自動車の分野においてAMR(異方性磁気抵抗)効果は多くのセンサアプリケーションの基盤となっているが、中でもライフタイムを通じた安定性、温度、堅牢性の部分において、AMRセンサは高い性能を示している。

スロットルやDBW(drive-by-wire)、SBW(steer-by-wire)などの機械システムにおいて角度の測定は重要なアプリケーションの1つだが、機械システムの効率を高めるAMRセンサは、環境にやさしい自動車の開発に直接貢献している。本レポートでは、NXP Semiconductorsの角度センサ「KMA210」を例に、AMRをベースとした角度センサの実際を検証する。

1. はじめに

自動車の安全性、利便性、環境への配慮などを高める上で、角度センサはペダルセンサ、スロットル、可変バルブドライブ、SBWシステムなどのすべての基盤になっている。CO2排出に対する新しい規制や燃料費の高騰などを背景に、「ドライブ」のコンセプトの最適化が求められている現在、自動車の効率向上は最も重要な課題となってきている。この部分において、センサは非常に大きな役割を果たしている。

既存のセンサには複数の重要な要件を満たすことが求められるが、特にAMR効果に基づくインテリジェントな磁場センサは、これらのニーズを満たす最適なセンサだ。機械的コンポーネントの角度を測定する上で、これらのセンサシステムは非接触・耐摩耗型のソリューションとして使われている。高い温度特性に加え、これらのシステムはそのライフタイム全体を通じて最大限の堅牢性と安定性を発揮する。これらの属性によって、高いレベルの生産品質、経年変化、環境の変化に対する高い耐性が求められる自動車アプリケーションでの利用が可能となっている。

NXPのセンサシステム「KMA210」(図1)ではモジュール式のアプローチが採用されている。センサ自体と信号処理ステージに加え、稼働に必要なすべての補助的コンポーネントが1つのデバイスに統合されているので、外部コンポーネントを実装したプリント回路基板は不要だ。

また、このモジュールはEMCに求められる通常の要件を満たしながら直接マウントできるため、システムのトータルコストを削減できる。測定精度も、従来のモデルに比べ高められている。例えばKMA210の仕様における直線性誤差は温度範囲-40~+160℃で±1.0℃、温度ドリフト誤差はおよそ0.4°だ(温度25℃時)。

さらに、総合的な診断機能と過電圧保護(最大16V)などの追加機能を通じ、システム全体の堅牢性も高められている。次からは、磁路の最適化により実現された測定精度の向上に焦点をあてながら、ドライブトレインアプリケーションにおける角度センサの活用について、概要を説明したい。

図1 「KMA210」は角度測定用に統合されたセンサシステムとなっている

2. センサシステム

基本的に、今日のAMRベースのセンサシステムは基本センサ部と信号処理ASIC部の2つのコンポーネントで構成されている(図1)。1857年にケルビンが発見したAMR効果[1]は、磁場の検出で役立つことが実証されている。

生産は、通常複数の個別の磁区で構成されている強磁性材料から始まる[2]。これらのいわゆるWeiss区では、磁力の方向が異なっている。このような材料を薄い層として適用すると、磁化ベクトルはその層内に閉じ込められる。磁区が1つだけであると言い替えてもいいだろう。このような要素が外部の磁場に触れると、内部の磁化ベクトルが変化する[3]。この要素内を電流が流れた場合の電気抵抗は、電流の方向と磁化の角度によって決まる。抵抗は電流と磁化がお互いに直角のとき最も小さく、平行となった場合に最大となる。抵抗の大きさは材料によって変わるが、強磁性材料のタイプもまた温度への依存性に影響を及ぼす。最大の抵抗変化(2.2%)と優位な温度特性の組合せで最も優れた値を示すのは、ニッケル(81%)と鉄(19%)の合金だ[2]。通常、AMR抵抗器は出力信号の増幅と温度挙動の向上のためホイートストンブリッジとして構成される。AMR角度センサは、交互に45°で重ねられた2つの抵抗ブリッジで構成されている。一般的な測定セットアップは図3のとおりで、図4はダイにおける両抵抗ブリッジの配置を示す。

図2 AMR効果

図3 角度検出セットアップ

図4 一般的な角度検出用AMRダイ。Sensor A:A=a sin(2α)、Sensor B:B=b cos(2α)

角度を検出するためには、ブリッジAとブリッジBの出力信号の割合を計算しなければならない。続けて、逆正接関数を使用して角度を直接計算することが可能だ。図5はNXPが提供する角度測定のインテリジェントセンサシステムの構成だ。両AMRブリッジの出力信号は増幅、デジタル化される。角度計算自体はデジタルロジックステージによって実行される。デバイスによって、角度はデジタル形式かアナログ形式のいずれかで出力される。NXPのセンサシステムは、すべてのピンについて-40~+160℃の温度範囲および最高26Vの過電圧保護を含め、自動車アプリケーションの要件を満たしている。他にも自己診断、アナログ/デジタルインタフェース、温度のモニタリングなどの機能に加え、ユーザーによるプログラミングも可能だ。

図5 角度測定用センサシステムのコンポーネント

KMA210は、図5で示したコンセプトをベースにしている。図6のように、ブロッキングコンデンサと出力コンデンサも統合されているので、外部コンポーネントは不要だ。従来のインテリジェントセンサシステムと比較して、精度およびEMCパフォーマンスも強化されている。SOIベースの140nm ABCD9 CMOSプロセスによって実装されている信号処理ASICによって、高いEMCパフォーマンスを実現しているとともに、高電圧、低消費電力といった要件も満たしている。

図6 KMA210のコンポーネント