今年初開催となる国際生体分子デザインコンテスト「BIOMOD 2011」の概要説明と参加日本チームのプレゼンテーションを兼ねた「BIOMOD 2011 日本チーム中間発表会」が、東京工業大学すずかけ台キャンパスで8月26日に行われた。そのリポートをお届けする。

BIOMODは「分子を設計して、ナノ~マイクロメートルのスケールでのものづくり」を行う、学生対象のコンテストだ。世界11カ国から27チームが参加予定で、11月に主催の米ハーバード大学(ボストン)で開催。日本からは、計測自動制御学会(SICE)の調査研究会として2010年3月に発足した分子ロボティクス研究会がバックアップし、東京チーム(東京工業大学の学生で編成)、関西チーム(関西大学の学生で編成)、仙台チーム(東北大学の学生で編成)の3チームが出場することが決定している。関西と仙台の2チームに関しては通常のコンテストに参加すると同時に、デンマークのチームと計3チームで世界初の「分子ロボットコンテスト」を開催し、そこで競争するという形だ。

最初に挨拶を行った、東北大学教授兼分子ロボティクス研究会主査の村田智氏。バイオエンジニアリングとロボティクスを手がけており、まさに日本における分子ロボティクスの第一人者のひとり

村田氏と、准教授の野村 M. 眞一郎氏とともに東北大学の分子路ティクス研究室の村田/浜田・野村研究室を率いる助教の浜田省吾氏。分子ロボットとは何かといったことを解説した

BIOMOD 2011では分子を使って一から作り上げていれば何でもよく、分子ロボットである必要もない。コンテストでは、各チームのプロジェクトの成果をまずインターネットにアップし(WikiとYouTubeを利用)、そして11月のハーバード大でのジャンボリーで最終発表を行い、投票でもって優劣を競うという内容だ。

なお、ジャンボリーでの評価軸とその採点方法については、分子ロボティクス研究会の提案がほぼ全面的に採用され、分子ロボコン部門も日本側が企画と運営を行うということになった。これはただ参加するだけでなく、枠組みの提案や独自企画立てで主体的に関与することで、日本が蚊帳の外となってしまわないようにする狙いがある。

そして、なぜ今こうしたコンテストを実施するかという点については、分子で作るシステムはまさに萌芽期であり、性能向上やシステム設計の多様性など、どうやって実世界で使えるレベルに持っていくかという課題を解決していく手段の1つとして活用しようというものとしている。コンテストは、それらを加速させることができるので、非常に有効だという。なお、分子ロボコンは日本が伝統的に非常に強い2つの分野、化学とロボティクスが融合する分野であることから、とても日本向きであるということもある。日本が世界をリードできる可能性のある分野なのだ。なお、今のところ分子ロボコンに参加するデンマーク以外では、海外で分子ロボットを作っているチームは見当たらないそうである。

分子ロボットの定義については、「機械のロボットの4要素を"分子"で実現したシステム」というもの。4要素とは、「構造・形状」、「センサ」、「制御」、「アクチュエータ」のことである。構造や形状はまだしも、センサ、制御、アクチュエータなどの分子での実現はとても無理と思われる方もいるだろうが、実はすでにそれぞれのデバイスは存在しているのだ。人工リポソームによるDNAナノ構造、人工膜たんぱくの分子センサ、人工たんぱく質発現系のDNA分子演算回路、人工モーターたんぱくによる分子アクチュエータを組み合わせれば、分子ロボットの完成である(画像3)。実際に「DNAスパイダー」と呼ばれる目的地に向かって移動できる分子ロボットのプロトタイプはすでに存在しているのだ。

画像3。分子ロボットの想像図。現状では、まだここまですべてがそろった分子ロボットは存在していないが、ロボットの4要素である構造・形状、センサ、制御、アクチュエータのそれぞれのデバイスはあり、分子ロボットのプロトタイプである「DNAスパイダー」もすでに存在している

分子ロボコンの今年のルールは、まずテーマが「障害物競走」(島を渡る)というもの。スタート地点からゴール地点までのタイムでの勝負で、また正確にコースをたどることも重要となる。フィールドは、「沼地のような障害」とコースで構成され、コの字型をしている(画像4)。サイズは、長辺が約200nm、スタート地点とゴールがあるそれぞれの短辺が50nmだ。障害物はマイカ(雲母)で作り、コースは「DNAオリガミ」で作成。DNAオリガミとは、DNAを織物のように折りたたんだ構造をしており、任意の2次元・3次元構造を設計できるという特徴を持つ。DNAスパイダーもDNAオリガミ上で移動できる仕組みになっている。

画像4。第1回分子ロボコンのコースレイアウト。ルール的には、沼地のような障害物の上をショートカットしてもいい模様。タイムの計測装置などは、デンマークのチームが作成中

各チームのロボットは、まず関西チームはフィールドの設計も担当している。そして開発中の分子ロボットは、沼地のような障害をあえて克服しようという(通常のコースを通らず、ショートカットして最短距離を行こうという作戦らしい)「Molecular Pac-Man」と名付けたロボットを開発中だ(画像5)。

画像5。Molecular Pac-ManはDNAスパイダーの改良型。DNAスパイダーは三角錐の各頂点から足が1本ずつ生えているという構造をしている

同じく分子ロボコンに参加する仙台チームは、スピーディに転がれるという六角柱型の分子ロボットを製作中だ(画像6)。六角柱型は足を最大で72本まで生やすことができ、足の種類も3種類用意でき、フィールドの足場に合わせて移動しやすくなっているという。サイズは直径が15~20nm、全長が30~35nm。DNAスパイダーは底辺からその頂点までが6~8nmなので、大きめである。

画像6。仙台チームが開発中の、移動速度に優れる六角中型分子ロボットのイメージ。一般的なDNAスパイダーと比べると大型となっている

そして分子ロボコンには参加しないが、東京チームも分子ロボットを開発中だ。ただし、マイクロスケールの巨大サイズである点が特徴の「DNAゾウリムシ」を作る(画像7)。ナノサイズのDNAの繊毛DNA(足)を多数生やして、マイクロサイズの身体を動かしてコントロールするというものだ。足は10ナノメートル、身体全体のサイズは約1~10μm。「餌DNA」の道に沿って移動させることが狙いだ。

画像7。関西と仙台の2チームがナノスケールのロボットなのに対し、東京チームのロボット「DNAゾウリムシ」はマイクロスケール。ガラズビーズにナノスケールの繊毛DNAの足を無数に生やした構造で、DNAオリガミ上に設けられた道の上を、その道に用意された「餌DNA」を「食べながら」前進していく仕組みだ

なお、11月21~23日の計測自動制御学会 システム・情報部門 学術講演会「SSI 2011」の中で、BIOMOD 2011の報告会が分子ロボティクス研究会11月定例会として行われる予定。3チームの凱旋報告を期待したい。