2012年11月14日から16日にかけて、パシフィコ横浜で「Embedded Technology 2012(ET2012)」が開催された。ここ数年、ETでは必ずIntelによる招待講演が行われており、今年も11月14日にIntelのJim Robinson氏(Photo01)による「インテリジェント・システムへの転換 ~クラウド時代における新しい組込み機器像とビジネス機会~」と題した講演が行われた。そこでこの講演の内容と、これの後に行われたラウンドテーブルの内容をまとめてレポートしたい。
まず氏は、様々な業界・様々な国で現在大きな変革が起こっており(Photo02)、これは組み込み業界にも大きな影響を与えているとした上で(Photo03)、具体的な説明に入った。
Photo02:M2Mをはじめ、様々な機械がすべて接続するようになる事で、これまでと色々な事柄が変わってくるとする |
Photo03:「この結果としてどう変わって行くかを、PowerPointではなく実際に見える形説明する」としたが、やっぱりPowerPointのスライドは続くのであった |
まずデータ量の爆発がある。Connected Deviceとそのデータ量のトータルもさることながら(Photo04)、単に繋がるだけではなくIntelligence性を備えたデバイスが増え(Photo05)、Embedded向けにもこうしたデバイスが増えてくる(Photo06)とした。ついでに言えば、IDCその他の推定で、このマーケットでは現在6億ドルのマーケット規模だが、今後4年でこれが13億ドルまで広がるという数字もあり、これは大きなビジネスになるとしている。
Photo04:この数字は最近ちょっとおなじみというか、食傷気味な感もある。数字そのものは昨年のものと同じ。というか、写真も同じ |
Photo05:これについては後で氏に"例えば8bitとか16bitのMCUも、6LowPanとかTCPのスタックとかを搭載してInternetに繋がるが、どこまで含むのか?」と尋ねたところ、あくまでも32bit以上で高レベルのOSが動くものということで、MCUというよりはMPUのみが対象のようだ |
Photo06:したがってこちらも、32bit MCU(Cortex-Mシリーズなど)ではなく、MPUベースの組み込み向けシステムということになる |
こうしたEmbedded向けIntelligent Systemに向けて今年9月のIDFでIntelが提供をしたのがIntel Intelligent System Framework 1.0である(Photo07)。ちょっと講演レポートから離れるが、Intel Intelligent System Frameworkを使うと何が便利か? というのがこちら(Photo08)。要するに様々なIoT(Internet of Things)デバイスを容易に作りこむと共に、それぞれのデバイスや、あるいはデバイスとクラウドが簡単に相互通信できるようなフレームワークを用意しよう、ということだが逆に見ればこうしたデバイスをIAアーキテクチャに囲い込むための仕組みといえなくも無い。
Photo07:Intel Intelligent System Framework 1.0は、簡単に言えばIoT(Internet of Things)を構築するためのプラットフォームというべきだろうか |
Photo08:こちらの写真はIntel Embedded Communityのblog記事から拝借した。趣旨はまぁ判るのだが、これだけ多彩な機器をまとめて作る会社はそう無い気がするのは気のせいだろうか? |
まぁそうした思惑はともかく、Intelはエコパートナーと共同で、この方向への加速を進めるとしており(Photo09)、このための第一歩がIntel Intelligent System Frameworkという位置づけである(Photo10)。
従来型のEmbedded Systemは単一機能を持ったスタンドアロン動作のものだったが、それがこれからはもっと変わってくるとしており、まずその一例として自動販売機を取り上げた(Photo11)。
日本には約500万台の自動販売機があり、例えば最近のものの中には地震があると無料で中の製品を提供するといった、驚くべき機能を持ったものもあると説明。だから、もはやこうした自動販売機がIntelligenceであることは珍しくないだろうと紹介した(Photo12,13)。こうしたものの1つとしてIntelが開発した「インタラクティブ試供マシン」が紹介された(Photo14~15)。この試供マシンは、単にゲームを行うだけではなく、同時に顔認識などを利用して、プレイしたユーザーの特徴データなどを同時に分析し、あとで解析するといった機能も持っている(Photo16)事が紹介された。
次は自動車向けの話。Intelligent Systemが急速に伸びつつある分野の1つは車載向けだとした。例えば世界では毎週あたり平均18時間を運転に費やしている(言うまでも無く車での通勤時間である。なので米国ではもうちょい長く、逆に日本などではもっと短い)という数字があり、ここでコネクティビティを高めるというニーズはこれからもっと出てくると説明した。Intelは過去7年の間に膨大な投資をこの分野に行っており、こうした一環として、今年2月にAutomotive Innovation & Product Development Centerをドイツに開設したことに触れた(Photo17)。このAutomotive Innovation & Product Development Centerでは様々なメーカーと共同開発を行うことを目的としており、この中にはトヨタや日産なども含まれるという。
Photo17:拠点は独Karlsruheに設置される。当然ながら目的はドイツの自動車関連メーカーとの協業に便利な場所ということである。「日本での開設は?」と一応突っ込んでみたが、今のところはまだ予定はないそうだ |
これに続き、ゼンリンとの協業を発表した(Photo18)。これはHTML5をベースにすることでPCからTabletや携帯、車載インフォテイメント向けなど多様な環境で地図情報を利用できるようなアプリケーションの開発に向けての取り組みを行うという話であった。
Photo18:ゼンリンが試作した、HTML5ベースのナビゲーションシステムの動作デモ。ただ会場ではWi-Fiの接続状態がよくないということで、PC上での動作となった。このデモシステムは、ニューフォリアが担当しているものだが、これはあくまでもコンセプトモデルとの事 |
最後の話は産業向けである。いわゆるSmart GridなどにおけるIT活用のニーズは広く知られているが、同様にConnected Factoryといった要素が今後求められてくるとしている(Photo19)。こうしたニーズに対応したソリューションをIntelは用意しているとしており(Photo20)、これの具体例として装置の故障管理システムの実演デモを行った(Photo22,23)。
Photo21、22:左側のロボットアームは、右の6×6の升状の棚に製品を送り込む、という模擬動作を行うもので、この動作を監視するシステムがこれとは別に動いているという想定 |
Photo23:左下が監視システムのモニター画面。ここではロボットアームが右上の棚に製品を送り込むときの位置ずれが次第に大きくなってゆくのを検知し、障害になる前に警告を出すというデモが行われた |
最後に、「こうしたIntelligent Systemはビジネスを、それも単に売り上げだけでなく、地球上の人々の暮らしをもっと豊かに出来るという可能性があり、これをIntelは支援してゆきたい」と締めくくって氏の講演は終わった。