まずは、経緯について説明しよう。中央大学杉並高校では、これまで土曜日に課外的な講座を実施してきた。その1つにキャリアデザインを目的とする講座があった。この講座を考案したのが、第48期生学年主任の大舘瑞城氏。大舘氏によれば、とにかく親と教師以外の大人に接する機会を設けたかったとのことだ。卒業生を招き、対談などの形式で仕事や人生などをディスカッションする。そんな機会を設けてきた。

そして、卒業生の9割以上が系列大学へと進学していく。その際に、「法学部が無理なら、経済学部でいいや」といった、ややもすると受け身な進路決定をする生徒を多く見てきたとのことである。大学だけでなく、就職に関しても、親の仕事をそのまま真似るような例が少なくないという。大舘氏は、そんな状況から一歩でも二歩でも前に生徒を進ませてやりたいと語る。

昨今、就職氷河期といわれるほど、高校生や大学生の就職が厳しさを増している。その一方で、3年以内に退職していく新入社員は30%にものぼる、という調査結果も報告されている。まさに雇用のミスマッチともいえる現象である。その背景には、さまざまな理由があるかもしれないが、大きな理由の1つには、仕事内容をよく知らないまま就職をしてしまい、入社後にそのギャップから耐えられずに、辞めていくということがあるだろう。

そこで、同校では初めて、都内研修として都内のホテルに宿泊し、著名な企業の訪問やワークショップを体験するようにした。業種ごとに9つコースが設定されており、生徒は自分の興味のある業種のコースに参加できる。今回取材したのは、マスコミコースで、印刷会社や広告代理店を訪問した後、最後にワークショップ形式で、広告を作るというテーマで開催されたものである。40名ほどの生徒が参加した。

ワークショップでは、WebブラウザのFirefoxを同じ高校生に使ってもらうための宣伝となるポスターを作成することが目標となった。さて、FirefoxをリリースするMozillaであるが、これまでも福島の子供を対象にWebの世界の楽しさや可能性を体感するイベントなどを開催してきた。非営利企業として、社会貢献を行っていくことを活動の1つに据えているものだ。

また今回は、普段からFirefoxを伝える活動を行っている学生コミュニティ「Firefox学生マーケティングチーム」のメンバーが講師として参加、学生同士の学びの循環が生まれるのを期待しているという。これらが出会いこのようなコラボレーションが生まれたといえよう。

ますは広告って何? そしてFirefoxとは?

図1 まずは広告について知ろう

最初に行われたのは、広告についてである。普段の生活で広告にふれない日はない。そのくらい世の中には、広告があふれている。しかし、改めて「広告とな何か」と問いかけることから始まる。そして、おもしろい広告、意味のわかりにくい広告、社会的に問題のある広告などさまざまな事例から広告に対する理解を深めていく。

ついで、Firefox学生マーケティングチームによるFirefoxの紹介が行われた。そこでは、さまざまなWebブラウザとともに、Firefoxの紹介が行われた。ここで興味深かったのは、多くの生徒がInternet ExplorerやFirefoxだけでなく、SafariやGoogle Chrome、さらにはOperaといったWebブラウザの使用経験があったことだ。Firefoxの紹介では、

  • ペルソナによる見た目の変更
  • 世界標準に準拠
  • 6,000以上の豊富なアドオン
  • Netscapeから続く、歴史あるWebブラウザ
  • スマートフォンとブックマークなどを同期
  • 英語や日本語だけでなく、世界の多くの言語に対応
  • オープンソースであり、誰もが開発に参加できる
  • といった特徴が説明された。ここから、Firefoxを使ってもらうためのキャッチコピーを作成していく。

    図2 Firefox学生マーケティングチーム

    図3 Firefoxの特徴

    ポスターを作成しよう

    ポスターの作成には、Firefoxを紹介した学生マーケティングチームが、生徒の中に加わり、アドバイスを行った。

    図4 まずは、素材を見ながら手順を確認

    最初は戸惑いながら、与えらえた素材をもとにどんなポスターを作成するかを検討していく。ポスターは、カワイイ系とクール系のどっちがいいのか?どの機能をウリにしたらいいかといった議論が交わされる。予定された時間は1時間ほどであったが後半になると、各グループではかなり盛り上がった雰囲気。大きな笑い声も飛び交い、ポスターも完成に近づく。

    図5 PCを見ながら最終調整

    完成したポスターは ?

    こうして完成したポスターを各グループごとに発表していく。ポスターと同時に、どういう考えでこのポスターを作成したのかを代表者が発表する。

    図6 完成したポスターの一例

    このグループでは、Firefoxが簡単なWebブラウザでありながら、いろいろカスタマイズできることに注目した。背景を白にしたのは「はじまりの色」を意味し、キャンバスに自由に色を付けるようにカスタマイズできることを表したものである。

    そして、Firefoxのアイコンでも使われているロゴを大きくすることで、普段授業で使うPCからも連想させようとしている。検索ボックスに、さりげなく「Firefox」と入れ、小さくすることで逆に注目させる効果も狙ったとのことだ。もっとも悩んだのは文字の太さで、細くするか太くするで議論が交わされた。細いとシンプルなイメージになる。太いと欲張りなイメージがある。これらを検討したが、どちらも満たすように中間の太さに落ち着いた。小難しいことを書くよりも、みんなの目に止まり、ちょっと考えさせるようなポスターが高校生にとってはいいと思ったとのことである。最後は、なかなか高校生らしからぬ、立派なプレゼンテーションに至っていると感心した次第である。

    大舘氏によれば、最近の高校生は携帯電話は巧みに操るが、PCに関しては初心者レベルの生徒が多い。検索を行うにしても、なかなかうまく検索語の入力ができないといった事例が見受けられるとのことだ。そんな高校生にとって、今回のポスター作成は、決して簡単なものではなかったと思われる。事実、Firefox学生マーケティングチームの1人が、そのグループでアドオンを知っていた生徒が1人もいなかったと語っていた。一方で、高校生独自の感性についても、非常に新鮮であったと語っていた。これらの経験もまた、Firefoxの将来にフィードバックされていくのではないか。

    図7 1位には、Tシャツがプレゼント

    そんな高校生たちが作ったポスターは、後日、学校で展示され人気投票を行うとのことだ。1位となったグループには、MozillaからTシャツがプレゼントされる。非常にユニークな試みであり、今後どう発展してくかが興味深い。機会があれば、その後などもレポートしたいと思う。