Microsoftの新しい最高経営責任者 (CEO)にSatya Nadella (サトヤ・ナデラ)氏が就任した。Microsoftのエンタープライズ事業の躍進をけん引してきた人物であり、ソフトウエアエンジニアとして、そしてリーダーとして、同社のCEOにふさわしいと認める人は多い。しかしながら、CEO探しの過程における報道で、同氏の名前を有力候補に挙げた媒体は少なかった。
今、Microsoftは「デバイスとサービスの企業」に変わろうとしており、CEOの交代もその一環である。新しいCEOは継続・成長ではなく、解体と創造を押し進められる人物が望ましい。経営と企業戦略の実力が未知数なNadella氏の任命は、多くのアナリストやIT記者を驚かさせた。
Windows 95以前から在籍する古参
Nadella氏はインドのハイデラバード出身の46歳。大学卒業までインドで過ごし、米国の大学院に進み、Sun Microsystemsを経て、1992年にMicrosoftに入社した。当時、MicrosoftはWindows NT開発でUNIXと32ビットOSの知識を持つソフトウエアエンジニアを探していた。それから22年、Windows 95登場前から残るベテラン社員の一人である。
Nadella氏は、2001年にMicrosoft Business Solutions (MBS)のR&Dグループのリーダーに抜擢され、2006年からMBS、2008年からは検索/ポータル/広告の責任者を歴任。そして、2011年にサーバ&ツール部門担当のプレジデントに就任し、同氏の下でサーバ&ツール事業は年間売上高が166億ドルから203億ドルに増加した。2013年にクラウド&エンタープライズ・グループ担当のエグゼクティブバイスプレジデントに就き、今日に至る。
余談になるが、Bloombergによると、Amazon.comがクラウド製品の構築に乗り出した時に担当エグゼクティブとしてNadella氏のヘッドハントを試みたという。
GartnerフェローのDavid Mitchell Smith氏は、Nadella氏のCEO任命を「良い選択だが、パーフェクトな選択ではない」としている。ソフトウエア分野では豊富な経験と優れた実績を備えるが、SurfaceやXbox、スマートフォンといったコンシューマ向けデバイスを切り盛りできるかは不明だ。こうした指摘に対して、Moor Insights and StrategyプリンシパルのPatrick Moorhead氏は「Microsoftの全ての条件を満たせるCEO候補はいない。今までだって存在しなかった」と断言している。
Microsoftが公開したインタビュー動画の中で、Nadella氏は「学ぶことが大好きだ」と語っている。常に新しいことに興味を持ち、学び続けなければ「素晴らしい成果、役立つ成果を生み出せなくなる」と同氏。学生時代は、マンガロール大学で電気工学を専攻し、米国のウイスコンシン大学でコンピュータ科学で修士を取った後、シカゴ大学で経営学の修士も取得した。
知識の幅を広げるのに貪欲で、今も読み切れるよりもたくさんの本を買い込み、完了できるよりも多くのオンラインコースを受講しているという。新しいことへの興味がつきない同氏だからこそ、Microsoftにおいて、Xbox Live、検索サービスのBing、Azure、Office 365やSkypeといった新規事業を成功に導くことができた。CEOとしても、Microsoftの文化を熟知したうえで新風を吹き込む経営者になり得る。
Gates氏とBallmer氏が取締役会に残る影響は?
Nadella氏のCEO就任とともに、Bill Gates氏が会長を退き、Nadella氏の求めに応じて技術アドバイザーに付くことが発表された。Gates氏は、CEO退任後に経営の第一線から離れて慈善活動に軸足を置いていたが、今後はMicrosoftの仕事に自分の時間の3分の1を充てるという。前CEOのSteve Ballmer氏は取締役にとどまっており、初代CEOと前CEOの影響が残る経営の三頭体制になる恐れも指摘されている。
ただ、エンジニアや開発グループのリーダーとしての名声こそあれ、ビジネスの世界やコンシューマの間でNadella氏は無名の存在だ。経営者としての足場固めから始めなければならない同氏にとって、Gates氏の存在が強い後ろ盾になるという見方もできる。
インタビュー動画でNadella氏は、Microsoftが向かう先について「モバイル第一、クラウド第一の世界」と表現し、「全てがデジタルに、そしてソフトウエアによって動かされるものになる。そこに無限のチャンスがある」と述べた。Ballmer氏が進めてきたデバイスとサービスの企業への転換を踏襲しながらも、Microsoftをその先に進めるのが自分の役割という強い意欲が伝わってくるメッセージだ。