これまでのCUI(キャラクターユーザーインターフェース)やGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)に続くUI(ユーザーインターフェース)として注目を集めるNUI(Natural User Interface:自然なユーザーインターフェース)。そのNUIを具現化したデバイスの一つが、Kinect for Windowsだ。2012年2月にリリースされたばかりだが、同デバイスの公式ブログ「Kinect for Windows Blog」では、Windows 8のデスクトップアプリなどへの対応を行う旨の発表が行われた。今週はNUIとKinect for Windows、そしてWindows 8の関係を再考する。

Windows 8レポート集

NUIを具現化したKinect for Windows

Windows OSの新しいUIとして注目を集めるKinect for Windows。本来はMicrosoftのコンシューマーゲーム機器であるXbox 360の体験型ゲームデバイスとしてリリースしていたが、2012年2月にWindows OS上で使用するKinect for Windowsを正式リリース。このデバイスについて語る前に少し歴史を振り返ってみよう。

同社は以前から新しいUIを模索してきたが、そのなかでも研究者として有名なのが、Microsoft Researchに所属しているBill Buxton(ビル・バクストン)氏。同氏は2005年12月からMicrosoft Researchの主任研究員として在籍しているが、それ以前はブティックデザインとコンサルティングを行う会社の代表を務め、1980年代はXEROX(ゼロックス)のパロアルト研究所にも在籍していた。UIやUX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)について自身の考えを述べた著書「Sketching User Experiences」も上梓している(図01)。

図01 Microsoft ResearchのBill Buxton氏

そのバクストン氏がMicrosoft Researchで研究してきたのが、NUIだ。Microsoftに限らずNUIに関する研究は行われており、Perceptive Pixelなどが有名だが、Microsoftが2012年7月にPerceptive Pixelを買収していることを踏まえると、現在NUIに取り組んでいるのはEdusimとMicrosoftぐらいといえるだろう。

バクストン氏が出演するビデオを視聴すると、同氏の思考にある「自然」が、一つ一つのジェスチャーを意味するものではなく、対象物に沿った行動を自然に行うという意味を込めていることがよく理解できる。NUIはそれ自体が存在せず、透明な状態で浸透することを目標にしているのだろう。

皆が実感しているとおり、我々はキーボードやマウスから解放されつつある。iPadやAndroid端末に代表されるタブレット型コンピューターの台頭は、時代の変化を示すものであり、Windows 8もタッチパネルによる操作を前面に押し出している。同社は2007年5月にNUIの実装例として「Microsoft PixelSense(旧Microsoft Surface)」を発表しており、のちに「Kinect for Xbox 360」として世に出ることになる「Project Natal」を初公開したのは2009年6月である(発売は2010年11月)。

本来であればMicrosoft PixelSenseに注目したいのだが、同バージョン1.0は1万2500ドル(円ドル80円試算で約100万円)、同バージョン2.0は7600ドル(同資産で約60万円)と、まだまだ気軽に手が届くデバイスではない。そこで注目したいのが、Kinect for Windowsだ(図02)。

Kinect for Windows。税込価格はマイクロソフトストアで2万4,800円

前述のとおり2012年2月にリリースされた同製品だが、現時点ではアプリケーション不足のため、ソフトウェア開発環境や能力がなければ意味をなさない。同社もSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)を用意するなど、普及率を高める努力をしている。2012年5月にはSDKをバージョンアップし、開発サイクルを短縮するKinect Studioや、NUIを実現するためのガイドラインHIG(Human Interface Guidelines)をサポートした。

そして今年10月8日には、このSDKをバージョンアップし、企業におけるKinect for Windowsの活用を拡充させるため、カラーカメラ設定や奥行きなどセンサーデータへのアクセス機能を拡張。この他にもMicrosoft .NET 4.5やMicrosoft Visual Studio 2012で使用できるサンプルを用意するという。これらの変更と共にWindows 8のデスクトップアプリもサポート。以前から公表していた販売チャンネルを拡大し、バージョン1.5時点での15カ国から38カ国に増加するという(図03)。

紫色は既に販売が行われている国。水色が新たに加わる販売国

既に日本では、マイクロソフトストアから2万4,800円で購入可能だが、現時点ではコンシューマーレベルに広まっているとは言いがたい。Xbox 360用は1万4,800円に価格改正しているが、Kinect for Windows担当ジェネラルマネージャのCraig Eisler(クレイグ・アイスラー)氏によると、「コンピューターでの動作保証や同社との有償契約を結ばずに対応アプリケーションを作成できる」ため、価格改正はしばらく先の話のようだ。

コンシューマーゲーム機器を除けば、現時点でNUIを体感できるのはKinect for Windowsしかないものの、対応アプリケーションの数を踏まえると、数万円の投資を行うに見合うかは微妙である。だが、今後のコンピューター関連のUIやUXを大きく覆す可能性が高いKinect for Windowsの動向は注目に値するだろう。

阿久津良和(Cactus)