ソニーの「PS4」は正式発表に至り、次期Xboxと噂されている「XBox720(仮称)」との比較記事が海外で盛り上がっている。だが、個人的にはPS4が備える「PlayStation 4 Eye」と、次期Kinectに位置する「Microsoft Kinect 2.0(仮称)」が興味深い。先頃リークされた情報によると、USB 3.0対応や1920×1080ピクセル/30fpsといったスペックを搭載するらしく、ゲームもさることながらNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)デバイスとしての可能性に夢が膨らまないだろうか。そんな話題を振りまくMicrosoftだが、今週はBill Gates氏が海外のインタビューで答えたモバイル戦略の失敗と、Windows Phoneと次期Windows OSと噂されている「Windows Blue」の関係性について注目する。

モバイル戦略のミスを認めたMicrosoft

米国の老舗コンピューター雑誌「PCWorld」のWeb版に「Microsoft made a mistake with its mobile strategy, says Bill Gates」という記事が掲載された。意訳すると「ビル・ゲイツいわく、マイクロソフトのモバイル戦略は誤りだ」といったあたりだろう。記事の内容を要約すると、Gates氏は米国のニュース番組「CBS This Morning」のインタビューで、携帯電話/スマートフォン市場で先行する他社の後塵(こうじん)を拝したことを認めたという(図01)。

図01 PCWorldの記事。海外メディアを筆頭に国内メディアでもGates氏の発言を報じている

Microsoftの携帯電話/スマートフォンへの参入は、専用OS(オペレーティングシステム)である「Windows Mobile」が主軸となるが、それ以前に開発したOS「Windows CE(現在はWindows Embedded CE)」の存在が大きい。同OSはWindows 95が主流OSだった頃の1996年11月にリリースされた、組み込み機器向けの32ビットRTOS(Real-Time Operating System)である。主にPDA(Personal Digital Assistant)向けとしてMIPS系プロセッサやARM系プロセッサ、Intelのx86向けも用意された時代がある(図02~03)。

図02 「Microsoft Windows CE 5.0 Device Emulator」で起動した「Windows CE 5.0」

図03 Windows OSと同じデスクトップの概念が用いられている。また、Internet Explorerなど、おなじみのデスクトップアプリも完備

その後Microsoftは、Windows CE 3.0ベースの「Pocket PC 2000」「Pocket PC 2002」などをリリースし、2005年8月に現在の流れに至る「Windows Mobile 5.0」にたどり着く。こちらはWindows CE 5.1ベースだが、スマートフォンでの利用を前提としたUI(ユーザーインターフェス)を採用し、それまでのPDA一辺倒だった方向性を大きく変えた初めてのOSである。2007年2月にはWindows CE 5.2ベースの「Windows Mobile 6」。同じくUIを刷新し、Windows Vistaベースに変更。この時点でもWindows OSの資産を利用するための連動性は維持したままだ。ちなみにこの時点でWindows CE 6.0は開発完了していたが、Windows Mobile 6への採用は見送られている。なお、2008年4月には「Windows Mobile 6.1」もリリースした(図04~05)。

図04 「Windows Mobile 5.0 Emulator」で起動した「Windows Mobile 5.0」。PDA向けのUIに変更されている

図05 同じく公式エミュレータで起動した「Windows Mobile 6」。UIデザインの変更に注目してほし

そして2009年2月には、Mobile World Congress(モバイルワールドコングレス:、世界最大級の携帯電話関連展示会)において「Windows Mobile 6.5」。翌年の2010年2月は同イベントで「Windows Phone 7」を発表している。このあたりは近年の話なので詳細は割愛するが、Microsoftが携帯電話/スマートフォン向けのOSであることを明示したことは、変更した製品名からも明らかだ。Windows Mobileの後継OSとなるWindows Phoneは当初エンタープライズ/ビジネス向けOSという戦略で進められていた。

だが、1997年に発売された「BlackBerry(ブラックベリー)」は、その頃既に米国を中心としたスマートフォン市場のシェアを拡大しつつあり、2007年には「iPhone」がデビューしている。その3年後になってコンシューマ向けにも視野を広げているのだから、遅きに失するとしか言いようがない。Microsoftを擁護するつもりではないが、早期から同社はスマートフォン市場に参入し、2002年には「Pocket PC Phone Edition」というOSを搭載した携帯電話を発売している。また、2000年代半頃は、Windows XPに続く次期OSの開発が進まず、混乱期と述べてよい次期だった。もちろん開発チームは異なるものの、軸となるWindows OSの開発状況がモバイル戦略の足枷(あしかせ)となった可能性は高い(図06)。

図06 OSの製品名を変更した「Windows Phone 7」。ターゲットは既にPDAからスマートフォンに変更された

Microsoftは、カーネルをWindows 8などと同等のWindows NTベースに変更した「Windows Phone 8」を2012年10月29日にリリースした。プロセッサ数の制限が取り除かれ、デバイスドライバーの移植性が向上するなど、OSとしての魅力性は高い。だが、執筆時点で国内市場に目を向けると、いまだに同OSを搭載したデバイスは発売されておらず、海外市場もHTCやNokia、Huawei、Samsungのみとなる。面白そうなOSながらもスマートフォン市場はWindows Phone 8を受け入れていない。いや、iPhoneやAndroid搭載デバイスの勢いに追いついていないと述べるのが正しいだろう(図07)。

図07 最新版となる「Windows Phone 8」。残念ながら日本国内では同OS搭載デバイスは発売されていない(並行輸入品を除く)

今年のMobile World Congressでは、台湾のASUSや一度撤退した韓国のLGがWindows Phone 8対応デバイスのリリース発表が予定されている、という話が聞こえてくることを踏まえると、Windows Phoneシリーズの将来をさほど悲観する必要はない。米IDCが発表した2012年第4四半期のOS別世界スマートフォンシェアを見るとAndroidが49.2パーセント、iOSは18.8パーセント。三位四位と続いてWindows Phoneは五位の1.8パーセントに甘んじているが、カーネルの共通化で本当の連動性を期待できるからこそ、Windows Phoneが備える可能性は大きい。今後はさらにMicrosoftが選択する携帯電話/スマートフォン戦略が重要になりそうだ。