高速通信サービスのLTE/4Gに対応したスマートフォンの普及が進む中、通信各社はLTE/4Gエリアの拡大や高速化に取り組んでいる。しかし、エリア拡大や高速化はもちろん大切だが、ユーザーにとっては実際の通信速度やつながりやすさという"快適にスマートフォンを使えるかどうか"が最重要となる。MMD研究所が7月26日に公表した大阪・名古屋におけるパケ詰まりの実態調査の結果からは、通信各社が公表するエリア化率などだけではわからないLTE/4Gの実態を読み取ることができる。

ソフトバンクは大阪・名古屋ともにパケ詰まりがゼロ

今回、MMD研究所が実施した調査は、大阪、名古屋におけるパケ詰まりの実態を調べたもので、7月16日から19日、22日という平日の通勤ラッシュ・帰宅ラッシュ時に調査が行われた。

調査には、各キャリアのiPhone 5(KDDIとソフトバンクのみ)、Android端末(ドコモはXperia A SO-04E、KDDIはHTC J One HTL22、ソフトバンクはAQUOAS PHONE Xx 206SH)を使用。Yahoo! Japanのトップページが完全に開くまでの表示時間を計測して、完全に表示されるまでに30秒を経過したものをパケ詰まりとしてカウントし、各端末について計600回行った。調査スポットには乗降客数の多い駅が選定され、大阪が大阪駅、なんば駅、天王寺駅、名古屋が名古屋駅、栄駅、金山駅の各3カ所。

結果をまとめると、大阪、名古屋のどちらでもパケ詰まり率が0%だったのは、ソフトバンクのiPhone 5とAndroid端末、KDDIのAndroid端末となった。KDDIのiPhone 5とドコモのAndroid端末ではパケ詰まりが起こった。ソフトバンクがiPhone 5とAndroid端末のいずれでもパケ詰まり率0%と、つながりやすさを印象づける結果を出した。

大阪、名古屋におけるパケ詰まりの実態調査の結果 (拡大画像はこちら)

端末ごとの詳しい結果を見てみると、まずiPhone 5では、ソフトバンクのiPhone 5が大阪、名古屋ともにパケ詰まりが一度も起こらず、パケ詰まり率0%だった。一方、KDDIのiPhone 5は名古屋ではパケ詰まり率0%だったが、大阪では300回中53回のパケ詰まりが起こり、パケ詰まり率17.7%となった。

iPhone 5の大阪・名古屋の各駅におけるパケ詰まり率 (拡大画像はこちら)

Android端末では、ソフトバンクのAQUOAS PHONE Xx、KDDIのHTC J Oneの両端末が、大阪、名古屋ともにパケ詰まり率0%だった。一方、ドコモのXperia Aは、大阪で300回中80回(26.7%)、名古屋で300回中27回(9.0%)のパケ詰まりが起こった。

Android端末の大阪・名古屋の各駅におけるパケ詰まり率 (拡大画像はこちら)

なお、今回の調査は6月に実施・公表された「東京JR山手線でのWEB表示時間調査」の続編にあたる。東京における調査では、まずiPhone 5のパケ詰まり率について、ソフトバンクのiPhone 5が2.3%、KDDIのiPhone 5が20.4%。Android端末のパケ詰まり率は、ソフトバンクとKDDIのAndroid端末が0%、ドコモのAndroid端末が4.9%となっており、OS別の各社の順位は今回と同様だった。

また、Yahoo! Japanのトップページが完全に開くまでの表示時間は、iPhone 5については、大阪、名古屋ともにソフトバンクのほうが表示が早かった。大阪での全期間の平均表示時間は、KDDIのiPhone 5が11.37秒、ソフトバンクのiPhone 5が2.79秒。名古屋では、KDDIのiPhone 5が6.47秒、ソフトバンクのiPhone 5が2.72秒だった。

iPhone 5でWebページが表示されるまでの時間(大阪) (拡大画像はこちら)

iPhone 5でWebページが表示されるまでの時間(名古屋) (拡大画像はこちら)

Android端末については、大阪での全期間の平均表示時間は、ドコモのXperia Aが11.30秒、KDDIのHTC J Oneが2.88秒、ソフトバンクのAQUOS PHONE Xxが3.56秒。名古屋では、ドコモのXperia Aが6.76秒、KDDIのHTC J ONEが2.82秒、ソフトバンクのAQUOS Phone Xxが2.95秒。大阪、名古屋ともにKDDIとソフトバンクが僅差で1位、2位となり、差が開いてドコモが3位で続く結果となった。

Android端末でWebページが表示されるまでの時間(大阪) (拡大画像はこちら)

Android端末でWebページが表示されるまでの時間(名古屋) (拡大画像はこちら)

各キャリアの状況・取り組みから要因を考える

今回の調査でiPhone 5、Android端末のいずれでも健闘を見せたのがソフトバンクだ。同社が5月に開催した夏モデルの発表会では、孫社長が自ら「パケ詰まり」に言及し、それを回避するための取り組みについて紹介した。iPhone 5が対応するLTEネットワークについては、既存の2GHz帯に加え、同社が買収したイー・アクセス所有の1.7GHz帯を併用する「ダブルLTE」を進めている。また、特に人口の多い都市部では、「小セル化」で基地局を細かく設置し、トラフィックを分散してパケ詰まりを防ぐ設計を行っている。これらの取り組みが、今回の結果にも大きく貢献したことが推測される。

KDDIは、Android端末では大阪・名古屋でパケ詰まりゼロと健闘したが、iPhone 5では大阪でパケ詰まりが起こり、Webページの表示時間でもソフトバンクに負ける結果となった。これには、同社が複数の周波数帯のLTEネットワークを使用しており、端末によって対応する周波数帯が異なることが影響していると考えられる。具体的には、800MHz・1.5GHz・2GHz帯という3種類のLTEネットワークを用意しているが、800MHz・1.5GHz帯を利用できるのはAndroid端末のみで、iPhone 5が利用できるのは2GHz帯のみとなっている。利用できる周波数帯の少なさが、今回KDDIのiPhone 5にとって不利に働いたと言えるだろう。

ドコモのAndroid端末は、大阪・名古屋ともにパケ詰まりが起こり、Webページの表示時間でも振るわなかった。5月に開催された夏モデルの発表会以降、同社は「LTEの強さ」を打ち出し、LTEエリア拡大や高速化などの取り組みを進めているが、今回結果を出すことはできなかった。もっとも、国内最大のユーザーを抱える同社だけに、とりわけ都市部ではネットワークが混雑しがちなことは容易に推測できる。しかし、個々のユーザーにとっては、自分が快適にネットワークを使えるかどうかが重要であり、ユーザーの多さは"言い訳"にはできない状況だと言える。

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スマートフォンのステータスバーには「LTE」や電波強度のアンテナが表示されているのに、実際には通信がつながりにくいと、ユーザーは"パケ詰まりが起こっている"と感じる。とりわけ都市部において、スマートフォンを利用する際のパケ詰まりは、ユーザーにとって見過ごせない問題となっている。

今回の大阪・名古屋における調査は、6月に実施された東京での調査とあわせて、都市部でのパケ詰まりの実態を明らかにしたもので興味深い。ネットワークの整備は一朝一夕ではできないため、長期的な視点で見ていく必要があるが、ユーザーにとっては今すぐ快適に使えるかどうかが最大の判断材料であり、今回の調査結果はキャリアを選ぶ際の参考となるだろう。