Altera,Marketing Director,Power Business UnitのMark Davidson氏

FPGA大手のAlteraは2013年5月に集積型電圧変換製品「PowerSoC」を提供する半導体メーカー「Enpirion」を買収し、FPGA/PLDだけでなくパワーマネジメントIC(PMIC)の提供も開始した。買収から半年、現在の状況などについて、同社Marketing Director,Power Business UnitのMark Davidson氏に話を聞く機会を得たので、その模様をお伝えしたい。

同氏は2013年8月に同社に入社。それ以前はTexas Instruments(TI)でアナログ半導体のビジネスに携わっており、今回、TIで培ったノウハウを生かすために加わったという。

これまでにも何度か生粋のデジタル半導体ベンダであるAlteraがアナログ半導体に参入したのか、ということについてお伝えしては来たが、簡単に説明しておくと、システムが高機能・高性能化を果たす中、その構成は複雑となり、電源周りの設計も複雑化してきており、エンジニアを悩ませる課題となっていた。そこで、デジタルとアナログの両方をすでに評価済みの形で提供することで、エンジニアに電源回路のことを考えなくて良いようにしようということを目指した取り組みが、今回のEnpirionの買収につながったというわけだ。

もちろん、アナログ半導体ベンダと協力関係を構築してソリューションとして提供していく、という方向性もなかったわけではないが、そこはより柔軟性と迅速性を確保しつつ、複雑なシステムをトータルでサポートするためには買収がベストだったとする。

すでに同社は2013年10月に同社の28nmプロセス製品「Cyclone V SoC」向けリファレンスデザインの提供を開始したことをアナウンスしているほか、2014年初頭には同じく28nmプロセス製品の「Stratix V」向けリファレンスデザインの提供を開始する計画だが、それぞれ別々の路線を目指したものになるという。ただし、その基本は、「小さくて高効率」にあるとする。

Enpirion製品各種。これらとFPGAを組み合わせることで、電源周りからシステムの中心(プロセッサ部)までを一貫したソリューションとして扱うことが可能となる

その小さくて高効率を実現するのが「効率重視の設計」、「高周波(MHz)駆動」、「Magnetics Engineering」の3つの技術だ。中でもMagnetics Engineeringは、インダクタンスを小さくすることでフェライトコアの小型化を実現することで、チップ/システムの小型化を実現する技術だが、サイズが小さくなると熱がこもりやすくなるため、熱効率にも対処できるような工夫が施されているという。

こうした技術を活用することで、例えばCyclone V SoCリファレンスプラットフォームでは、従来の電源設計手法に比べ、基板サイズを22%減、損失を35%低減、そして周辺のキャパシタの数の50%削減といったことを実現しているとする。「キャパシタの数を半減できると考えると、ロットで考えればかなりのコストダウンが図れる。Cyclone Vのようなボリュームラインに適用されるデバイスでは数百円レベルであってもコストに響いてくるので、この差は大きい。また、基板のサイズも削減できるため、追加的なメリットも大きい」とする。また、ハイエンドのStratixシリーズではなく、ローエンドのCycloneシリーズのリファレンスプラットフォームが先行して提供されたことについては、「ポピュラーなデバイスで、パワー・サイズ・コストの要求が厳しい分野だからこそ、先んじて提供することで、デザインウィンを勝ち取れると判断した」という市場に対する見方を披露。今後、すでにアナウンスされているリファレンスプラットフォーム以外にもMAXシリーズなどでの提供も考えているとのことで、FPGA/SoC製品の提供タイミングに合わせた形でそれに合った電源のリファレンスプラットフォームも提供していく計画だとしており、「2014年は次世代FPGAなどの新製品が次々と出てくる年であり、そういった意味ではデジタルパワーの年でもある。非常に忙しい年になることを期待している」とする一方、FPGAを使わないユーザー層にも電源製品を提供していくことで、Alteraのユーザー層の拡大を目指していくとする。

すでに28nmプロセス製品向けに4種類のリファレンスデザインが提供されることがアナウンスされている

Cyclone V SoC向けリファレンスデザインを用いた場合、従来ソリューションと比べ、基板サイズの小型化、高効率化、部品点数の削減といったメリットを享受できるようになる

ちなみに製品の研究開発については、次世代製品となる「Stratix 10」や「Arria 10」といった第10世代品の開発は買収前から進められてきているため、バラバラに開発されてきたものを最終的にIPでカバーする形で対応を図るとしているが、その後となる第11世代品以降はFPGAの開発と歩調を合わせる形で進めていくとしている。また、その開発の方向性の1つとして、FPGAの中にPMICなどを搭載する可能性もあるとする。ただし、それについては「使われる電源はシステムごとに別々で、入れない方が柔軟性が高い。もし入れるとすれば、単一電源用途などに向けたMAXシリーズあたりが可能性として考えられる」とした。しかし、その逆、アナログIC側に少数のロジックエレメント(LE)を搭載してプログラマブルにする可能性については、「Package in Package(PiP)」の形でFPGAとPMICを提供するというオプションは有りうるとする。「Stratixレベルになると歩留まりの問題などが出てくるので、PiPのコスト低減とそうした歩留まりの問題をクリアできればチャレンジングな話題になりうる」ともしており、メインストリームの領域などで2~3年程度で実用化できればエキサイティングなことになるとした。

なお、日本地域についても話を聞いてみたところ、「FPGAの市場として、そして電子機器メーカーの多くが小型かつ高性能の機器の設計・製造を目指し、何よりもユーザーの目が肥えたテクノロジーリーダーの位置付けの地域であり、そうした地域を攻略することが何よりも重要になってくる」とコメント。ターゲットとしては、サイズ・効率・信頼性のすべてを求めるカスタマであり、自動車関連なども当てはまるとし、「AlteraがFPGAに注力するのはもちろんだが、そこにマッチしたPMICを提供することで、Alteraらしいアナログ半導体の戦い方を見せていくことでビジネスの拡大を図っていきたい」と将来展望を語ってくれた。