2009年、ジェームズ・キャメロン監督作品『アバター』の公開により、一気にメジャーな存在となった3D映画。近年では、劇場公開される多くのハリウッド大作が3D版としても公開されるなど、ますます広がりを見せている。しかし、実は意外にも3D映画の歴史は古く1950年代まで遡り、さらには映画創世記に既にあったという事実がある。また、2Dよりも3Dの方が先に生まれたという説も……。今回は、立体映画の100年に及ぶ歴史をまとめ、仕組み、歴史、作品を完全解説した書籍「3D世紀/驚異!立体映画の100年と映像新世紀」(ボーンデジタル刊)の著者であり、日本及びアジア圏初の3D映画などを手掛けたアスミック・エースのプロデューサーである谷島正之氏と、第25回東京国際映画祭コンペティション部門に於いて、3D映画として初めて受賞(観客賞)を受けた最新作『フラッシュバックメモリーズ 3D』が現在公開中の映画監督 松江哲明氏のおふたりに3D映画の魅力や最新事情などについて大いに語ってもらった。

アスミック・エースのプロデューサー 谷島正之氏(左)と映画監督 松江哲明氏(右)

――まずは、簡単に3D映画の魅力や、楽しみ方について教えていただけますか?

松江哲明(以下、松江):3D映画の第一印象は、久々に映画館でしか味わうことのできないモノ(手法)が登場したなといった感じを受けました。とても、興奮したし、嬉しかったですね。今の3D映画は、『アバター』で一般的に認知されることになったと思うのですが、個人的にはロバート・ゼメキス監督の3Dアニメーション映画『ベオウルフ/呪われし勇者』を見て仰天したのが、3D映画との最初の出会いでした。当時から3Dは、通常の2D映画より、やや料金が割高だったのですが、それだけの価値が十分にありましたよ。今は3Dテレビなどもありますが、やはり3D映画は映画館で楽しむべきコンテンツといえると思います。それまでの3D映画に認識は、赤と青のフィルムメガネをかけて鑑賞するようなものでしたから、3Dシステム"XPAND(エクスパンディ)"の超ゴツいゴーグルなども衝撃的でしたね(笑)

谷島正之(以下、谷島):確かに!! 僕も、XPANDのゴーグルを最初に手にしたときは、驚かされましたね。すごいゴツいなぁって(笑)、これが最先端3Dの在り方なのかと。

松江:それからしばらくの間は、あまりのゴーグルの豪華さにXPAND方式が他の3Dシステムと比較して、特出して良いものなのかと勘違いしていたくらいですからね(笑)。もちろん、その後に様々なシステムを体験して、色々と各3Dシステムの長所・短所がわかってくるわけなんですが……。とにかく、『ベオウルフ』3D版との出会いはインパクト大でした。雑誌「映画秘宝」内でも、その年のベスト1に迷わず推薦したくらい、本当にオススメです。僕は、素直に今の3Dブームがとても楽しいですが、世論的にはそこまで流行っていないのかなという印象もありますよね。

谷島:僕は、もともとスペクタクルやアドベンチャーといった"体感映画"が大好きだったんです。そんな僕にとって、3D映画は究極の体感型エンタテインメントだと言えますね。一般的に「没入感」といった言葉で表現されることが多いのですが、違和感なくスクリーン(=物語)の中に入っていくことのできる独特のリアリティー、臨場感は、3D映画ならではの魅力といえるのではないでしょうか。映画の中の登場人物と同じ時間を生き、共有するような感覚が、従来の2D映画に比べてより深く味わえるのが堪らなく好きなんですよ。3Dでは、2Dでは表現できなかったリアルな、崇高な映像世界を構築できる共に、「ほら、飛び出すぞ」といったある意味で低俗な発想も同時に表現できる。崇高と低俗が常に入り乱れる、そんな感覚が3D映画をよりエンタテインメントとして面白くしているのだと思います。近年の3D映画では、奥行き感の表現が重視されていますが、3Dなら飛び出さなければ意味がない! 観客の期待に応えて、絶対に飛び出さなきゃダメ! しかし、飛び出しすぎれば、それは単なるあざといB級な3D映画にしかならない。その絶妙なバランスを見極め、ブレンドすることこそが、3Dとしての満足度と映画としてのクオリティ設計を完全なものにする最大のポイントになりえるのではないでしょうか。

――逆に、製作者の立場からは、3D映画に関してどういった印象をお持ちなのでしょうか?

松江:3D映画を実際に撮ってみて気づいたのですが、3D映画は例えば相米慎二監督のような長回しで撮る監督の方に向いてると思います。特に、カットでなくショットで撮る映画、フレームの外が描かれているような映画では、その魅力が倍増しそうです。フレームの外から何かがでてきて、それをじっくり撮るようなシーンは、3Dとの相性が抜群だろうなぁと。個人的には、テオ・アンゲロプロス監督『旅芸人の記録』(1975年)とかも、3Dだったら最高じゃないかと思うんですよ。

谷島:いいですね! それは、ピッタリかもしれない(笑)。『ユリシーズの瞳』(1996年)とかも、より凄い空間が目の前に現出し、オリジナルからより迫力が増した3D映画になるじゃないかなぁ。僕も見てみたい。

松江:2Dだと退屈してしまいそうなことも、3Dで見せることでまったく違う感覚になりますよね。また、演出面では、観客の視点を誘導しやすいといったメリットもあります。スクリーンの中でも、「ここを見てほしい! 」といった製作者側に意図を明確に伝えやすいんです。ビデオなどで、引き画の長回し映画を見ると画面を全体的に捉えてしまうので、観客がどこを見ていいのか分かりづらくなるのですが、劇場の3D映画ならそれをより的確かつ容易に演出することが可能になります。

谷島:監督がおっしゃる通り、3Dならではの演出方法が積極的に活用されていないことが、本当に勿体無いと思っているんです。僕は「3Dコリオグラフィー」と言ってますが、3Dの振り付け、いわゆる立体作法です。2Dは横(X軸)と縦(Y軸)の2次元の世界、それに対して3Dは3次元の奥行き(Z軸)が加わってきますよね。さらに、スクリーンの手間の部分についても別の空間として演出できるわけですから、合計4つのベクトルを使いこなさないと3D映画はつまらないんですよね。もちろん、画面からただ飛び出すだけでなく、飛び出すことに何らかのコンセプトがあることが大切! 例えば、松江監督の新作『フラッシュバックメモリーズ 3D』では、画面の奥には過去があり、中央のスクリーン面には現在、さらに手前には未来が飛び出し、表現されています。2次元を超える3次元の3D活用法が、同時に"3時空"を表しており、観客が体感できるわけです。これは、今までなかった、まったく新しいコンセプトを持った3D映画なのではないか! と感動させられました。

松江:今の谷島さんのお話を聞いて思い出したのが、3D版の『バトルロワイヤル』なんです。もちろん、個人的に好きな映画ではあるんですが、初めて泣いたのは3D版でしたね。3Dならではの演出により、子どもたちの戦いの切なさや深作監督のメッセージが、ダイレクトに伝わってすごく感動したのを覚えています。まぁ、30歳を過ぎて自分が歳をとったのもあるかもしれないですが(笑)。それから、『バトルロワイヤル』にあるゲーム性みたいなものが、3Dになることでさらに拡張されているも魅力に感じられました。

谷島:お話した3D映画にある4つのベクトルの使い方は、もっと多種多様あって良いはずです! 槍を突き出したときに画面から飛び出すといった単純なものだけでなく、特に3D映画のZ軸(スクリーン面を中心とした奥と手前)に割り当てられるアイディアは、コンセプチュアルなものであればあるほど面白みが増していくと考えています。3D映画を活かすためには、僕は「3Dコリオグラフィー」と言ってますが、3Dの独特の振り付け、いわゆる立体作法が必要になってきます。これについては、クリエイターのセンスや遊び心、ある種の“外連味”のようなものが大切になってきます。逆に、それらを最大限に発揮できるのが3D映画ということになるのではないでしょうか。

さて、まだまだ盛り上がりを見せるお二人の3D映画対談の模様は、「3D映画の製作現場や視聴環境」などの話題を中心に、次回後半をお送りする予定なのでお楽しみに。なお、松江哲明監督の最新作『フラッシュバックメモリーズ3D』は現在、新宿バルト9ほかで、全国順次公開中。