まだプレイしていない人は幸せ!? 『シュタゲ』のススメ

ゲームを選ぶときに何を一番重視するか? と問われたら、ぼくは「ストーリー」と答える(ちなみに次に重視するのは"音楽"である)。

もちろんそれはRPGやアドベンチャーといったジャンル限定での話ではあるが、しかしぼくと同じようにストーリー至上主義を貫いている人も多いのではないだろうか。

そんな方に、本当に心の底からお薦めできるゲームがある。Xbox360で発売中の想定科学アドベンチャー『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』(5pb.)だ。

2009年10月15日発売の想定科学ADV『STEINS;GATE』(7,140円)。いまはWindows版も発売されている

……と書くと、「え、今さら?」という声が挙がるかもしれない。いや、きっと挙がっているはずだ。そうなのである。今さらなのである。アニメ化の話や、この科学アドベンチャーシリーズの新作「ROBOTICS;NOTES」が発表されたりして、シュタインズ・ゲートの話題に接する機会が増え、気になり出したのです……。

つい今しがた「ストーリーを重視します!」なんてことをいけしゃあしゃあと書いておきながらこんなことを言うのは大変心苦しいのだが、すでに発売から1年以上が経ち、とくにストーリーに関してはゼロ年代屈指との呼び声も高いこのシュタインズ・ゲートを、ぼくは最近になるまでプレイしていなかったのだ! まさに一生の不覚である。

なぜ発売当時にやろうとしなかったのか、過去の自分に文句を言いたい

しかし、世の中にはきっと最近までのぼくのように不幸な、そしてある意味では幸福な(なぜならこれからシュタインズ・ゲートを何も知らない状態でプレイできるからだ!)人々がまだまだ多くいるはず。今回はそんな方に向けて、過去の自分に向けて、Dメールを送るつもりでシュタインズ・ゲートの魅力をお伝えしていこうと思う。

濃密なSF設定と濃密な人物模様

なんだかいきなりシュタインズ・ゲートの面白さに対してハードルを上げまくってしまったが、ではいったいどんなストーリーなのか。

シュタインズ・ゲートは一言でいうと"ギャルゲー風味のSFアドベンチャー"である。

核になるのは「タイムリープマシン(タイムマシンとはちょっと違う)」の存在だ。偶然完成したタイムリープマシンを巡って、様々な人々の思惑が交錯し、やがて思いも寄らぬ衝撃的な事件が起こる。舞台となるのは東京・秋葉原で、基本的にはこの街の中だけで物語が展開していく。タイムリープ(時間移動)をテーマにしていることから、"縦軸"となる時間は頻繁に移動することになるが、一方で秋葉原という"横軸"は最後まで変わらない。このあたりのバランス感覚は実に絶妙だ。

また、タイムパラドックスに真っ向から切り込んだシナリオの完成度は、そのまま学会に出したくなるほど(!?)の説得力を持っている。まさか「親殺しのパラドックス」をこういう方向から解決してくるとは思わなかった。世界線、世界線変動率、アトラクタフィールド、SERN……想像力をかき立てる数々の設定が複雑な世界を作り上げる。これならコアなSFファンをも十分にうならせることができるのではないだろうか。

秋葉原はかなり現実に忠実に再現されている。よく行く人なら見知った場所も多いのでは?

キャラクターについても述べておかなければならないだろう。SFアドベンチャーとはいえ、ギャルゲー風味であるからにはもちろん主人公は男性であり、彼の周りにはたくさんの美少女がタイプ別に満遍なくそろっている。……もはやこのハーレムな状況自体がぼくからすればSFなのだが、それはさておき、これら主人公を含む登場キャラクターたちがそろいもそろって実に個性的なのである。

たとえば主人公の岡部倫太郎。彼は東京電機大学1回生で、重度の厨二病患者である。何も知らずにゲームをスタートさせたプレイヤーは、まず彼が名乗る「狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真」という名前に目を白黒させることになるだろう。ぼくも初めは何の冗談かと思ったが、残念ながら彼はマジである。シュタインズ・ゲートのストーリーは何度も言うように秀逸なのだが、この岡部倫太郎の口調とキャラに慣れるまでは少々読み進めるのがしんどいかもしれない。

岡部(白衣の男性)と、その仲間(ラボメン)たち

そんな岡部倫太郎の相棒となるのが、橋田至。通称はダル。「~だお」「常考」「あるあ……ねーよ」といったネットスラングを普通の会話に織り交ぜて喋るのが最大の特徴である。ぼくもネット歴は長いので当然これらのスラングはよく目にしてはいるものの、実際に耳で聞くのがこんなにも恥ずかしいものだったとは思わなかった。これはオフ会などで恥ずかしいハンドルネームをリアルに呼ばれたときのあの気持ちに似ている気がする。「マルコさん!」という呼びかけに何度後悔したことか……。

実は一番の萌えキャラとの噂もあるダル

いや、そんな話はどうでもよかった。とにかく岡部倫太郎とダル。メインで登場する男性キャラはこの二人のみとなる。あとはヒロインたちだ。ちなみに、シュタインズ・ゲートのキャラクターデザインは「ブラック★ロックシューター」のhuke氏が手がけている。

一人ひとり紹介してもいいのだが、紙幅が尽きそうなので(Webですけど)ザッとまとめて書いていこう。まずは高校2年生で岡部の幼なじみである、椎名まゆり。マイペースの天然キャラで、趣味はコスプレの衣装作りだ。

天然ながらも時折核心を突く不思議少女]

対照的にツンデレなのが、牧瀬紅莉栖。18歳にして飛び級でアメリカの大学を卒業した天才少女。彼女はとある理由で来日し、岡部たちと一緒にタイムリープに深く関わっていくことになる。

ぼくのイチオシである

そして桐生萌郁。編集プロダクションでバイトをしている20歳の彼女は、非常に無口で感情をほとんど表に見せないくせに、メールではやたらと饒舌である。

メールの方が饒舌というのは、ぼくも人のことは言えない

漆原るかはまゆりのクラスメイトで、岡部の厨二病な発言を信じてしまうほど純情な少年。おっと、いま少年と書いたのは間違いではない。るかは正真正銘の男なのだが、普段は巫女の格好をしており、流行の言葉で言うところの"男の娘"なのである。

"男の娘"だからこその良さがわかってきたら……

フェイリス・ニャンニャンはメイド喫茶の人気ナンバー1メイド。なんと岡部を上回る厨二病で、彼ら二人の会話はもう見ているこっちが辛くなってくるほどだ。

最初と最後でどんどん印象が変わっていったキャラ

最後に阿万音鈴羽。彼女は岡部たちの溜り場である「ラボ」の入っているビル1階にある電気屋で働くバイトだ。元気いっぱいだが、どこか世間知らずなところがある。

まゆりとは違う意味で不思議少女

──以上がこのゲームのヒロインとなる。

ギャルゲー風味でヒロインがいるからには、そう、もちろん本作はマルチエンドを採用している。しかしそれは選択肢を選んだり、特定のキャラと仲良くして恋に落ちるといった類のシステムではない。

ここは賛否両論あるところかもしれないが、本作では選択肢というものがほとんど存在しない。ただひたすら文章を読んでいくのみなのである。ではどこでストーリーが分岐するのかだが、これについては「フォーントリガーシステム」というシステムが採用されている。

携帯電話がストーリーにおいても本作のキーの一つとなる

聞き慣れない言葉だが、これはストーリーを進める途中で携帯電話に届くメールにどう返信するかでその後の展開が変わっていくというシステムのこと。

これなら従来のアドベンチャーでありがちだった選択肢を選ぶという"いかにもゲームっぽい"作業を要求されずに、プレイヤーがより物語に集中できるというわけなのだ。

ストーリーに絶対の自信があり、それをもっとも良い形で見せるシステムを模索した結果、生まれたシステムと言えるだろう。

どこかで見たようなこの掲示板は「@ちゃんねる」。全体的にネットに詳しい人ほど楽しめる内容になっている

大丈夫、やりこみ3日間で感動に到達します

さて、ここまでシュタインズ・ゲートを紹介してきた。ネタバレするわけにもいかないので、多くのゲームファンを感動させた核心については触れられない。そこは自身で体験してほしい。すべてのストーリーに到達したときの達成感、そして全身脱力するような解放感は、シュタインズ・ゲートがユーザーを深く引き込む力を持つ証明だろう。

シュタインズ・ゲートは、とにかく制作者による"熱"がこれでもかと詰まった、非常にアツいゲームなのである。作った人たちはこの作品にどんな想いを込めたのだろう。なにせ、シュタゲは終わっても終われないゲームなのだ。ドラマCDも発売されていて、ゲーム中のストーリーを補完したり、その後のストーリーも展開されている。ファンもそれを熱望しているわけで、制作者以上のアツい気持ちでいまだにシュタゲの世界を追い続けているのだ。

ひとまず本作の面白さ──というか"濃さ"のようなものは伝わっただろうか。

……え、忙しい?

大丈夫、シュタインズ・ゲートのテキストボリュームは膨大ではあるが、最近のRPGのように100時間オーバーするような類のゲームではない。

今から始めてがっつりやりこめば──おそらく始めたが最後やめられなくなるだろうから──3日後には、きっとあなたはこの記事でぼくがここまでべた褒めした理由がわかるはずだ。

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