2013年のNVIDIAのGTCにおいて、Caterpillarは開発に使用している全周バーチャルリアリティ環境について発表を行った。ブルドーザなどについている無限軌道をキャタピラと呼ぶことがあるように、同社は建設機械や鉱山用の超大型ダンプトラックなどの大手メーカーである。また、あまり知られていないが、発電機なども作っているという。

開発のフェーズと設計変更のコストと修正にかかる時間(この記事のスライドは、すべてGTC 2013におけるCaterpillarの発表資料から抜粋したもの)

良く知られているように、開発のフェーズが概念設計、詳細設計、試作、評価、製造と進むにつれて設計の変更に必要な費用は増大し、変更を行うのにかかる時間は長くなる。また、フェーズが進むにつれて、いろいろなオプションを検討して設計を最適化することも難しくなる。従って、最初の概念設計のフェーズで問題点を見つけ出し、設計を最適化することが重要である。

そのため、同社は、洞窟のような全周の画像投影システムを作り、概念設計段階の機械を3Dグラフィックスで投影し、その中で人間が仮想の機械を操作して設計を評価するバーチャルリアリティ環境を作っている。

環境の実現に当たっては、動きのセンサにジッタが無いこと、すべてのディスプレイが同期してリフレッシュされることが重要

このようなシミュレーションシステムでは、表示は3Dであり、50Hz以上のフレームレートが必要であるほかにもう1つ、照明のついた環境で見られる明るさを実現することが重要であるという。また、人間の動きを検出するトラッカーは10mm以下の位置検出精度を持ち、ジッタ(人間は止まっているのに、検出した位置が震えて回りの画像が動いてしまうこと)が無いことが重要である。

そして、シミュレーションを行って画像や音などを生成するコンピュータは10fps以上の速度を持ち、すべてのディスプレイが完全に同期してリフレッシュされることが重要であるという。例えば、右目と左目のディスプレイのリフレッシュのタイミングがずれていると、下側の図のようにWall2の上は右目のデータを表示しているのに下には左目のデータが残っているというような違和感のある表示になってしまう。

同社ではこのシステムをデザインレビュー、エルゴノミクスの評価、組み立て性や保守性の検証、工場のレイアウトの検討、機械の操縦者の視界の検証などに使用しているという。

次の図は操縦者の視界の検証の例で、左端の写真のようにモックアップの操縦席を作り、プロの操縦者を座らせる。レバーを操作したり顔を動かしたりすれば視界が変わり、周囲の状況が実際に機械を操縦したように反応する。

建設機械の操縦者の視界の検証の例。左端の写真のように操縦席を作り操縦者を座らせて視界を評価する。最初の設計は左から2番目のように正面が見えるが、操縦者が使った結果、その右の中央に柱のある構造に変更した

最初の設計は、正面に窓があり、左右に2本の柱があるものであったが、長いブレードが前についている機械なので、操縦者は正面を見る必要はなく、左右の下側が見えることが重要という指摘であった。そこで、中央右の写真のように正面の太い柱1本で屋根を支えるという設計で、再度、操縦者に評価してもらうと、非常に良くなったという評価で、右端のような設計になったという。 そして、このようなシステムでは、すべてが実物大に見えること、操縦席などの実際のモノと投影された仮想のモノの位置関係が正しくなっていることが重要という。

保守性と組み立て性の評価の図。人間が手を使って、青色の部品を交換したり取り付けたりすることができる

保守性や組み立て性の評価の場合は、投影した仮想の機械をトラッカーをつけた人間が触って、部品を取り外したり、取り付けたりする。その場合、他の部品とのぶつかりもシミュレーションされるので、手が入らない、部品が入らないなどの問題を検出することができるようになっている。

このように同社は、全周バーチャルリアリティと本物の人間がインタラクションするというシステムを作り、開発の初期の段階で問題の検出と設計の最適化を行っているという。