日本医師会などはこのほど、「性・年齢別疾病の発症予防・重症化予防と日本型食生活の役割」をテーマに、「食育健康サミット 2014」を都内にて開催した。
講演では、早稲田大学総合研究機構研究院の福岡秀興教授が「若い女性のやせ志向と危惧される次世代の生活習慣病リスク」と題して登壇。近年、増加の傾向にあるという低出生体重児(2500g未満)とさまざまな疾病リスクについて解説した。
「若い女性のやせ志向と危惧される次世代の生活習慣病リスク」について講演した早稲田大学総合研究機構研究院の福岡秀興教授 |
出生体重と成人後の疾病リスクに相関関係
福岡教授によると、この数年、生活習慣病の研究において、「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」、略して「ドーハド」という概念が注目されているという。これは、「胎児期から幼小児期の環境が、成人期の慢性疾患リスクに影響を与える」という考え方だ。
福岡教授は、「生活習慣病は、生まれてからの不健康な生活習慣や遺伝によってのみ起こるものではなく、受精したときから生まれるまでの、胎児の子宮内栄養環境に起因する」という。さらに「胎児が劣悪な栄養状態で発育すると、生活習慣病の素因が形成される。その上で生まれてからの運動不足や過剰栄養、ストレスなどのマイナスの生活習慣が負荷されることで疾病が発症する」と続けた。
すなわち、胎児期を含めての「幼少期の劣悪な栄養環境」と「成人期の好ましくない生活習慣」という2つの段階をへて、さまざまな疾病が発症するということだ。
双子でも出生体重の差で生活習慣病リスクに違い
既に複数の疫学的調査によって、心筋梗塞や虚血性心疾患、2型糖尿病、メタボリック症候群、脳梗塞、脂質異常症などの疾病の発症リスクは、出生体重と明らかな関係があることがわかってきているという。
「病気の原因の多くは、臨界期としての胎児期・新生児期に形成されるので、この期間の栄養、すなわち妊婦の適切な栄養エネルギーの摂取が極めて重要になるわけです」。
例えば米国では、脳梗塞の地域別の発症率を示したデータが、糖尿病のデータとまったく同じであることからも、低体重で出生した人たちが同じ種類の生活習慣病を発症するリスクが高いことが報告されている。
「また、一卵性双胎で、出生体重が異なる双子のその後の健康状態についての調査では、出生体重が軽かった子どものほうが、その後の成長過程で生活習慣病になるリスクの高い数値を所持していました」。
このことから、同じ親から生まれて同じ生活環境で生まれ育っていても、出生体重の違いによってその後の疾病発症リスクが変わってくることが示唆されていると、福岡教授は説明する。
若い女性の極度の「やせ志向」は危険
翻って日本を見ると、この数年で低出生体重児(2500g未満)がうまれてくる頻度は増加しているという。
福岡教授によると、2012年は低出生体重児が全出生児の中で約1割を占めたそうで、これは先進国の中でも突出して高い数字とのこと。その原因として、若い女性の「やせ志向」がもたらす「胎児が発育する子宮内の栄養環境の劣悪化」を指摘している。
「『とにかくやせていなければ美しくない』といった意識が、多くの女性をダイエットに走らせています。一日の平均エネルギー摂取量も、推奨値は1950kcal(日本人の食事摂取基準<2015年版>の身体活動レベルが普通の18~29歳女性による)ですが、実際は平均1700kcal以下と低い数値です」。
実際、20~30代ではBMIが18・5以下の「低体重(やせ)」に該当する女性の割合が多いそうで、2012年度には20代女性の22%が「やせ」に該当するとした調査も報告されている。
かつては妊娠すると、「おなかの子の分もいっぱい食べるように」と言われた時期もあったが、今では妊娠中の体重増加は妊娠高血圧症や妊娠糖尿病などのリスクを招く恐れがあるとして、適度な栄養摂取による体重管理が指導されるようになった。
それでも福岡教授は、妊娠前と変わらない低エネルギー摂取量のまま、出産まで過ごしているママが見られるケースもあることを危惧。「DOHaD」の観点から、「胎児の発育には劣悪な子宮栄養環境と言えます」と不安視している。
「特に炭水化物を摂取しない『脱・炭水化物ダイエット』が女性たちの間で普及しているようですが、妊娠前半に炭水化物摂取量の少なかった妊婦の子どもは、6歳、9歳での体脂肪量の増加や肥満、高血圧を発症するリスクが高いことを示すデータが報告されています。また、低出生体重児が将来、2型糖尿病を発症するリスクが高いこと、さらには低体重でうまれた女性は、妊娠糖尿病になるリスクが約5倍高いことを示すデータも報告されて います」。
健康的な食生活習慣は「妊娠前から」
妊娠中にママが摂取する栄養が不十分だと、低出生体重児がうまれる可能性が高いことは明らかになっている。胎児の健やかな成長のため、福岡教授は多くの女性に適切な食生活を心がけてほしいと訴えるが、妊娠してから食生活を改善したのでは遅いという。
「妊娠してすぐにこれまでの食生活習慣をガラリと変えるのは難しく、実際にはあまり変わらないのが現状です。エネルギー摂取量がもともと低かった女性は、妊娠中も低エネルギー摂取のままで、子宮内栄養環境が悪い中で育つ胎児は低出生体重児となるリスクが極めて高いのです」。
生活習慣病などになるリスクが低い、健康な子どもを授かるためにも、ぜひ妊娠前から栄養バランスのとれた食生活習慣を身につけてほしい。