一昔前は蓄積したデータを、CD/DVD-Rといった光学メディアやリムーバブルメディアなどに待避していたが、最近ではNAS(Network Attached Storage)に移行する方も増えてきた。このような背景をもとに個人向けサーバーとして登場したのが、Windows Home Serverである。Windows Server 2003 R2をベースに開発された同OSを、メディアコンテンツの配信や各Windows OSのバックアップ先として活用してきた方も少なくないだろう。

Windows Home Serverの入手経路は通常のWindows OSと異なり、プリインストールされたミニサーバーを購入するか、コンピューターショップなどで販売されるDSP(Delivery Service Partner)版を購入する必要があった。また、日本語版の発売は若干遅れたため、国内のユーザー数はさほど多くないものの、当たり前の様にWindows OSとの親和性は高く、Windows OSを中心にコンピューターを活用しているユーザーには有益なサーバーOSと言える(図01)。

図01 最初のWindows Home Server(WHSv1)の管理コンソール。この時点ではWindows Server 2003 R2をベースに開発されていた

過去に3回のサービスパック公開で更新されてきたWindows Home Serverだが、以前からWindows Server 2008 R2をベースに新バージョン「Vail」(開発コード名)の開発が進められていた。一般向けプレビュー版も公開されていたので、ご存じの方も少なくないだろう。その最新版となるWindows Home Server 2011が、IT技術者向けサービスのTechNetと、開発者向けサービスであるMSDNユーザーに対して公開された。

Windows Home Server 2011の販売形態は、前バージョンと同じくOEM提供によるプリインストールが予定されている。そのため、Windows Home Server 2011を搭載したミニサーバーは5月以降の登場となるものの、同OSに興味をお持ちの方向けとして、一足早くレビューをお届けしよう。

WHS2011の特徴

まずはWHS2011(以下、WHS2011)の特徴から紹介する。同OSはService Pack 1を適用したWindows Server 2008 R2をベースにしているため、32ビット環境では動作せず、前バージョンであるWindows Home Server(以下、WHSv1)からのアップグレードインストールもサポートされていない。これは32/64ビットという相違点があるためだ(図02)。

図02 WHS2011のデスクトップ画面。基本的な操作はリモートクライアントから行う

機能面ではインストールプロセスや管理の簡素化、バックアップやリモートアクセス機能の強化、DLNA 1.5やWindows 7のHomeGroupをサポートするなど、目新しい点が多い。その一方で、WHSv1の特徴とも言われていたDrive Extender機能が削られている。

そもそもDrive Extenderとは、サイズの異なる複数のHDD(ハードディスクドライブ)をひとまとめにして、ストレージの総容量を増やす機能である。MicrosoftはDrive Extender機能の廃止理由として、大容量HDDが安価で入手できるようになった現在、同機能の役割は少なくなったためと述べている。

その代わりではないが、WHS2011ではOS領域を含めたフルバックアップ機能とスケジューリングがサポートされた。WHS2011起動時には、管理設定を行うダッシュボードによる基本設定をうながされるが、ここで必要なバックアップ項目を取捨選択することになる。

ただし、バックアップ領域は物理的に異なるHDDが必要となり、データ用HDDと共用することはできないので、自作コンピューターにWHS2011を導入する場合、ディスクレイアウトに気を遣う必要があるだろう。なお、バックアップスケジュールは初期設定で一日二回だが、運用ポリシーに沿ったカスタマイズも可能だった(図03~04)。

図03 WHS2011の各種設定を行うダッシュボード。システム管理もここから実行する

図04 OS領域およびデータ領域のバックアップが可能になった

そもそもWindows Serverシリーズは、ソフトウェアRAID機能が備わっている。パフォーマンス的にはハードウェアRAIDに劣るものの、RAID 0/1/5ボリュームを作成することが可能だ(図05~06)。

図05 ディスク管理ツールを用いて、ソフトウェアRAID-5を作成

図06 後は共有フォルダーをRAIDボリューム上に移動させればよい

また、WHSv1の時はサポートされていなかったシャドウコピー(Windows 7における「以前のバージョン」と同等)も有効になるため、前述のシステムバックアップとソフトウェアRAIDを組み合わせることで、OS自身やデータに対する冗長化は安心できるはずだ(図07)。

図07 ドライブのプロパティダイアログからシャドウコピーの有無を設定できる

ダッシュボードでラクラク設定

WHS2011の設定はダッシュボードから行うが、これはWindows 7などクライアントOSからも実行できる。WHS2011に付属するクライアントソフトウェアを導入すると、リモートアプリケーションとしてダッシュボードが起動するため、WHS2011を導入したコンピューターに対するモニターやキーボードは不要になる。このあたりはWHSv1と同じだ(図08~12)。

図08 クライアントソフトウェアの導入はWebブラウザー経由や付属するリストアDVDから行う

図09 セットアップ時はバックアップに関する設定をうながされる

図10 ダッシュボードはリモートアプリケーションとして実行される

図11 クライアントのバックアップ設定は自動的に施される

図12 WHS2011関連の機能を呼び出すスタートパッド。クライアントOSに常駐する

ルーターの設定を正しく行えば、リモートWebアクセス経由で動画や音楽の再生を楽しむこともできる。前述のとおりDLNA機能をサポートしているため、家庭内であればコンピューターだけでなく、DLNA対応機器経由でのメディアコンテンツ再生も楽しめるはずだ(図13~14)。

図13 Webブラウザー経由でリモートWebアクセスを実行。Silverlightを用いて動画再生などが行われる

図14 スマートフォン用のUIも用意されている

全体的なパフォーマンスは、WHS2011を導入するコンピューターやミニサーバーによって異なるため今回は言及しないが、WHSv1とWHS2011を比較すると、Windows Serverベースにファイルサーバー機能を追加した従来版から、メディアサーバーを始めとする各機能の連動性を整えた印象を受けた。

NASに代表されるファイルサーバーの使い勝手は拡張機能で左右されるが、WHSv1ユーザーはご存じのとおり、アドオンを追加することで様々な機能をもたらすことができる。本稿はWHS2011を対象にしたレビューのため、各アドオンに関する説明は省くが、WHSv1/WHS2011はWindows OSベースのため、ウイルス対策アドオンや画像管理アドオンなどを追加し、セキュリティやユーザビリティを向上させることが可能だ。

アドオンのなかには、前述のDrive Extender廃止に伴い、同様の機能をもたらす「Drive Bender」もリリースされているため、WHS2011の拡張性に関しては心配する必要はないだろう。

もっともNASの運用はOSだけでなく、ハードウェアの品質や耐久性が重要だ。そのため、WHS2011というOSの評価は及第点ながらも、今後発売されるであろうWHS2011搭載ミニサーバーによって評価は変化する。

その一方で自作コンピューターをファイルサーバーとして運用する場合、Windows OSを中心とした環境では恩恵が大きい。WHS2011によるネットワークバックアップやSMB 2.1(Windows 7/Windows Server 2008 R2に搭載)によるファイル転送速度の向上を、ほかのNAS用OSでは得ることが難しいからだ。LinuxマシンなどほかのOSが混合しない環境で、WHS2011をファイルサーバー用OSとして運用するメリットは大きいだろう。

阿久津良和(Cactus