【レポート】

スパコンでがんに挑む - 先端技術の活用で変わる治療研究の最前線(前編)

がんの死亡率は2004年には1960年比で2.5倍に

「がんの最先端研究とスーパーコンピュータ」と題する講演会が行われた。この講演は文部科学省の新学術領域研究「システムがん」の成果を広報するもので、がん遺伝子をスーパーコンピュータ(スパコン)で分析して、がんの仕組みを理解し、がんを抑えるにはどの遺伝子をターゲットにする薬を使えば良いのかという研究の最新状況を伝えるものである。

開会の挨拶を行うシステムがんプロジェクトのリーダーの東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟 教授

ヒトゲノム計画で人間のDNA全体が解読されたのは2003年のことで、この時は1000億円かかったが、DNAの読み取りを行うシーケンサと呼ぶ装置の急速な改良で、現在では10万円程度で解読することができる。また、近い将来には1万円という数字を出しているシーケンサメーカーもあるという。こうなると、個人のDNAを読んで、その人の遺伝子レベルでみて、効く薬を使うというオーダーメイド医療が現実味を帯びてくる。

現在では日本国民の2人に1人はがんに罹り、3人に1人はがんで死ぬという状態で、死因としてもっとも高い病気ががんである。また、その他の病気の死亡率が減少ないし、ほぼ一定で推移しているのに対して、がんの死亡率は、1960年に比べて2004年には2.5倍と急増している。

右肩上がりの青線ががんの死亡率。2004年には脳卒中や心筋梗塞の2~2.5倍の死亡率になっており、がんが治療できれば、平均寿命は4年程度伸びるという

ただし、人間は必ず死ぬわけで、医学の進歩で、脳卒中や心筋梗塞で死ぬ人が減ると、昔はこれらの病気で死んだ人ががんで死ぬ割合が高くなり、結果としてがんの死亡率が上がるのは当然であるという面がある。また、環境汚染で発がん物質や放射線が増えているという可能性もあるが、この影響がどの程度かは明確ではないという。

血液がんのゲノム解析について講演する東京大学医学部付属病院の小川誠司氏

スパコンを使ってがん細胞遺伝子の変形を分析

遺伝情報は2重らせんのDNAに書かれているが、これが解けて1重になった状態でプレ伝令RNAに転写し、さらに録画したビデオからコマーシャル部分を除いて編集するように、タンパク質の合成を指令するエクソンという部分以外を削除して、完成版の伝令RNAを作る。この抜き出し編集をRNAスプライシングと呼ぶ。そして、この伝令RNAの情報に基づいてタンパク質が作られていく。

DNAを転写したプレ伝令RNAから、タンパク質の生成を指令するエクソン部分だけを抜き出して伝令RNAを作る

この大もとの情報であるゲノムDNAが文字化けしてしまったり、この転写からRNAスプライシングの過程で誤りがあったりすると、正常な場合とは異なる伝令RNAとなり、本来の遺伝子の指令とは異なるたんぱく質が作られてしまう。

小川先生は、血液がんの細胞の遺伝子のどこに変形があるかをスパコンを使って分析し、異常を発生する原因がRNAスプライス機構の故障(遺伝子変形)にあることを突き止めた。

スプライス機構の故障で、エクソン以外の部分が残ったり、残すべきエクソンが無くなったり、別の部分のエクソンが混入したりする

元のDNAが変形してしまうのではなく、RNAスプライス機構が壊れてしまうというがん発生のメカニズムは、従来、知られておらず、がんの教科書に新たな章を付け加える発見であり、この血液がんのメカニズムの解明で、新しい診断法や治療薬の開発の進展が期待されるという。

関連キーワード


人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事