワールドワイド)。

当時はMicrosoftもWindows Phone 7というスマートフォン向けOSをリリースしていたが、Windows CEからWindows Mobileの後継OSという位置付けだ。国内では採用する通信キャリアも少なかったことから、iOS/Androidという新興の波に飲まれ、追いやられていた。

Microsoftは、2009年からWindows部門に参加したSteven Sinofsky氏をリーダーとして、Windows 8に関する多くの情報提供を2011年8月から開始している。つまり、Windows 95から圧倒的シェアを持っていたMicrosoftが、iOS/Androidなどに追い抜かれ始めた時期だ。そのためMicrosoftは、当時ほかのOSがシェアを拡大しつつあったタブレット市場をにらみ、看板製品のWindowsをタブレットでも使えるようにした。これがWindows 8だ(Winodws XP Tablet PC Editionの存在を踏まえると、タブレットの画面サイズとタッチ操作に合わせて、GUIの最適化を図ったといったほうが近いかもしれない)。

Windows 8の悪いところ、良いところ

Windows 8は、Developer Previewの時点でモダンUIを実装し、スタート画面の実装は既定路線だった。このことが、1995年リリースのWindows 95からずっと、デスクトップとスタートメニューに慣れ親しんだユーザーの反発を生む。Windows 7まで残っていた「Windowsクラシック」のGUIがなくなったのも同様だ。

Windows 95は20年前のOSだが、多くのユーザーは2001年10月リリースのWindows XPを体験のベースとしているのだろう。それでも10年以上も前だ。人は一度慣れた環境から抜け出しにくいことが、よく分かる。改めて、コンシューマーユーザーにあまり評判のよくないWindows 8について、不評を買ったところと、評価すべき優れたところのいくつかを、下表にまとめた(少々個人的な視点が含まれるのはご容赦いただきたい)。

■Windows 8の悪いところ、良いところ
ユーザーの評価が低い点 優れている点
スタート画面が使いにくい 起動が速く電源効率がよい
スタートメニューがない 最新ハードウェアのサポート
スタートボタンがない OSそのもののセキュリティが高まった
起動時にデスクトップ画面へ行けない
(必ずスタート画面になる)
WDDM 1.2 / DirectX 11.1を搭載
WindowsクラシックのGUIがない クライアントHyper-Vのサポート
シャットダウンの方法が分かりにくい タッチキーボードの改善
Windowsストアアプリの数が少ない 「PC設定」の拡充
ロック画面が意味をなさない 日本語フォントの追加
検索チャームが使いにくい Internet Explorer 10
OneDriveの強化

Microsoftアカウントの導入は賛否両論あるものの、それまでシングルアローンだったローカルアカウントから移行をうながす意味を持ち、力を入れ始めていたオンラインストレージ「OneDrive」との連係を実現した。

モダンUIとスタート画面ばかり目が向きがちだが、Windows 7と比べても圧倒的な起動速度は、Windows 8の大きなアドバンテージといえる。OSブートメニューを呼び出すためのキーを押す合間もないため、OS上から選択するようになったのもWindows 8からだ。また、SSDやマザーボードのUEFIといった最新ハードウェアのサポートが進んだり、OSそのものとしてセキュリティが強固になったりと、見るべき点は多い。

Windows 8で改善した起動プロセス。UEFI環境では大幅な高速化を実現した

エンドユーザーには実感しにくいが、OSそのもののセキュリティが強固になったのもWindows 8の大きなポイント

蛇足だが、Windows 8に関してはブランディングのミスが目立ったのも印象的である。前述したWindows Phone 7の頃は「Metro UI」という名称を用いていたが、諸事情の問題でモダンUIに改称。前述のOneDriveも、もとの名称であったSkyDriveから2014年1月に改称している(商標権の関係)。これらのブランディングは米国本社が主導しているため、日本マイクロソフトはどうすることもできなかったのだろうが、ビジネス畑出身のBallmer氏が主導していた時期だけに、筆者はかなり首をかしげていた。

話を戻して、Windows 8で"ダメ"とされる部分もちょっとしたアプローチで解決できたりするのだが、そこは第3回に予定するとして、次回は現行OSであるWindows 8.1について詳しく注目してみよう。

阿久津良和(Cactus)