地上デジタル放送への完全移行に伴って、ユーザーが享受した一番のメリットは、高画質の映像を楽しめるようになった点だろう。その一方で、地デジ化したことで逆に視聴環境が悪化した場合もある。そして、その解決策に、ビジネスチャンスを見出そうとする企業もあるのだ。

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海洋船舶電気機器を手掛ける極洋電機もその1社である。同社は1956年に創業した船舶向け電気機器の専門商社で、この分野では最大の事業規模を持つ。船舶向けのテレビアンテナやテレビの導入に関しても、長年の実績がある。

「もともと日本近海を航行する船舶では、テレビ放送の視聴は重要な役割を果たしていた。船内テレビの地デジ化は、ほとんどの船で完了している状況にある」と切り出すのは、極洋電機の神谷鉄平専務取締役。

「船内での娯楽が少ないなかで、テレビ視聴は、船員からのニーズが高い娯楽のひとつ。また、災害時の情報を安定した放送波によって入手するという役割も果たしている」と続ける。

「地デジ化後、船舶内でのテレビはあきらめた」との声からニーズをくみ取る

極洋電機・神谷鉄平専務取締役

しかし、2011年7月24日の地上デジタル放送への完全移行に伴って、船舶でのテレビ視聴においては、いくつかの課題が発生しはじめた。1つは視聴エリアが狭まったことだ。アナログテレビ放送の場合には、ゴーストがかかっていても、画像を見ることができたが、地デジでは、一定の信号レベルを下回ると視聴できなくなる。その結果、航海に出るとすぐにテレビが見られなくなるという状況すら発生していたのだ。

「地デジ化してからは、船舶内でのテレビ視聴はあきらめたという声もあがっていた」という。

2つめは航行中に受信する放送局が頻繁に変わり、そのたびに手動でチャンネルスキャンをしなければならないという問題だ。多くの船舶では、船の最も高い部分に受信用の地デジアンテナを1本設置し、受像器としては一般的な家庭用テレビを導入しているというスタイルだ。だが、地デジでは船が移動するのに合わせて、手動でチャンネルスキャンをしなくてはならないという問題があった。

「スマート・デジタル・チューナー KST-1000-J」

NHKを見る場合でも、東京を出航して横浜、静岡、名古屋、津、和歌山、神戸、大阪というように次々と放送局が変わり、そのたびにチャネルスキャンが必要だった。

家庭用テレビでは、初期設定などでチャンネル設定をすればそれで済むが、頻繁に受信する放送局が変わるということは想定されていない。しかも、住所や郵便番号で登録するといったものも多く、頻繁に登録変更を行うには操作が煩雑だ。

こうした課題解決のための製品として同社が投入したのが、船舶用地上デジタルチューナー「SMART DIGITAL TUNER(スマート・デジタル・チューナー) KST-1000-J」である。