世界最大のソーシャルネットワークサービス、米FacebookがいよいよIPO(新規株式公開)を行うことになった。上場すればその価値は1,000億ドルとも見られており、世界中で話題になっている。その一方で、同社がIPOを申請した書類で明らかになった事実に対し、リスクを指摘する声もある。共同創業者兼CEOのMark Zuckerberg氏は「商業主導になるつもりはない」と投資家、社員、そして自らを戒めている。
Facebookの上場はここ1年、投資家を中心に注目されてきた。主要な株式相場は米国を中心に緩やかに回復しているが、それに「Facebook効果」として世界8億人が利用するFacebook上場のニュースも関係しているという見方もある。Facebookがもたらす影響はインターネットとソーシャル分野だけではなく、世界景気にも及ぶのかもしれない。
さて、IPO申請にあたって米国証券取引委員会(SEC)提出した書類(S-1)からは、これまでベールに包まれていたFacebookに関するいくつかの事実が明らかになった。
数字をいくつか挙げよう。まずは財務面から。2011年の売上は前年比倍近い37億1,000万ドルで、純利益は10億ドル。売上の85%が広告だが、この比率は95%だった前年から下がっている。残りの15%のうち、Facebookゲーム「Farmville」が成功して一足先にIPOを果たしたZyngaが12%を占める。Facebookは2009年に初めて黒字化しており、この規模の売り上げを3,200人の社員が支えている。
次に人気を示す数字だ。月間ユーザーは8億4,500万人、1日に4億8,300万人がアクセスしているという。1日に押される「いいね!」ボタンの数は27億回。毎日2億5000万点の写真がアップロードされているという。
気になる競合については、米Google、米Microsoft、米Twitterの3社の名前が最初に挙がっているが、日本のミクシィ、ロシアのvKontakteなどのソーシャルサービスも見られる。
書類では、モバイルについても触れている。8億4,500万人のユーザーのうち、半数がモバイルからアクセスしているが、現時点でモバイル版にディスプレイを含む広告は展開していない。モバイルの利用は今後も増えるという予想とともに、モバイルアプリまたはモバイル用サイトで広告やスポンサーによる投稿を表示するなどして収益を追求していくことを示唆している。
書類と同時に、Zuckerberg氏による書簡も公開された。書簡は、「Facebookはもともと、企業になるために作られたサービスではない。世界をオープンにし、結びつきを強めるという社会的(ソーシャル)ミッションを達成するために作られた」という文章から始まり、上場後もFacebookはこの社会的ミッションを重視する姿勢を示した。
これは、具体的にどういうことを意味するのか? Zuckerberg氏は会社運営の考え方として、「収益を上げるためにサービスを作るのではない。サービスを改善するために収益を上げるのだ」と記し、アプローチとして「ハッカーウェイ(The Hacker Way)」をとると宣言した。
Zuckerberg氏の言う「ハッカーウェイ」とは「常に改善できることを信じて継続的に作業すること」、新しいサービスは、「完成を待つのではなくまずリリースしてフィードバックを見ながら長い時間をかけて最高のサービスを構築しようとすること」だという。
Zuckerberg氏はこのようにFacebookという会社のカルチャーや目標を説明した後、Facebookの運営に当たって、「インパクトへのフォーカス」「素早く動く」「大胆に」「オープンに」「社会的なバリューを構築する」の5つのコアバリューにするとまとめている。
だが、S-1書類からはそのZuckerberg氏が大きな力を握っていることが改めて明らかになったことから、警笛を鳴らす向きもある。
Zuckerberg氏は28.4%のFacebook株式を所有しており、総議決権数の56.9%を有することになる。書類では、これによりZuckerberg氏が主要な意思決定をコントロールできると明記しているだけでなく、Zuckerberg氏が主要な総議決権数を持つ状態で死ぬ時は後継者を任命することができる、とも記している。
こうしたZuckerberg氏の強い管理体制に対し、Bloombergは「投資家にはリスク」という見出しをつけ、「取締役会がコントロールしており、一般の人は意見が言えない。これは、説明責任という点から見て、非常に害のあることに見える」(デラウェア大学コーポレートガバナンス教授のCharles Elson氏)、「Zuckerberg氏が主要な総議決権数を持っている。そのため、公開企業に求められる厳しい規則を守る必要はない」(スタンフォード大経営学大学院会計学教授のDavid Larcker氏)など、専門家の意見を引用している。Lacker氏はまた、「後継者の任命権まで明記することはまれ」とも述べている。
業界ではまた、Facebookがモバイルを課題と明示したことで、「モバイル広告を開始する」という憶測も出ている。Financial Timesは2月8日、Facebookがモバイル決済プラットフォーム技術の英Bangoと提携を結んだとも報じており、「数週間以内にモバイル広告を開始すると見込まれている」と改めて記しながらも、モバイル戦略としては課題が残ると指摘している。