NVIDIAは7月30日、都内で5回目の開催となる「GPU Technology Conference 2013」(GTC Japan 2013)を開催し、同社の最新GPUの動向やスーパーコンピュータへの適用動向、HPC分野への応用などについての説明などを行った。今回のGTC Japan 2013は55のセッションが開かれ、1500名の登録があったという。

NVIDIA GPUコンピューティングソフトウェア ゼネラルマネージャーのイアン・バック氏

基調講演には同社GPUコンピューティングソフトウェア ゼネラルマネージャーのイアン・バック氏が登壇し、GPUのこれまでの進化の過程と将来に向けた動向について言及したほか、CUDAがなぜGPUコンピューティング向けに成功を収めたのか、そして今後はどのような方向性で進化していくのかについて語った。

まず同氏は、CUDAが成功するために3つの法則を踏まえる必要があったとした。1つ目はシンプルかつこれまでのプログラマなどが持つ経験を活かす必要性。C言語をベースとしたことで、これを踏まえることができたとする。2つ目は、そのC言語を必要な部分だけ拡張することで並列演算に対応させたこと。これにより、最小限の労力で並列演算にプログラムを対応させることができるようになることを感じてもらうことができるようになったとする。そして3つ目は、スレッドIDをベースとしたプログラミングの採用。これらの考え方を採用することで、CUDAをシンプルなものにできたことが、現在までに180万ダウンロード、8000の研究機関での活用、そして62か国、640の大学におけるCUDAを用いた教育カリキュラムの提供といったものにつながったとする。

C言語をベースに拡張することで、C言語でのプログラミング経験があれば扱うことが容易であることが受け入れられたという

一方で、ハードウェア側として高効率化と柔軟性の確保、という課題もあったが、こちらはSIMDとMIMDを組み合わせたSIMTを採用することで、ハードウェアの効率性とソフトウェアの柔軟性の確保を実現したとする。

こうした使い勝手の高さから、CUDAはバージョンアップごとにその適用範囲を拡大してきており、多くの研究成果を出し、NatureやScienceなどでGPUコンピューティングを用いた研究成果も報告されるようになってきた。また、産業界としてもGPUコンピューティングの初期に適用された金融業界や原油採掘などの分野のほか、医薬・創薬分野や自動車関連などに適用範囲が広がっており、特に自動車分野ではインフォテイメント分野だけではなく、対人/対物検知による衝突安全やレーン検出、自動運転など、さまざまな応用が研究されるようになっている。

CUDAの進化の系譜。最新バージョンは2012年10月に登場したバージョン5。バージョンアップごとに対応する言語やツールが増えていっているのが分かる

また、そうした適用範囲の拡大を受け、サポートするプログラミング言語の世界も広がりを見せており、例えばOpenACCの活用により、研究者がプログラミングの知識にそれほど詳しくなくてもGPUコンピューティングを活用した研究を行うことができるようになった。さらに、Portland Group(PGI)のようなサードベンダがさまざまなコンパイラの提供を行うことで、その適用分野がさらに拡大を続けており、今後もそうした取り組みが重要である、という観点から、7月29日(米国時間)付で同社はPGIを買収したことも明らかにした。

買収額は明らかにしていないが、NVIDIAの子会社として、従来製品の提供ならびにサービスも継続しつつ、さらなるGPUコンピューティングの発展に向けた研究開発を進めて行くことになるという。

OpenACCの活用により、GPUプログラミングの知識が乏しくても、指示文で指定するだけで自動的にGPUコンピューティングを活用することが可能となった

同氏は、「できるだけGPUコンピューティングを簡単にしたいと考えている」とし、そのための最適化、並列化、そしてOSに対する投資の実行によるOSそのものがGPUを認識し、GPUの性能を手軽に活用できる世界を目指すとした。その一方で、消費電力の問題にも触れ、「我々の役割はエクサスケールコンピューティングの実現に向け、実現可能な電力の範疇で、ユーザーがよりよく並列演算を活用してもらえるようなソリューションを提供していくこと」とし、OpenACCやOpenMP、Pythonなどの他の言語/コンパイラコミュニティとの協力やOSベンダとの協業関係を強めていき、開発者のコミュニティを巻き込む形で、GPUコンピューティングの進化を実現していくことを強調。最後に来場者やユーザーに向けて、「GPUコンピューティングはNVIDIAのものではなく、ユーザーのもの。だからこそ、ユーザー側からもGPUを活用すると何ができるのか、何をしたいのか、といったアイデアをどんどんこちらに出してもらいたい」と、ユーザーあってのGPUコンピューティングであるとした。

GPUコンピューティングの今後の活用に向けたチャレンジの数々。これらを乗り越えていくことで、より手軽かつ身近にGPUコンピューティングを活用できるようにすることがNVIDIAの使命だという