日本デザイン振興会主催のアジア最大規模のデザインイベント「グッドデザインエキスポ2011」。同イベントは、2011年度グッドデザイン賞 二次審査会終了後の会場を一般公開するデザインイベントだ。注目の新製品を中心に、身近な生活用品からプロ用の機械や建築・広告デザインまで、くらしと社会をとりまくデザイン約2,000点が展示された。これらの作品の中からさらに金賞、大賞が選出され、11月に発表される。

本レポートでは、会場での様子や同イベントのキーパーソンらが語った内容を交えながら、本年度注目の作品、また展示会から見える来年度以降のデザインの新潮流を紹介したい。

会場の様子

受賞者へ贈られるトロフィー

これからのデザインに求められるもの

本イベント開催初日に行われた記者発表会では、審査委員長を務める深澤直人氏により、"いま求められるデザイン"の特徴が語られた。同氏によると、選出される作品の傾向は、かつてのような華々しいものからは変わってきているという。今は大震災や原子力発電所の事故などの経験により、価値観が大きく変化しようとしている時。デザインを感覚的な良さとして捉えるのではなく、これからの生活に本当に必要なものであるのかどうか、まさに"適正"が問われているといい、「豊かさとはなにか、この真の定義をみなさんと問い直したい」と語った。

また、本イベント全体のクリエイティブディレクションなどを手掛けた佐藤卓氏は、アジアにおける日本という視点でデザインの重要性について述べた。製造メーカーに求められる「企画力」、「デザイン力」、「生産力」のうち、「生産力」が日本から近隣のアジア諸国に移行しはじめて久しい。そのような状況下で、これから日本がアジアという市場において求められるのは「デザイン力」、そして「企画力」であると同氏は強調した。

本イベントの審査委員長を務める深澤直人氏(左)と日本デザイン振興会理事長の飯塚和憲氏(右)

「ソフトウェアとしての住宅」とは

共同住宅 リノア南浦和

本イベントを主催する日本デザイン振興会の秋元淳氏にもお話を聞いた。同氏によると、今年から「ハードウェア」としての観点だけでなく、新たに「ソフトウェア」としての観点でもデザインを評価できる審査体制を整えたという。同氏は分かりやすい例として、「コモンライブラリー(入居者用図書室)」を設けたという築後20年の社宅を改修したマンション「共同住宅 リノア南浦和」を挙げた。「ここでは、入居者同士がライブラリーの運営とそこをベースにした活動を担うことにより、コミュニケーションが誘導・促進される。そういったコミュニティ形成を支えるための設備はもちろん、運営プログラム自体もサービス内容として審査するんです」。

さらに今年の応募作品の中から、これからのデザインを変える可能性のある技術について、同氏よりいくつか紹介してもらった。

フレームレス薄膜ソーラーパネル(シャープ)

製品 / フレームレス薄膜ソーラーパネル(シャープ)

フレームレスの合わせガラス構造により、7.5mmの薄さを実現。また汚れの堆積軽減により、発電量の向上を図った。未来を担う次世代エネルギーの一要素となるソーラーパネルの改良は、来年以降のプロダクトや施設のデザインに影響を与えるだろう。

ARナビゲーション(パイオニア)

製品 / ARナビゲーション(パイオニア)

現実世界に情報を重ねるARナビゲーション。これまでのカーナビとは異なり、サイバーナビは現実の風景に必要な情報を重ねて表示する。従来のカーナビのように頭の中で現実の風景と地図を照らし合わせる必要がないので、安心してドライブに集中できる上、エンタテインメント性に優れた表示を実現した。高機能でありながら、複雑で敷居の高いものにならないよう操作体系の改善と、画面の見易さが魅力。AR技術を生活に落とし込んだ先駆的な事例として注目される。

アーロンチェアメンテナンスプログラム(ハーマンミラー)

製品 / アーロンチェアメンテナンスプログラム(ハーマンミラー)

世界的なベストセラーである「アーロンチェア」の保守点検プログラム。保証期限の超過や他者からの譲渡による使用など、通常のメーカーによる経年対応で対象外になりがちなシチュエーションもプログラムの適用対象とした。供給者によるユーザー支援の一例であり、製品やブランド維持のモデルケースでもある。さらに長持ちしてメンテナンスがしやすい製品の構造など、製品開発そのものにも大きく影響することが考えられる。

「Area Aid Design Project」

「Area Aid Design Project」

今年度の特徴として、東北・茨城のデザインを集めた企画展示 「Area Aid Design Project」を実施している。グッドデザイン賞への応募対象だけでなく、各地域でデザインを活用したビジネスを展開する幅広い業種の企業・デザイナー約100社のデザインを紹介し、東北・茨城エリアのデザイン産業をPRするのが目的。伝統工芸を活かしたデザインのプロダクトや、地域に根ざした技術や特産物を活かした日用品、地域活性プロジェクトの紹介など、内容は多岐にわたっている。

岩手県 / 世界的な広告賞でも評価されたコミュニケーションのデザイン

作品 / IWATTE(イワッテ)

国際広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」で、メディア部門で金賞を受賞した個人向け記念号外発行サービス「IWATTE(イワッテ)」。岩手日報社と博報堂DYメディアパートナーズが共同運営している。結婚式や誕生日、還暦などのお祝い事のある個人を対象に、紙面を模した号外を発行するもの。「人生の大切な瞬間に存在する新聞社」という地方新聞社のブランドイメージ定着を目的としている。

福島県 / 精密機器メーカーが作った竹のおもちゃ

作品 / ワークライフバランス

地域資源を活用した竹細工・民芸品を展開する小規模メーカー・高田製作所の作品「ワークライフバランス」。本業である精密部品組立、理科教材の開発・製造の視点を取り入れ、2005年より展開しているバランスおもちゃ。

山形県 / 米沢の米織りを利用した高級スリッパ

作品 / KINU HAKI

「KINU HAKI」は、工業技術センターとの共同研究として、袴地仕立ての室内履き。素材には最高級の絹を用い、職人が丹誠込めて織りあげた袴地を、日本の生活文化の中で育まれた美しい所作をイメージし「たたむ・仕舞う・携える」をテーマに室内履きに仕上げた。

デザインの新潮流となるものは?

最後にこれからのデザインの新潮流について、同氏に伺った。「使い手の感情や感覚に寄り添うデザイン、でしょうか。根本的な価値観は不変でも表層面の嗜好や気分の変化は不可避である我々。飽きることなく信頼を寄せることができるような、耐久力のあるデザインでなければ社会に認められないでしょう」 。

本年度で55回目を迎えるグッドデザイン賞の受賞発表は10月3日、金賞そして大賞の受賞発表と表彰式は11月9日に行われる。