【レポート】

クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【2】

1月25日、26日の2日間、石川県金沢市が主催するデジタルメディアイベント「eAT KANAZAWA 2013」(イート・カナザワ、以下eAT)が、今年も錚々たるゲストと多数の参加者を迎えて開催された。

【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【1】

Special Seminar「無用の用。独創性で世界と向き合う」

eAT2日目のプログラム開始に先立ち、金沢市文化ホール・大ホールに登壇したのは、eAT実行委員会会長でもある金沢市長・山野之義氏だ。山野市長は挨拶の中で、「他者があっと驚くようなアイデアや、あまりにも大きな問題に挑むことばかりがクリエイティブではない。それを成し遂げる人達はもちろんいるが、たいていの場合、待っているのは中途半端な結果である。一つ一つの地道な問題解決や取り組みこそが大切であり、その積み重ねが我々の未来を作っていくことになる。このeATを通じて、何かひとつでも新しい発見、新しいアイデアを参加者全員に持って帰ってもらえれば、主催者としては大成功だ」と話した。

1月26日の最初のプログラムは、「スペシャルセミナー・B+デザイン」。ビジュアルデザインスタジオ鹿野護氏による「無用の用。独創性で世界と向き合う」というタイトルのセミナーから始まった。鹿野氏は仙台、東京、ロンドンに拠点を持つクリエイティブ集団「WOW」の取締役兼アートディレクターで、コマーシャル映像からソフトウェア開発、アートインスタレーションといったビジュアルデザインを手がけている。

今から17年前、ベンチャーとして仙台で活動を開始した鹿野氏が、これまで一貫して軸においていることが有用と無用だという。そして2010年3月11日、これまで有用だと思っていたものが一気に無用になってしまう体験をした。震災と津波だ。仙台に程近い風光明媚な観光地、松島に住む鹿野氏も、被災者の1人。いまなお周辺には津波で鉄道が壊され、復旧の目処さえ立っていないところがある。震災直後、近所のスーパーからはすべての生活必需品が消え去った。これまで自分たちが生み出してきたモノやコト、つまりデザインやアートといったものがすべて無駄なものに思え、また精神的余裕のなさから音楽や本にも価値を見い出せない時期が数カ月続いたという。

だが、久々に仙台の街へ出てみたとき、鹿野氏はある光景に出会う。それは花屋さんにできた人だかりだった。「花なんか食べられないのに、どうしていま売っているのか?どうして人だかりができているのか?」鹿野氏はそのとき、生活必需品がなくてはならない存在であるように、その先には、どう生きていくかというマインドや心の豊かさ、人間らしさを感じさせてくれるものの存在が大切なんだとあらためて気づかされた瞬間だった。「だから自分たちは花のような存在になりたい」その発見が、現在のWOWが行うビジュアルデザインという表現活動の新たな原動力として影響を与えている。

さて、セミナーのテーマである「無用の用」とは、役に立たないと思われているものが、実は大切な役割を果たしているという意味だ。鹿野氏のセミナーはこの無用の用の発見と視覚化、そして有用と無用という二極の外側にある未知の価値について、所属するWOWの作品や仕事、ラボを例に話を進められた。

有用と無用、言い換えれば役に立つものと役に立たないものになるが、特に今回のeATのテーマである「B+」から考えれば、一見役に立たないと思われることを会社でやろうとする場合には、多くの切迫した状況が生じてしまう。だから、有用と無用の切り分けがどうしても先に来てしまう。しかし、それは置かれた立場や常識の中での判断基準だという認識を持たないと誤った選択をしかねない。このケースではどちらなのかを確認する作業から入らなければ、その先にある(デザインの)在り方やビジネスには結びつかないのだ。つまり「相応しいデザインの在り方は二極の視点だけでは生まれてこない」と鹿野氏はいう。また、世の中には多くの有用と無用、そしてどちらかわからないものが存在しているが、短期的な視点だけでそれらを捉えてしまうことは危険だと、いくつかの具体事例をもとに説明した。

一方で、視点という意味においては、例えば子どもが抱く「どうしてなの?これは何なの?」という強い好奇心のようなものが重要だという。長い間、中にいるから気づけないこと、自分の領域以外との接点を持つことで生じる「どうしてなのか?」が、ものづくりにおける大きな原動力になる。そんな観点から生まれる発想をカタチにするための活動を行っているのが「WOW LAB」。すぐには仕事に結びつかないもの、大勢では始められないけど一人ではできないことという制約を設けた枠組みの中で、所属するメンバーが毎年さまざまな学びや実験、コラボレーションを行っている。

こうした活動や実験は、自分たちの強い好奇心の積み重ねときっちりとしたドキュメンテーション化、プレゼンテーションによって、やがて世界中の「好奇心」に目撃されることにつながる。勝負をする場所や手法に決まりはない。大切なのは好奇心の連鎖が生まれる仕掛けだ。(自分たちの作品が持つ) 好奇心のソースが、公開によっていずれ世界中の「好奇心」に目撃され、大きなビジネスになっていくこともあると鹿野氏は話す。そして最後に、自分たちの手が届かないところで、自分たちのやっている活動がどんな影響を与えているかを象徴する、あるYoutubeの動画で締めくくった。その動画は、WOWの映像作品をテレビで見ている少女が、思わず口にした「Wow!(ワーオ!) 」という強い好奇心だった。

(取材:Mac Fan/小林正明、岡謙治)



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