富士通の100%子会社である半導体ベンダ、富士通セミコンダクター(FSL)は11月4日に東京・汐留の富士通本社にて記者会見を開催し、ARMアーキテクチャの32ビットRISCコア「Cortex-M3」を内蔵した汎用マイコンの新シリーズ「FM3ファミリ」の最初の製品44品種を発表した。

マイコン業界では、FSLがCortex-M3内蔵の汎用マイコンを開発していることは周知となっている。今年(2010年)の春には、英ARMの日本法人アームが発行している顧客向け情報誌「IQマガジン日本語版」で「FM3ファミリ」(すでに製品ファミリ名が掲載されていた)の特集記事が組まれていた。今回の記者会見は、ようやく正式に製品系列を公表したものと言える。

記者会見では始めにFSLのマイコンソリューション事業本部で汎用品事業部長を務める布施武司氏が「FM3ファミリ」の位置付けを説明し、続いてマイコンソリューション事業本部のマーケティング統括部で汎用品マーケティング部の担当部長を務める細田秀樹氏が「FM3ファミリ」の製品概要を具体的に解説した。

富士通セミコンダクターのマイコンソリューション事業本部で汎用品事業部長を務める布施武司氏

富士通セミコンダクターのマイコンソリューション事業本部マーケティング統括部で汎用品マーケティング部の担当部長を務める細田秀樹氏

「FM3ファミリ」は、民生分野と産業分野をカバーする次期主力マイコンと位置付けられる。これまで民生/産業分野に供給してきた32ビット・マイコンの「FRファミリ」と16ビット・マイコンの「F2MC-16LXファミリ」を置き換える。これらはいずれも独自アーキテクチャのCPUコアを内蔵するマイコンであり、Cortex-M3コアの採用によってFSLの民生/産業向けマイコン事業は舵を大きく切ることになる。

富士通セミコンダクターのマイコン事業。2009年における日本国内市場のシェアは2位、世界市場のシェアは8位

マイコン(MCU)用CPUコアのロードマップ。FM3ファミリは、「ハイパフォーマンスライン」と呼ぶ高性能品のサブファミリと、「ローパワーライン」と呼ぶ低消費電力品のサブファミリで構成される

「FM3ファミリ」は、「ハイパフォーマンスライン」と呼ぶ高性能品のサブファミリと、「ローパワーライン」と呼ぶ低消費電力品のサブファミリで構成される。「ハイパフォーマンスライン」はさらに、「ハイパフォーマンスグループ」と呼ぶFA向けの製品グループと、「ベーシックグループ」と呼ぶ白物家電向けの製品グループに分かれる。また「ローパワーライン」は、「ローパワーグループ」と呼ぶホーム・アプライアンス向けの製品グループと、「ウルトラローパワーグループ」と呼ぶバッテリ駆動機器向けの製品グループに大別される。

11月4日に発表された最初の製品群は、「ハイパフォーマンスグループ」の「MB9BF500/400/300/100シリーズ」と、「ベーシックグループ」の「MB9AF100シリーズ」である。いずれもフラッシュメモリを内蔵する、フラッシュマイコンだ。

「MB9BF500/400/300/100シリーズ」は最大動作周波数が80MHz、フラッシュメモリ容量が256K/384K/512KB。USB 2.0ホストコントローラ回路やCANインタフェース回路を内蔵した製品など、周辺回路やフラッシュメモリ容量、パッケージの異なる合計36品種を用意した。

「MB9AF100シリーズ」は最大動作周波数が40MHz、フラッシュメモリ容量が128K/256KB。フラッシュメモリ容量とパッケージの異なる合計8品種を用意した。

「FM3ファミリ」の製品ロードマップ。2つのサブファミリと4つのグループに分かれている。図中にはサンプル出荷の開始時期が2010年10月とあるが、記者会見および製品リリースでは2010年11月下旬となっていた。量産開始時期は2011年1月下旬の予定

「FM3ファミリ」の最初の製品群。11月4日に発表されたもの

Cortex-M3コアを内蔵する汎用マイコンを製品化している半導体ベンダには、東芝やNXP Semiconductors、STMicroelectronics、Texas Instruments(TI)などがある。これらの競合ベンダに対し、FSLは信頼性の高いフラッシュメモリ技術や2.7V~5.5Vと広い電源電圧範囲などで差異化していくとする。

マイコン用フラッシュメモリ技術は10万回と既存製品に比べて1桁~2桁高い書き換えサイクル数と、20年と既存製品の2倍に相当するデータ保持期間を有する。また読み出しサイクル時間が短く、CPUコアに対してノーウェイトで60MHzまで対応する。

開発環境では、IAR SystemsとKEILがそれぞれ2011年3月にスターターキットを発売予定であるとの説明があった。

IAR Systemsのスターターキット

KEILのスターターキット

なおFSLのマイコン事業は、自動車用と民生/産業用に大きく分かれている。自動車用にはCortex-M3は採用せず、引き続き独自アーキテクチャのFRコアを内蔵したマイコン製品を開発、提供していく。