2013年7月にレベルファイブから発売されたニンテンドー3DS用ゲームソフト『妖怪ウォッチ』

玩具は軒並み品切れ状態、漫画連載も始まり、アニメの視聴率も好調――今、巷で『妖怪ウォッチ』が大ブレイク中だ。『妖怪ウォッチ』とは、2013年7月にレベルファイブから発売されたニンテンドー3DS用ゲームソフトである。出荷本数は70万本を記録。その後はアニメや漫画、玩具などにクロスメディア展開し、現在、小学生男子を中心に爆発的な人気を誇っている。また、バンダイから今年1月に発売された玩具は、いずれも発売当日からほぼ完売状態が続いており、最近では、限定のグッズショップが、あまりの商品の売れ行きに開店2日で営業を休止したことでも話題となった。

『イナズマイレブン』や『ダンボール戦機』を手がけてきたレベルファイブにとって、こうしたクロスメディア展開はこれまでにもあったが、ここまでのヒットはなかなか生まれるものではない。では、なぜ『妖怪ウォッチ』は、これほどまでに大ブレイクを果たしたのか。ヒットの仕掛けを探った。

『妖怪ウォッチ』とはどんなゲームか

ゲームの内容は、ものすごく大雑把にいえば"ポケットモンスターの妖怪版"。ある日、妖怪執事を名乗るウィスパーと出会った主人公は、妖怪たちと友だちになれる腕時計「妖怪ウォッチ」を手に入れる。町には無数の妖怪たちが存在しているが、それらは「妖怪ウォッチ」をつけた主人公にしか見えない。妖怪はバトルに勝利することで「友だち」になり、「妖怪メダル」を「妖怪ウォッチ」にセットすることで呼び出し、仲間として戦ってくれる。

妖怪執事を名乗るウィスパー(左)と主人公

――と、ここまでの中でも、すでに数多くのヒットの要素が含まれていることがわかる。まず「妖怪」というテーマ設定。本作の下敷きとなっているのは明らかに『ポケットモンスター』だが、モンスターの代わりに日本人に馴染み深い「妖怪」を持ってきたのは慧眼だ。それも水木しげるが描くようなおどろおどろしい妖怪ではなく、あくまでも"妖怪をベースにしたかわいい生き物"である。男女問わず親しみやすいキャラデザインで、特にネコの姿をした「ジバニャン」は愛くるしく、ポストピカチュウとして十分通用するキャラクターであると言える。

一方で物語の世界観は、どちらかといえば『ドラえもん』に近い。例えば主人公が普段よく遊んでいる友人として、同級生のフミちゃん、お金持ちで理論派のカンチ、ガキ大将のクマの3人がいるが、この構成は明らかに『ドラえもん』のそれをベースにしている。また、広い世界を冒険するのではなく、基本的にはさくらニュータウン近辺で起こる事件を解決していくという世界観の作り方も『ドラえもん』寄りだろう。

誤解を恐れずざっくりとまとめるなら、日本人が大好きな「妖怪」と『ポケットモンスター』を組み合わせ、そこに『ドラえもん』的な世界観をブレンドしたのが『妖怪ウォッチ』なのである。しかし、ヒットコンテンツの要素を単に組み合わせただけでは中ヒットどまりが関の山。『妖怪ウォッチ』大ヒットの裏にあるのは、絶妙なクロスメディア展開である。

車に轢かれた猫が地縛霊となった「ジバニャン」。ひっさつわざは「ひゃくれつ肉球」

なりきり玩具「妖怪ウォッチ」と「妖怪メダル」の大ヒット

最大のポイントは、ゲーム内に「妖怪ウォッチ」と「妖怪メダル」を登場させたことだろう。腕に身に付ける「妖怪ウォッチ」は、「仮面ライダー」の変身ベルトに代表される"なりきりアイテム"と呼ばれる玩具で、子どもへの訴求力が非常に強い。そして、ロングヒットが狙えるコレクションアイテム『妖怪メダル』。いわば、この2つは「おもちゃ業界のヒットの公式」に則って設定されたアイテムと言える。巧妙なのは、「おもちゃ展開を見据えた上でゲームシステムを作っている」にも関わらず、「ゲームシステムがまずあって、後から玩具を展開した」かのように見えることで、ゲーム内では「妖怪ウォッチ」と「妖怪メダル」がごく自然な形で登場し、商売っ気を感じさせない。過去にクロスメディア展開を幾度となく成功させてきたレベルファイブとバンダイならではの巧さだろう。

狙いどおり「妖怪ウォッチ」は、2014年1月にバンダイよりなりきり玩具として発売され大ヒットを記録する。さらに、「妖怪ウォッチ」にセットする「妖怪メダル」(1袋2枚入り/180円/税抜) は発売から約1カ月で累計300万枚以上を出荷し、販売店舗、ネットショップともに完売状態。ネットでは高額で販売する店舗や高額で取引されるケースもあるという。たとえ販売されても、品薄状態のため「お一人様1パックまで」という購入制限がかかるほど。3月22日には、「妖怪メダル 第2章」も発売されこちらも瞬く間に完売。もともとゲーム内でもコレクション要素の強い「妖怪ウォッチ」だが、収集する楽しみを現実に広げることに成功したのは極めて大きい。

間口の広さで幅広い層のファンを獲得

クロスメディア展開はこれだけにとどまらず、2012年12月から先行的に連載されている漫画誌『コロコロコミック』(小学館刊)、2013年12月からは漫画誌『ちゃお』(小学館刊)でも連載がスタート。2014年から始まったTVアニメの視聴率も好調で、平均世帯視聴率は5.4% と放送中のアニメでは11位。特に7歳~12歳までの男の子に限っていえば視聴率は20%を上回っており、これは『ポケットモンスターXY』に肉薄する数値。4歳~12歳女子の視聴率も10%以上で安定しているなど、性別を問わない人気ぶりがここからも見て取れる。

面白いのは、ゲームはしないがアニメは見る、アニメと玩具だけに興味がある、といった具合に、ファンの子どもたちが必ずしも原作であるゲームから入ったわけではないことである。女子人気が徐々に増えてきているのも、「ジバニャン」のぬいぐるみがかわいいからといった、キャラクター人気によるところが大きいという。クロスメディア展開により間口を広くとった効果がここにも表れてきている。『妖怪ウォッチ』は今後、妖怪メダルの新商品を投入し、2014年6月末までに累計2,500万枚以上の販売を目指すという。アニメや漫画、玩具との連携で、どこまでヒットの規模を拡大できるか。「第二のポケットモンスター」を狙う挑戦は続く。

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