下半身麻痺のヒトを歩けるようにする驚異の技術「ACSIVE」

続いては、無動力歩行支援機の「ACSIVE」について紹介しよう(画像15)。サーボもバッテリも一切使っておらず、とにかくシンプルな構造のために軽く(関節部分がアルミの削り出し、そのほかのフレームも金属製だが900g程度)、装着した時にあまり外側に出っ張る部分がないため、かさばらないという便利さもある(現状で、さすがに普通サイズのズボンの下に装着するのは難しい模様)。装着も腰とすねの辺りの2カ所で止める形で簡単なので、時間も手間もかからない(画像16・17)。しかも、もちろん歩行障害の度合いにもよるが、トレーニングはほぼなしで歩けるという簡便さも大きな魅力である。

画像15(左):ACSIVEを外して置いたところ。腰に装着するためのベルトの方が目立つほど。画像16(中):腰と足首で固定する。画像17(右):ヒザ部分はこの通り固定しない

ユーザーのターゲットとしては片麻痺ながら、自立して歩ける人だ。写真は右足用のデザインとなっているので、このまま左足に着けるわけにはい かないが、左足用を用いれば両足にも装着できる。身長は上が180cm台でも問題なく、下は小学校の低学年ぐらいにも対応できるという。体重制限も、そもそもヒトはロボットのようにギシギシ歩いているわけではなくて、受動歩行である程度脱力して歩いているので、スーパーヘビー級でもない限りは問題ないだろうとしている。

障害の度合いとしては、脊髄損傷などに傷を負っていて、足を前に出すことが健常時と比べて重たく、自分で動かそうとイメージしたようには足が前に出ないという人に向いている(さすがにサーボによる能動的なアシスト機能はないので、まったく動かせない人には難しい)。両足に着けたいという人も多いそうで、その対応も検討しているという。

ACSIVEは足の動きを支援するための仕組みとして、もちろん受動歩行の振り子の動きを利用しているが、バネの弾性力も使われている(画像18)。1歩踏み出すことで強力なバネがたわめられて、次の1歩の振り出しに使われる仕組みだ(バネの弾性力を解放するタイミングは、カムで設定されている)。バネを手で押すのは結構な力がいるほどだが、足のように質量があるものが動くことで得られる運動エネルギーを利用すればすぐにバネはたわめられるので、問題ないのである。なおバネは、装置の上部、腰に近い位置に備えられている(画像19)。

画像18(左):斜め左に向かって伸びている円柱にバネが収められている。画像19(右):その装置は腰にある。前方斜めに突き出しているのは、座った時に干渉しないようにするため

ACSIVEは、2014年9月に今仙技術研究所からまずはリハビリ施設などに向けて販売がスタートする予定だ。価格は現時点では15~20万円とのことだが、量産化がさらに進めばさらなる低価格化とは可能と、同社 技術部 企画開発課の鈴木光久課長(画像20)は述べている。イメージとしては、そうした施設から松葉杖などのような形で患者や施設の利用者に対して貸し出されるような形になるという。

なお、今仙技術研究所は、日本のヒューマノイドロボット研究の創始者である早稲田大学の故・加藤一郎教授との共同研究で、筋電義手を日本で最初に共同開発した企業として知られ、現在は筋電義手は扱っていないものの、電動車いすや関節機構のある義足などを取り扱っている。佐野教授と今仙技術研究所の出会いは、受動歩行装置の製作を佐野教授が依頼したことがきっかけで、その後、ACSIVEの共同開発をするに至ったそうだ。

画像20。今仙技術研究所の鈴木課長。ちなみに同氏は、2011年の名工大所属当時、受動歩行の技術を活用した「S-Walkerという装置(受動歩行ロボットを改造)」を提案し、James Dyson Award受賞を受賞している