高速データ転送技術"MIMO"

MIMO(Multiple-input and Multiple-output)は、将来の無線データ伝送システムにおいて、高速データレートを実現する技術の1つとして期待されている。MIMOを活用することで、複数のデータ・ストリームを送信できるため、システムのスループットを向上させることができる。このため、現在MIMOは、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)やTD-SCDMA(Time Division Synchronous Code Division Multiple Access)、LTE(Long Term Evolution)といった多くの3Gと4Gの無線通信規格で採用されている。

従来のアプローチでは、受信側(Rx)と送信側(Tx)の間での情報のやりとりを行わない。チャネル情報の取得や、データ・ストリームのデコード(復調)は受信側(Rx)だけで行われている。このため受信側(Rx)に重く複雑な負荷が掛かり、チャネルのダイバーシティやキャパシティをシステムが最大限に活用できないという問題が発生する。こうしたシステムは「オープンループ型システム」と呼ばれる。

現在、ほとんどの無線通信規格において、携帯端末機とBTS(Base Transceiver Station:無線基地局)の間に、制限フィードバック・チャネルが割り当てられている。このチャネルは、さまざまな目的で使用することができるが、特にチャネルに関する重要な情報をBTSに返送するために利用される。こうした情報を返送することで、簡易的な空間ダイバーシティとマルチプレキシング(多重伝送)が可能になり、システムの実効的なSN比(Signal-to-noise ratio)が向上する。さらに、受信側のアーキテクチャを簡素化できる可能性もある。このようなシステムを「クローズドループ型システム」と呼ぶ。

今回は、オープンループ型MIMO技術とクローズドループ型MIMO技術における複雑性とパフォーマンスの両面から検証していこうと思う。理論的な限界については、これまでも研究論文で大いに議論されてきたが、関連する回路を実装する際に生じる複雑性については非常に限られた情報しかない。ここでは、両方式の比較を行い、実用的なシステムへの適用に向けた経験則を紹介したいと思う。