20世紀を代表するアメリカ人デザイナー、チャールズ&レイ・イームズ夫妻。彼らのデザインしたファイバーグラス・チェアは世界中の人々に愛されている。しかしイームズが建築家や映像作家としても優れた才能を持ち合わせたマルチ・クリエイターであったことは、それほど知られていない。今回紹介する『チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX』では、そんなイームズ夫婦の映像作家としての顔に触れることができる。

『チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX』はイームズの生誕100周年を記念して発売された、貴重な短編映像作品集である。代表作『パワーズ・オブ・テン』ほか、日本初収録となる短編を含む計37作品が収録されている。デジカメもパソコンもCGもなかった時代に実写やアニメ、スライドショーなどあらゆる技法を駆使し、イームズは優れた映像作品を制作した。

イームズの名を不動のものとしたファイバーグラス・チェア

イームズによる実写映像作品『小さな水クラゲ』

『デザイン Q&A』にイームズ哲学を学ぶ

デザインに関する質問にチャールズ・イームズが肉声で答えていく『デザイン Q&A』。彼の持つデザイン哲学の一端に触れることができる、貴重な映像作品だ。

「デザインの定義は、目的を達成するために必要な要素を組み立てること」、「デザインの研磨と普及のための第一条件は、必要性の認識」、「デザインは先人達からの影響を常に受けている」、「妥協を強要された覚えはないが、制約は喜んで受け入れてきた」、「デザインの制約の多くは倫理である」など、チャールズ・イームズの貴重な発言が数多く収録されている。

『パワーズ・オブ・テン』に万物のスケール感を学ぶ

イームズが制作した映像の中で最も知られていると思われる作品が『パワーズ・オブ・テン』(1977年)。まず、シカゴの公園に寝そべる男女を出発点として10のn乗ごとに視点が離れ、宇宙の果てまでたどり着く。その後、再びシカゴの男女までハイスピードで近づいて、男の細胞を構成する原子までカメラが迫るという、実験的な映像作品だ。細胞から形成された人間、人間が暮らす地球、地球を含む太陽系、そして、太陽系さえ一部に過ぎない銀河まで、途方もないスケール感を感じることができる作品だ。

CGのない時代に実写(動画・スチール)とアニメーションをシームレスに見せ、「見てみたい世界」を作り出そうと試みた本作。ハリウッドを中心にSFX技術が発達し、「見たこともない世界」を容易に作れるようになった現在だからこそ、改めてこの作品の凄さが実感できる。なお、DVDには『パワーズ・オブ・テン:ラフ・スケッチ』も収録。なお、この『パワーズ・オブ・テン』は天文学の教材としても使用されている。