まだまだ少ない男性の育児休暇取得率

厚生労働省が8月に発表した「平成19年度雇用均等基本調査」によると、2007年度における育児休業取得率は女性が89.7%、男性が1.56%。前回調査の2005年度が女性72.3%、男性0.56%だったのに対して、ともに上昇した。しかし、男性の取得率は依然として低い水準にあり、政府が2009年度までに目標としている男性の育児休業取得率10%にはまだまだほど遠い。その一方で、厚生労働省が5月に公表した「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」によると、育児休業を利用したいと考える割合は男性で31.8%にものぼることも明らかになっている。

また、育児休業制度の取得状況では企業間格差が生じていることも明らかになった。法律を上回る育児休業制度を導入している企業は従業員規模が大きいほど割合が高く、当然ながら出産後も就労を続ける女性の割合も高くなる。「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」では、「子を出産しても継続して就業している」と答えた割合が、従業員規模1,000人以上の企業では63.5%にのぼるのに対して、10 - 29人の企業ではわずか27.7%と3割を下回る結果となった。

しかしながら、育児休業の取得状況は、男女差や企業の整備状況だけに左右されているわけではない。従業員がいかに制度を認知/熟知しているかもカギとなるのだ。同じく厚生労働省の調査で、制度利用(希望)者と管理職、一般従業員で自社の育児休業制度の認知度を調べたところ、それぞれの間で格差が認められた。たとえば、育児休業の期間について制度利用者は76%が認知しているのに対し、管理職は57.9%、一般従業員は69.9%だった。このような調査結果が示すとおり、企業が思うように従業員は育児支援制度を認知しておらず、会社としてさまざまな制度が用意されていながらも、実際に利用されないケースが多々あることが容易に推測される。

三者三様の偏見がWLB実現を妨げる!?

こうした状況に対して、積極的な取り組みを行っている企業が日本ヒューレットパッカード(日本HP)だ。日本HPでは、育児休業取得希望者を対象にした「産休・育休に関する説明会・交流会」を定期的に行っている。同社では2008年8月時点での育児休業取得者は女性26名、男性11名、復職後の短縮勤務は女性20名、男性1名が利用している。9月11日に行われた会では約60名が参加し、そのうちの半数が男性社員だった。

9月11日に日本ヒューレット・パッカード 荻窪事業所で開催された「産休・育休に関する説明会・交流会」では、男性社員の姿が半数近かった

説明会では、人事担当者が同社の出産・育児関連制度について、妊娠から産休・育休までの"妊娠期"、産休・育休から復職までの"産休・育休期"、復帰後の"復職期"の3つのフェーズごとに説明。Webを利用した育児休職の申請方法から、上司と相談すべき項目、復職後の育児に関する情報など細かなケーススタディが解説される。

実際の育児休業利用経験者や、育児休業をしている部下を持つ社員が登壇し、経験談やノウハウを語る機会が設けられるのも特徴だ。9月11日に開かれた説明会では、同社労働組合の福田恭子氏が「産休・育休に関するTips」として講演を行った。福田氏によると、産休・育休の注意点はそれぞれの立場で"思い込み"にあるという。妊娠・育児中の女性は、「言ってもわかってくれないだろうから」、「私は妊娠している」「子供がいて大変」「私には育児に関する制度を使う権利があるんだから」、男性の場合は「男のくせに、育児休職取ったり、短縮勤務を利用したいなんて言ったら、マネージャはいい顔しないだろうし、周りに迷惑が掛かるだろうなあ」「キャリアに響くだろう」、マネージャには「だから女性は使いづらいんだ」「育児しながらの仕事は大変だろうから、仕事量を減らした方がいいかな?」「なんで男が育児をするんだ」というようなそれぞれ別の思い込みに陥りやすいという。

WLB実現の基本も"コミュニケーション"

小出伸一社長も説明会に出席。WLB実現は、会社のトップが真摯に取り組む姿勢を見せることが成功のカギだと言われる

こうした状況に対しては「お互いを理解しようとする努力・気持ちを第一に」と、福田氏は提言し、産前・休職中、復職後を通じた、職場内のコミュニケーションの大切さを強調した。また、復職後のポイントとして「あれもこれもと頑張りすぎないこと。自分の状況をよくチームメンバーに伝えておくこと。日ごろから円滑なコミュニケーションができていれば、スムーズに周囲に引継ぎを頼める」と助言した。

一方、同社C&I統括本部ビジネスオペレーション本部の蛭町明彦氏は、実際に育児中の部下を持つ上司の立場としてアドバイス。「育児と仕事の両立のカギは、タイムマネジメントとリスクマネジメント。物理的な制限の中でどう効率よくやっていくか。さらに問題が起きた際のシナリオを作っておき、リスクに対する備えをしておくこと。そういう意味では子育てと仕事の両立は、将来のキャリアのハンディでは決してない。むしろ重要なトレーニングになる」と、自身の経験談を交えながら叱咤激励した。

また、説明会の冒頭には、同社代表取締役社長の小出伸一氏も出席。「仕事と家庭の両立は、会社と本人の意志があって初めて成立するもの。家族、会社のサポートだけでなく、本人の自覚が重要。制度を十分に理解して活用して、我々のキャピタルを実行してほしい」と参加者を激励し、会社としてワークライフバランスに取り組む同社の意識の高さを伺わせた。