日本科学未来館(未来館)は6月25日からの一般公開に先立ち、ロボット系の新常設展示施設「アンドロイド - 人間って、なんだ?」の内覧会を24日に実施した。同展示の総合監修を務めるのは、国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 石黒浩特別研究所所長(客員)兼大阪大学特別教授の石黒浩氏(画像1)で、同氏が開発したアンドロイドの最新作「オトナロイド」(画像2)および「コドモロイド」(画像3)、すでに公開済みの「テレノイド」(画像4)の3体が実証実験の一環として、展示されることが発表された。内覧会では石黒氏自ら(ジェミノイドではなくちゃんと本人)も登場し、展示コンセプトについて語り、オトナロイドとの会話も披露した次第だ。

また、今回の新展示に併せて、ASIMO(画像5)や本田技研工業の座乗型パーソナルモビリティ「UNI-CUBβ(ユニカブベータ)」(画像6)、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo:フューロ)の古田貴之所長が開発した8輪型3段変形移動ロボット「Halluc II(ハルクツー)」(画像7)といった既存のロボットのデモンストレーション内容も大幅に変更。それらを併せてお届けする。

画像1(左):ATR 石黒浩特別研究所所長(客員)兼大阪大学特別教授の石黒浩氏。画像2(右):その名の通り、少女型アンドロイドのコドモロイド

画像3(左):大人の落ち着いた雰囲気を漂わせるオトナイロイド。画像4(右):通信端末としての研究用に開発されたテレノイド

画像5(左):3代目ASIMO。画像6(中):パーソナルモビリティのUNI-CUBβ。画像7(右):fuRo製のHalluc II

石黒氏の名前は、この記事を読んでいただいているロボット好きの方の大半が、おそらくご存じではないだろうか。とっさに思い浮かばなかったとしても、石黒氏本人や、女性モデルにそっくりなアンドロイド(見かけも動きもヒトにそっくりのヒューマノイドロボット)の「ジェミノイド」シリーズの名を出せば、「あぁ、あのロボットを作った研究者ね!」となるはずだ。そう、日本を代表するロボット研究者の1人の、あの石黒氏である。ちなみにジェミノイドシリーズとはどんなアンドロイドかというと、画像8・9のような具合で(正確には、画像8・9は市販バージョンのココロの「アクトロイド-F」)、見たことがある人も多いはずである。

画像8(左):アクトロイド-F。実は左の男性型も、アクトロイド-Fで、男性風の髪型と服装にしたもの。画像9(右):アクトロイド-Fの顔のアップ。ライティングの差もあるのだが、若干肌の感じは変えられているという

今回の展示は、このアンドロイドが題材だ。コドモロイドやオトナロイドなど、動きが100%人間を再現できているわけではないので(特に口の動きや首の動きとかまだぎこちないところがある)、動画で見るとさすがにヒトではないことはわかりやすいのだが、画像10や11のような遠景の静止画の場合、特にわからないのではないだろうか。このようにアンドロイドは急速に人間に近づいており、もうすぐ目の前で見ても見分けが見つかなくなるような時代が来るのは確実だ。

画像10(左):左がコドモロイドと右がオトナロイド。画像11(右):オトナロイドと向かい合う石黒氏。ともかく、オトナロイドのたたずまいがすでにロボットのレベルではないのがわかるはず

その時、人間は何をもって人間と呼べるのか? そもそも人間とは、人間らしさとはいったい何なのか? といった人間らしさの単球は遙か昔から議論され続けてきて、今もなお人文、社会、芸術などさまざまな分野で探求されているという具合である。

石黒氏がアンドロイドを作ることも、その人間らしさの探究と大きく関係していて、人間の目を再現することは人間の目を知ることであり、人間の動きを再現することは人間の動きを知ることだという。また石黒氏は、ヒトが最も認識できるのがヒトであり、ヒトそのものが最も優れたメディアだとする。よって、世の中のさまざまなメディアがヒトを目指していくわけだが、その究極といえるのがアンドロイドであるというわけだ。

つまり、アンドロイドを作るという行為は、社会産業的な可能性の追求である一方で、「人間を知る」という本質的な行為なのである。そうした石黒氏のライフワークともいえる研究の最先端が、未来館にやってきたのが、今回の新展示「アンドロイド - 人間って、なんだ?」というわけだ。