「COMSOL Multiphysics」は、スウェーデンのCOMSOL ABによって開発された、構造力学、流体力学、化学反応工学、伝熱、音響など、様々な現象を無制限かつ多種類、強連成して解析が可能なCAEソフトウェアである。「マルチフィジックス(連成)解析に対する柔軟性」に大きな特徴を持ち、企業の研究部門や教育機関から大きな支持を集めている。

そして、2014年10月31日「COMSOL Multiphysics」の最新バージョン5.0のリリースが発表された。前バージョンの4.4からの大幅なバージョンアップとなったため、全世界のユーザーから大きな注目を集めている。本記事では、現在のCAEソフトウェア市場を取り巻く動向と、「COMSOL Multiphysics」が持つ特徴、そして新バージョン5.0の目玉機能である「Application Builder」について紹介しよう。

現代の生活に欠かせない存在となったCAE

「現在の社会においてCAEが関わらないものは存在しない、と言っても過言ではありません」。そう語るのは、2001年の取り扱い開始以来、一貫して日本国内におけるCOMSOLの総代理店として活動を続ける計測エンジニアリングシステム マーケティング部 課長の児島正哲氏だ。自動車産業はCAEをさまざまな用途で積極的に導入している業界なので、さながらCAEのデパートの様相を呈している。身近な例では、「我が社の車は燃費が良くなりました!」というCMをよく見かける。この場合、開発者はまずは車体の軽量化を検討する。だが、安全性を保つためには最低限の強度は必要だ。さらに、パーツによっては衝撃を吸収するために、逆に壊れやすい部分も必要になる。

また、エンジンの中でガソリンの燃やし方を変えてみる。タイヤへ動力を伝える仕組みに無駄な摩擦はないだろうか・・・。ハイブリッド自動車なら、さらに発電機や電池、モータにも注意を払う必要がある。 さらにこれらを実現するためのコストも下げる必要がある。

このような、複雑に絡み合った条件を満たすには、もはや試作による実験だけでは不可能だ。より効果的に、効率的に製品を開発するためには、試作による実験とCAEソフトを用いた解析を組み合わせていくことが必要不可欠である。

計測エンジニアリングシステム マーケティング部 課長 児島正哲氏

COMSOL Multiphysicsは、前述の通り電磁気や構造、熱、流体、化学反応を個々に解析するだけでなく、それらを自由に連成計算させることができる。そのような連成機能を持つ専門分野オプションとして、様々な応用分野に自在に適用できるアドオンモジュールを用意しているので、研究者、設計者、開発者の注目を集めている。

「これから先、資源はどんどん不足していきます。日本のような資源輸入国にとって、資源の節約は避けては通れない大きな課題です。環境にやさしい技術をいかに高性能かつ低コストで提供できるかの技術競争は全世界的に熾烈を極めており、開発、試作、実機実験にかかる時間を短縮して、さらに製造コストの削減を図るためにも、CAEソフトが活躍する場面は間違いなく増えていくことでしょう」(児島氏)

マルチフィジックス解析の必要性

このような現在のものづくり市場において、「COMSOL Multiphysics」が支持されている理由、それは「無制限強連成*が可能なマルチフィジックス解析」が可能な点にある。

マルチフィジックス解析が必要となる典型的な例として、燃料電池が挙げられる。

日本の大手自動車メーカーが2014年中に燃料電池車を市販するというニュースが流れて、一般の方からも次世代のエネルギー源としての燃料電池に注目が集まっている。

このタイプの燃料電池は、空気中の酸素と、タンクに蓄えられた水素を反応させて電力を取り出す、一種の発電装置だ。水素は化石燃料に依存せず、たとえばソーラー発電でも作る事ができる。排出物は環境負荷が非常に小さく、さらにタンクへの充填時間はガソリン車並みに短時間で済む。 現在のハイブリッド車の欠点である、環境負荷の高い化石燃料に依存する点や、充電式電気自動車の最大の欠点である、長い充電時間を克服できる。

しかし、燃料電池には一般的に構造、熱、流体、電気、化学反応といった異なる5種もの物理現象が複雑に関わっていると考えられる。仕組みの複雑さから性能アップが難しく、今まではアポロ計画やスペースシャトルといった宇宙開発のような、特殊な用途がほとんどだった。

自動車など一般消費者向け製品で利用するには、小型、軽量かつ高性能を要求されるが、先に述べた5種もの物理現象が関わる場合、1~2種の物理現象に注目する従来の開発手法では、短期間での開発は困難だ。特に、化学反応と他の物理現象を連成して解析することは、従来は極めて困難だった。

このような「複雑に絡み合った条件を満たす結果」を求めるためには、マルチフィジックス解析は欠かせないものである。だがCAEソフトウェアの多くは、この「マルチフィジックス解析」を行うために、それぞれの現象に合わせた異なるソフトウェアを用いる必要がある。

「COMSOL Multiphysics」では、それらの現象における解析機能をモジュールやライブラリ形式で追加することができる。つまり一つのソフトウェア上で、様々な分野の開発者が望む、様々な現象における「マルチフィジックス解析」が可能だ。

「他のソフトウェアに引き継ぐ目的の、データファイルの形式変更は必要ありません。また、全てが同じユーザインタフェースで操作できるため、新たに使い方を学ぶ必要もありません。モジュールを追加すれば、解析対象となる現象の組み合わせは無限に広がります。それがCOMSOLの設計した"真のマルチフィジックスシミュレーション"を実行できる、世界唯一のソフトウェアなのです。」(児島氏)

*強連成:厳密に解析を行うため高い精度の解を得られる。弱連成では厳密性が弱いため精度は劣るが解析が可能な場合にはコストと手間は抑えられる。

「COMSOL Multiphysics」において、化学反応と熱を考慮したマルチフィジックス解析中の画面(注:画面はバージョン4.4/同社のPDF資料より)

「COMSOL Multiphysics」では、多種多様なモジュールとライブラリが用意されている。バッテリ&燃料電池モジュールによる、燃料電池の電極シミュレーション。(同社資料より)

医療向けの解析事例として、腫瘍のラジオ波による熱凝固壊死による治療法のシミュレーション。切開手術をしないがん治療として注目されている治療方法である。(同社資料より)

さらに現場で使いやすく。新たな機能を持って登場した新バージョン5.0が登場

「COMSOL Multiphysicsは、“何を、どうするか”をゼロから考えることに向いている」CAEソフトウェアだ。モジュールやライブラリを追加していけば、機能は無限に広がり様々なことを試す事ができる。だからこそ研究者たちを中心に支持が集まったと言える。 「ですが、速度と柔軟性を求められる現在のものづくりに対応するためには、設計部門や製造部門の方々が持つ、“ここを、こう変えたい”というご要望にもお応えする必要があります」(児島氏)

そして、そのためにバージョン5.0から追加された新機能が「Application Builder」である。例えば、研究開発部門であれば全ての項目を、設計部門であれば関連する10の項目を、製造部門であれば現場で必要な5つの項目を、それぞれに合わせて表示することができる。

「あまりにも表示される機能が多過ぎると、逆に何をすればいいか、どこを変えればいいかが分かりにくくなります。Application Builderでは、必要な機能と操作項目を選択し、表示を分かりやすく、かつ使いやすくカスタマイズすることが可能となります。現場だからこそ気が付く部分もあります。そんな時にでも、気軽にCOMSOLの解析機能が利用できる。Application Builderは、そのための仕組みとして追加されたものです」(児島氏)

なお、「Application Builder」以外に、バージョン5.0で追加された機能は、他に以下のようなものがある。

  • 幾何光学モジュール:電磁界・光学製品のひとつで、今までCOMSOLが対応していなかったレンズ設計にも対応可能になるオプション
  • デザインモジュール:三次元CADデータの読み込みを支援するためのモジュール
  • LiveLink for Revit:Autodesk社の建築系CAD「Revit」と双方向データ連携させるためのオプション

2014年12月4~5日に「COMSOL Conference Tokyo 2014」が開催

本年はイギリス・ケンブリッジでの開催でスタートした「COMSOL Conference」は、南北アメリカ、アジアを含む世界8ヶ所で順次開催される予定だ。日本においては12月4~5日の二日間にわたり、秋葉原UDXカンファレンスにて開催されることが決定している。

東京大学 数理生命情報学研究室 合原一幸教授

12月5日(金)には、招待講演者として「複雑現象の数理解析複雑系数理モデル学」などの研究を行う東京大学 数理生命情報学研究室の合原一幸教授が登壇予定。またスウェーデン・COMSOL ABのCTO Ed Fontes氏を始め、製品開発担当者が来日。新バージョン5.0の新機能についての詳細な解説が行われる予定となっている。申し込みは下記Webサイトより可能となっているので、興味のある方はチェックしていただきたい。

なお、計測エンジニアリングシステムでは、「COMSOL Multiphysics」の活用事例を紹介したCOMSOL Newsという名称の小冊子をPDF形式にて配布している。研究者が多く利用していることも反映してか、製造業向けとして、大手自動車メーカーによる、ハイブリッド自動車の電子パーツ冷却パネル小型化のための解析といった事例だけでなく、バイオ・医療分野では血栓治療のための解析、さらには食品の加熱調理の解析など、異色な事例が多く非常に興味深い内容となっている。その他にも、「COMSOL Multiphysics」を用いた研究の学会発表論文やアニメーションギャラリーなどもダウンロードできるので、一度覗いてみることをお勧めしたい。

「COMSOL Conference Tokyo 2014」

「COMSOL Multiphysics」各種事例ダウンロードページ

COMSOL Multiphysicsの製品ロゴは、バージョン5.からより未来的なデザインになった。