新垣結衣が初めて母親役を演じた映画『トワイライト ささらさや』が、11月8日 から公開をスタートした。大泉洋演じる落語家・ユウタロウは突然の事故で他界。残された妻・サヤ(新垣)は、生まれたばかりの息子・ユウスケを跡継ぎにしようとする義父の目から逃れるために、"ささら"の街に移り住む。ユウタロウは頼りないサヤが心配でしょうがないため成仏できず、ついには周囲の人に乗り移って彼女の支えになろうとするが…。

原作は、ファンタジーミステリー小説『ささら さや』(幻冬舎)。ところが、主人公の職業がサラリーマンから落語家に変更されていたり、ユウタロウの父親像をより詳細に描いたりと、映画化にはかなりの変更点が加えられている。昨今の邦画界は、漫画や小説を原作とする作品がほとんど。中には原作者の意向とそぐわないために、白紙になったという話も度々耳にする。

果たして、本作にはどのような納得と妥協が繰り返され、そしてどれだけのハードルが待ち受けていたのか。メガホンをとった深川栄洋監督と原作者である作家の加納朋子氏を招き、作品を通して感じたことを含め、映画監督と原作者の立場から"実現率1%の世界"の本音を包み隠さず語ってもらった。

深川栄洋監督(左)と加納朋子氏 撮影:大塚素久(SYASYA)

――まずは、本作がどのような流れで映画化が進んだのかを教えてください。

深川栄洋監督(以下深川):原作を読んだプロデューサーから、お話をいただきました。加納さんには、プロデューサーから幻冬舎さんを通じて、映画化のお話をさせていただいたと思います。

加納朋子(以下加納):こういう映像化の話はなかなか実現しないんですよね。先輩作家さんからも、こういう話は極端な話「100来て1つ実現するかどうか」と聞いていたので。

深川:怖い話ですねぇ(笑)。

加納:ええ(笑)。やっぱり、ツバだけつけてそのまま放置というのがとても多い世界。お話自体はすごくうれしかったですけど、あまり期待しない感じでした(笑)。実際、お話しいただいてから結構間があったので、やっぱり無くなったのかなぁと思ってたら映画化が決まったのでとてもうれしかったです。

――今までも映画化の話はあったんですか?

加納:『ささら さや』の続編の『てるてるあした』が2006年にドラマ化されたんですが、その際に『ささら さや』の話も加えていただいて、それもやっぱりうれしかったですね。別なお話でオファーが来たこともありましたが、映画化が実現したのは初めてです。

――「100来て1つ実現するかどうか」ということですが、なぜうまくいかないことの方が多いのでしょうか。いろいろ大人の事情もあると思いますが(笑)。

深川:僕も撮影までたどりつけない企画が半分くらいありますが、オリジナルよりも原作がある作品の方が映画化が実現しやすいんですよね。ただ、映画化の話が立ち上がって、9割以上が無くなるのは事実で、僕らの心積もりとしては常識になっています。事業規模が10億円になるとか、製作だけで3億円を使うとか、宣伝費でさらにかかるとか。

関わる人が多いので、映画化までたどりつけることはすごく少ないんです。日本では年間300~400本くらいの映画が作られていて、そこからヒットする作品はひとつまみ。そのひとつまみを狙ってみんなでやっているんです。だからこそ、すごくシビアで。例えるなら、「風が吹かないと揚がらない凧」というか。

加納:大きな事業ですものね。

――オリジナル脚本物だと周囲の説得も大変なわけですね。

深川:そうですね。いろいろ根回しをして、映画化が決まるまでにいろいろな方にオファーしたりだとか。そうやっていろんな方面から風を吹かせて凧が揚がるように、揚力をつけていくのが企画の段階です。

――今回は、見事に凧が揚がりましたね。

深川:揚がりましたね~。途中まで揚がるか揚がらないか心配だったんですけど (笑)。

加納:新人作家だと、そんな映画の話をいただくと本当に「やったー!」って舞い上がっちゃうんですよ。でも、年数重ねるうちに現実が見えてきて…(笑)。

――映画化するにあたって、条件は提示されましたか。

加納:特には出してないです。

――映画では主人公の職業がサラリーマンから落語家になったり、父親がより詳細に描かれていたりと原作とかなり違う部分がありますが、ここに関しては特に違和感はありませんでしたか。

加納:職に関しては、脚本段階で幻冬舎さんからお話があって、「どうぞどうぞ」という感じでした(笑)。

――別物の作品として捉えていらっしゃるということでしょうか。

加納:そうですね、映像に関してはまったくの素人ですので、関わっている方のご判断を信じようと思ったのと、あとは最初に原作を読んでくださったプロデューサーさんがすごく気に入ってくださっていたのが、編集さんをとおして伝わりましたので、それはとてもありがたかったです。

愛ある方に作っていただくのが、作品としていちばん幸せなので、結果的にいちばん良い形で実現したなと。キャストにしてもそうですし、脚本にしてもこれがベストだったんじゃないかなと思います。