通信業界におけるここ10年の変化は「大激変」と言ってもよいだろう。その一方で、国内の通信業界は少数のキャリアが競争を行う、いわゆる寡占化が進んだ状態にある。こうしたなか、通信業界において淘汰されることなく、生き残っていくにはどうしたらよいのか? 今回、ジェクシード・テクノロジー・ソリューションズで取締役副社長を務める篠昌孝氏に話を聞いた。

ジェクシード・テクノロジー・ソリューションズ 取締役副社長 篠昌孝氏。同氏は12月13日開催の真のリアルタイム可視化とは? BPMによる業務効率向上セミナーで基調講演を務める

篠氏は、今後の通信業界の動向として大きく「2つの方向性」が予想されるとする。1つは、業界統合や市場統合が生まれていくという「暗い方向」だ。「主に先進国では、通信業界に対する投資家の信認低下によって資金繰りが悪化し、それをトリガーとして業界統合が進むことが予想される」と同氏。

また、長引く不況の下、投資家がプロバイダーに資産をリターン・プロファイルの異なる事業に分離・売却することを迫った結果、民間インフラ投資が人口密集地域に限られる一方で、グレイエリアへの超高速ブロードバンドの拡張を進める政府、地方自治体、代替プロバイダーによって、市場はさらに細分化されるというシナリオが考えらえるという。

もう1つは、キャリア、プロバイダーに限らず、さまざまな企業の参入で周辺に新たな成長領域が生まれていく「明るい方向」だ。もちろん、通信業界全体にとって望ましいのは後者である。

既存のサービスからの収益が伸び悩むなか、スマートフォンやモバイルタブレットなどの新たなデバイス、そしてLTEのような高速な通信技術を組み合わせ、魅力的なサービスとコンテンツを提供しながら、マネタイズする仕組みをいかに実現するかが、現在の通信業界における火急の課題だ。もはやトラフィックを増やすだけで、業界に大きな利益が生まれた時代は終わっている。

今後も、変化の速度は上がる一方だろう。さまざまな不確定要素が存在するなか、複数のシナリオを用意して変化に迅速に対応しつつ、競合他社と競争を続けられる企業が増えることが、業界を「明るい方向」へと導くための1つの条件となる。

業界全体を再び拡大路線に押し上げること、そのための戦略を立てることは簡単ではない。しかし、「いくつかのシナリオは予測できるが、それらのうち、最も重要なものは「企業の垣根を越えた連帯とコラボレーション」と同氏はいう。

「プラットフォームに対するグローバル規模での業界コラボレーションによってイノベーションを促進し、グローバルOTTプロバイダーに対する競争力を強化する必要がある」

企業の垣根を越えたコラボレーションを実現するには、システム的な問題よりも、むしろ組織的な課題のほうが大きいかもしれない。しかし、その組織的な問題をクリアし、それぞれの企業のプロセスを他社のプロセスと連携させ、自律的に処理していく仕組みが作れなければ、環境変化のスピードに組織の変化が追いつかなくなるというのも事実だ。

さらに、異なる企業間で共有可能なデータを増やし、それらを分析することで、それまで実現不可能だったサービスが生み出されたり、新たな知見を得られたりする可能性は高まる。位置情報をはじめ、契約者がネットワーク上で起こしたさまざまなアクションに関するデータから新たなサービスやキャンペーンを生み出す余地は、まだまだ残されている。

篠氏は「通信業界にはイノベーションを生み出すための技術的、システム的な素地がすでに用意されている」という。今後さらに進展が見込まれるモバイルブロードバンド時代に拡大路線に進むにあたり、通信業界のプレイヤーがとるべき戦略は何か。

本稿では、通信業界が拡大していくためのシナリオとして「企業の垣根を越えたコラボレーション」を紹介したが、篠氏は12月13日に日本プログレスが開催する「真のリアルタイム可視化とは? BPMによる業務効率向上セミナー」と題したセミナーに登壇し、さらに多くのシナリオについて解説を行う。

IT系コンサルタントとして、大手通信キャリアでの1,000名規模のコールセンターシステム構築やEAI/BPM基盤構築に携わってきた同氏の講演は一聴の価値ありだ。興味がある方はぜひ参加されたい。